メタモルフォーゼの花嫁 私が変わらなければ彼とは結婚できないの?~

月杜円香

第1話  ダリとエイミア  

 ここはデュール谷。

 恵み豊かな、聖なる光の加護多き土地。

 彼女はこの谷の谷長の姫君だ。

 金色の長い巻き毛を三つ編みにして、今日も裸足で、朝の礼拝を抜け出して来たのだろう。

 無邪気な顔で、ダリの方へ向かって走ってきた。

 14歳の年の割には大人っぽく見える外見は、父譲りらしいと聞いたことがある。

 谷長の子供、3兄弟の末っ子を父に持つらしい。

 というのも、彼女の父にも母にもダリは会ったことが無かった。


 大陸を横断する北の大山脈が見える丘で、待ち合わせするのが昔からの日課だった。

 ダリ(ダリウス)とエイミア(エミローザ)の付き合いは結構長い。


 ダリが、デュール谷へ来て間もなくの事だったから、もう10年くらいにはなるだろう。


 ダリの両親代わりの人は谷長の姫と関わることを喜んだが、積極的に谷の行事に関わることは拒んでいた。

 もともと、ヴィスティンからの流れ者である。

 デュール谷への入り口に、都合の良い大きさの空き家があり、勝手に改築して宿屋をやっているような人たちだ。


 そんな人たちでも、両親が死んで途方に暮れてていた時に声をかけてくれたのはこの人たちだけだった。

 他の父と親しくしていた友人も親戚も手のひらを返したように誰もダリのことを引き取ろうとしなかった。もう少しで、神殿の神官にされてしまうところだったが、ベラとバズの姉弟は、含みのある顔をしていたが、ダリのことを引き取ってくれた。

 二人の詳しい過去はダリも知らない。


 一方、谷長の家では、二の姫の朝の出奔を心よろしく思ってない。

 当たり前である。一の姫は、巫女になるべく、西域で教育されていると聞く。

 谷を統べている家の娘である。

 遊んでいる時間などないはずだ。

 ところが、エイミアはガチガチの風習な家の娘にしては、とても奔放に育ってしまった。


 幼くして、母は父とは違う男と失踪し、父を魔竜谷の事故で失ったという可哀そうな子だと、厳しいことで知られる谷を仕切っていたミジェーリアが甘やかしたためだと、みなが噂していた。


 ダリはせめて、月に一回の大礼拝に共に出ようと提案した。

 自分のことは良いが、エイミアの事まで悪く言われることは、耐えがたかった。


「おはよ~~!!」


「また、礼拝サボったね?」


「だって~私には関係ないことだし~」


 エイミアの少し膨らんだ顔を見てダリは笑みを漏らす。


「君の姉さんは、もう聖典を暗記してるる頃だよ」


「二つも年上よ!それにダリのお嫁さんになるって言う未来が見えてる私に聖典なんか必要ないわ」


 ダリはエイミアのことを抱き締めたい衝動にかられた。

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