猫の町滞在記
瑠璃
猫の町滞在記
私は猫の町に5日間滞在した。
猫の町とは、街での仕事に疲れた人が帰ることのできる町である。
ある夜、日々の生活に疲れた私は、無数の星が輝いているはずの空を見上げた。
わたしは無性に猫の町に行きたくなった。
猫の町の扉が開く条件は揃っていた。
次の日、猫の町までの切符を買いわたしは汽車に乗り込んだ。
私にとって、最近の街での生活はいささか忙しすぎた。
猫の町の駅に降り立つと2人の住人が迎えに出てきた。
「ここから貴女の猫の町には車で1時間弱かかります」と年老いた雌猫が言った。
「長旅でお腹も空いていましょう、蕎麦屋で昼食を済ませてから猫の町へ参りましょう」
私は、わかったと返事をして猫が乗ってきた車に乗った。
私が前回、猫の町に来たのは2ヶ月前だった。
前回、猫の町から街へ戻ってから、町での生活は余りにも忙しく、
それらに耐えられなくなった私は今回猫の町に行くことを決意したのだ。
決意と言っても、そんなたいそうなものではなく、
体が動くままリュックサックのなかに最近買った本を何冊か入れ、
替えの洋服一つとパジャマを持ち、電車へ乗り込んだのだった。
私はここに来なければいけない気がした。私の中の何かが強い力で猫の町へ私を引っ張っていた。猫の町に行く以外のことは考えられなかった。
全てに時がある。その時は感覚を研ぎ澄まし訓練を重ねてきた人には確実にわかる。
猫の町へ行く時を感じることができるし、猫の町から帰る時もわかる。
その時は逃してはいけないのだ。
その時を逃してしまえば街へは帰れない。猫の町とはそういうところだった。
蕎麦屋で昼食をとり、30分ほどで私は猫の町へやってきた。
猫の町は2ヶ月前と全く変わっていなかった。
どこか安心できる雰囲気と、他者からの目が全くない森の中、そこが私の猫の町だった。
猫の町にいる5日間、私は本を読み、昼寝をし、湯船につかり、解放を満喫した。
その間に、私は街で行われている日常に思いを寄せた。
私がこうしている間に街の私の日常は何事もなく進行しているのだ。
私は仕事関係の電話を色々な人にかけた、猫の町で処理するべきことは全てここでやってしまおうと思ったからだ。
友人にも電話をかけた、2人とも親身に、しかしちょうど良い距離感で私と話してくれた。
それは対話と呼ぶに相応しいものだった。
これは猫の町でしかできないことなのだ。
そうして4日が過ぎることとなった。
4日目の夜、私は街へ帰ろうとふと思った。
明日がその時なのだ。
これを逃してしまうともう猫の町からは出られない。
私は、街の暮らしに疲れた自分がしばらく猫の町にいると、気持ちが落ち着き街の生活へ戻れることを知っていた。
しかし、自分がその時を確実につかめている確信はなかった。
毎回うまく時が分かるだけで、全て偶然なのではないかという疑惑もあった。
今回は、それを試すためにも猫の町へ来たのだ。
私に必要なのは時間だった。
猫の町で流れる時間だったのだ。
その時間は見事に私の疲れを取り去り、再び街へ戻ろうと決意させてくれたのだ。
そして私は今、街へ帰る汽車の中にいる。
END 2016.2 部活に行きたくなくなった時
猫の町滞在記 瑠璃 @lapislazuli22
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