第3話  初めてのキス


 初めてのキスは2年前だった。

 ディニル村という小さな村で15年に一度大きな祭があった。

 村中に魔族の嫌いな篝火を焚き、火竜に見立てた人形が、村を練り歩くのである。


 だが、エイミアの顔は曇っていた。

 一緒に来る約束をしていた父代わりの伯父が、来れなくなった為だ。


「君の伯父上は強く見えないけど、騎士団長なんだろう?」


 ダリはわざと、伯父のレフの悪口を言った。


「伯父様を悪く言うと、ダリでも怒るわよ。守護の森からこの世界を守ってるんだからから!」


 確かに、とダリは思う。

 エイミアの伯父のレフは、もとはSSSランクの魔法使いだった。だが、死に至るようなケガをして魔力を失った。

 それでも、騎士として、第二の人生をちゃんと送っている。

 逃げるように故郷を出てきたダリは、半分ならず者のような人たちに養われているのが、たまらなく悔しかった。


 なんとか、勉学を続けたい。

 ダリは、閃いた。


 治療師のミシャールに古代レトア語を習おうと。

 幼い頃から谷長のところに出入りしているミシャール・ディスヴァは、幼い頃から賢く、谷長の孫たちの勉強の師でもあった。

 今は、治療師をしている。

 彼の仕事の暇なときに、古代レトア語を教えてもらおうと考えた。


 だが、これは半年経たずして、辞めになった。

 エイミアが、治療院にやって来るので、双方に支障が出てくるようになったためである。


 ダリの勉学はまた止まってしまった。


 根気よく自分で、辞書を引きながら古書とにらめっこの毎日である。

 こんなことをされても、エイミアのことは嫌いになれなかった。

 古書も、辞書もエイミアがいなければ、手に入れることすらできなかったのだ。

 宿屋の家に持って帰れば、取り上げられ、売られることが目に見えている。勉強道具の一式は、エイミアに預かってもらっていた。


「ほら、エイミア。火竜が来るよ」


「ねっ? 魔竜谷の火竜ってあんな感じかしらね?」


 ダリはハッとした。

 エイミアは魔竜谷の事故で父親を亡くしている。

 その亡骸は未だに見つかっていない……


「あ!ゴメン。ダリ、変な意味はないから……」


 エイミアは言ったが、

 どんな思いで火竜が見たいなんて思ったのだろう。

 そう思うと、堪らなくエイミアが愛しく感じた。

 まだ何か言いたげだった彼女の唇を、ダリは塞いだのだった。

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