第62話 きっかけ
「いっくん、いいの?」「虎杖、いいのか?」
そのまま、二人を見送ってたんだが、途中振り返って軽く手を振るリナの仕草が、小学校に時に会えなくなった日を思い出させる様な。そんな記憶を思い出せたんだ。
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「いっくん、いっくん?」
ん? あれ、今、俺は何をしてるんだっけ?
そう思って、状況を確認すると。どうやら学校を出た帰り道の様だ。
目の前には彼女のサオリが居て、その豊満な胸に俺の腕に挟んでいた。
とても幸せな筈なんだが、どうにも集中出来ない。
「ん? なんだサオリ」
「さっきからずっと上の空だよ? やっぱ気になるの?」
「そう、かも………」
「はぁ、アタシの彼氏がすでに浮気者な件について………」
「いや、そんな事ないって」
「あるじゃんっ」
「……ないよ」
「アタシは気になるけどね」
「えっ?」
一体、俺の彼女は何を言ってるんだ。浮気はダメって言ってたじゃないか。そう思って、そのまま見つめ合ってしまっていた。そして、その間は、なんとなく気まずくて無言だった。勿論、手は恋人繋ぎをしているんだけれど。それも、何か胸が高鳴る感じではなくて、ただただ離れたく無いと言うだけだった気がする。
「もう一度、言うけれど。いいの?」
「だから何が」
「最近、楽しそうだったのに。今は楽しそうに見えないよ?」
「彼女が居て楽しくないわけなんかないだろ。何言ってんだ」
そう言いつつも、俺は彼女から目をそらしてしまっている。いや、本当は分かってるんだ。自分の心が何を求めて入るかなんて事は……でも、それは良い事じゃない。
「はぁ、素直じゃないな。いっくんは、どうしてこう捻くれてるのかなぁ?」
「いや、だって」
「だっても何もないでしょ。そんな顔をしてさ」
そう言われたので、自分の顔を触ってみるが自分ではよく分からない。分からないんだ………そう思ってると、サオリが自分の手鏡を貸してくれた。
うん、これは酷い。昨日、洗面台で見た時並みに酷い。
コイツ昨日、彼女が出来た顔をしてない。
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幼馴染 沙織(サオリ)視点
アタシの彼氏は浮気者だ。
彼女出来たばかりで、他の女の娘の事も気になるだなんて。
さっき、学校で分かれた時のリナちゃんは、小学校を転校した時の姿が重なってしまった。もうどっかに行っちゃうのかな? とそんな風に思ってしまった。
初めて、小学校でアタシ達幼馴染に声を掛けて来た時は、邪魔な娘って言う印象だった。だって、いっくんと一緒に居たいのにアタシ達の間に割って入ってくるんだ。それは、今も昔も変わらない。
でも、ある日、いっくんの弟君とも一緒に遊んだ時、リナちゃんは、誰にで距離感がちょっと近い娘だって事が分かった。昔は黒髪に近かったけれど、少し明るい色をしていて、なんだかちょっと大人っぽい印象だったんだ。今、アタシが髪の毛の色を明るくしているのは、その時のリナちゃんをイメージしてだったりする。
それまでのいっくんはアタシ以外の女の娘に興味を持った事がなかったんだ。いつでも構ってくれたし。他の男子と遊んでる事はあったけれど、他の女子とは遊んでなかった。それが変わってしまったあの日。私は焦ったんだ。アタシも何か変わらないと行けないって。
でも、すぐにはそれが出来なかった。いっくんは、中学に入ってからどこか捻くれてしまって、周りの子と遊ばなくなったし。アタシにも素っ気ない態度を取ってた。けれど、中学二年生になって胸が大きくなり始めてから、周りの男子の視線が気になる。と言う事を相談したら「あぁ、それ俺も思ってた。あと周りの男子も言ってたな」なんて言うから、つい怒ってしまったんだけれど。
「なんか、こうやってサオリと喧嘩するのも新鮮だな。お前、ずっと大人しかったし」
「そ、そう? 意識してくれた?」
「何を意識するんだか分からないが、気にはなるよ」
「も、もっと頑張るよ!」
「何を頑張るんだか………まぁ、とりあえず頑張れ?」
そう言われたので、今まで大人しかった自分を変えようと努力をする事にした。
小学校の時に、すでにリナちゃんの事が気になってたのはなんとなく感じてる。いっくんは、あぁ言う明るくて、すぐ仲良くなれるタイプの娘が好きなんじゃ無いかと思う。アタシは幼馴染だから相手してるだけで、周りの誰かに言われたら疎遠になってしまう様なそんな立場なんだと思ってしまう。
それじゃ嫌なんだ。だから、いっくん好みの女の娘になろう。そう決めて色々やってみた。ただ、やればやる程、彼の好みとは、ずれてしまっている様な気もして居た。けれど、あの日、告白されて間違ってなかったと思ったんだ。まぁ、いきなり結婚とか言われて、びっくりして断ってしまったけれど。
捻くれてるのは、今も相変わらずだけど。
ちゃんと話してくれたら、検討はするのにな。そう思う。
まぁ、検討するだけでいっくんの『一番』は譲らないけどね。
つづく
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あとがき
サオリの回想シーン。
陽キャにイメチェンしようとしたキッカケ。
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