第2話  出会い

 ダリは、何時ものように館を抜け出して来たエイミアと大山脈を望める丘に来ては、勉学の用意を始めた。


「今日は、何の教科の勉強なの?」


「古代レトア語だよ。古い書物はこれで書かれているからね。君も読むかい?」


 ダリの質問にエイミアは思い切りかぶりを振る。


「や~~よ!! 古代レトア語なんて聖典だけで十分!! 何が書いてあるか分かんないし、発音は難しいし……とにかく嫌!」


 エイミアは、それならと花摘みに行ってしまった。(トイレではない)

 いつものことである。

 彼女は、お館で必要な教養は身につけられる。

 だが、ダリは自分で勉学に励んでいくしかなかった。

 いつか、必要となることを信じて……


 辞書を片手に古書を読み進めていくのは、結構難儀な作業である。

 今読んでいる本も、辞書もエイミアがダリのために用意したものだった。

 谷長の家には古書など、山ほどあるし辞書を使う者などいなかった。

 勉強がしたいのに教材がないというダリのために、提供してるのだ。

 だったら、谷の神殿付属の学問所へ行けば良いことだが、そこは親代わりが、金を出してくれないという矛盾に悩まされていた。


 母代わりのベラは、お金の大好きな人だ。

 上玉な客が来ると、ぼったっくって、金を取っていく。

 反対にバズは、賭博が好きな性悪男だった。

 二人は年中ケンカをしていた。


 どうしてこんな人たちの手を取ってしまったのだろう……

 ダリは今でも、後悔することがある。

 でも、そうしていなければエイミアとは出会えてなかった。変な話だ。


 辞書の中に花冠と言う言葉を見つけて、ダリはフッと微笑んだ。

 そして、10年前のことを思い出していた。


 デュール谷は広大だ。

 大きな街のディムデルム、小さな村のディニル村、ディスヴァ砦に谷の中心部にある谷村とあと、いくつかの地域を総称してデュール谷と呼んでいる。


 ダリは六歳の時に両親を失って、大国のヴィスティンから逃げるように出て、真っすぐに北へ向かった。

 理由は知らないが、何かから逃げてるようにも見えた。

 それがここまで来て、これより北へ行けなくなったのである。

 向こう側の景色は見えているのに、行こうとすると、はじき出される様に押し戻されてしまうのだ。


 一昼夜、そこでウロウロしていたら、谷に行商に来たという商人と出会い、谷への入り方を教えてもらった。

 そして、そこが谷の結界であることも。


 谷への結界の内側に長く放置された家を見つけた。

 ベラとバズは、勝手に家に手を入れ始め、ダリはその辺に放置された。


「ここ何が出来るの~?」


 舌足らずな声で聞いて来たのが、初めて結界の外を旅して来たというエイミアだった。

 エイミアの育ての親、ミジェーリアがどうしてもと、乞われて他国まで治療に行った帰りだ。


 ミジェーリアは二人をジロリと睨んだが、何も言わずに通り過ぎて行こうとした。

 金色と銀色の混じった髪をひっつめた彼女は治療用の鞄を持って先頭を歩いていた。

 後ろを、頭に花冠を乗せたエイミアが下男に抱かれてやってきた。


 エイミアは足場の悪い所をダリの所までやって来ると


「私の王子様、見つけた~これ、あげる」


 と言って、自分のかぶっていた花冠をダリの頭にのせてきた。


「? どういう事?」


「私、ずっと待ってたの。私だけの王子様になってくれる人」


「それ、僕の事だって言うの?」


「そうよ~」


 エイミアはニッコリ。

 人に飢えてたダリもつられて笑ってしまった。

 この時エイミアは4歳、ダリは6歳である。


 次の日からエイミアは昼から、ダリの前に現れることになる。

 エイミアは、下男に抱かれてやって来るので、ダリは、この谷の二の姫だという事はわりとすぐに知ることが出来た。


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