本当の覚醒

「ソルさんが言うには、敵は完全な邪神なんだって。中に誰が入っているわけでもなく、ちゃんと分離した邪神なんだって。その分肉体的な制約が無くて強いらしいよ」


 移動しながら黒江が説明してくれる。


「元は誰なんだ? 俺でもネルでも無くて、ルナやソルでもないんだろ?」

「リルさんが、気配からしてエルフだろうって言ってた。でも、リルさんが知らない人らしいよ?」

「じゃあ、二代目か?」


 知っていて、且つ強いエルフと言われたら真っ先に思いついたのは二代目だった。二代目に対しては俺が致命傷を与えたはずだが、それでも致命傷。レベルの上昇も見られないし、生きていたはずだ。そしてクイーンエルフである彼女ならすぐに回復し、ここまで来ることなら出来るだろう。

 それで、ネルの状態でも見てしまったのだろうか。


 そういえば、確か二代目はネルが邪神になった影響を受けて冥府の力や邪神の力を宿していた気がする。それもあって原初の七魔獣という特別な存在のネルよりも強い邪神として覚醒してしまったのかもしれない。

 確か、邪神として本人から分離した前例はソルの零酷停王しかないのだったか。


「ん、たぶん、核の気配からして、そう」

「分かるのか?」

「ん。精霊が言ってる。間違いない」


 おいおい、遂に相手の核を見て情報を得られるようになったのかよ。精霊使役権って権利は化け物だな。


「あ、そうだ。ね、司。名前の無い剣、持ってる?」

「名前の無い剣? ああ、あれのことか」


 名前:――

 耐久力:1/1 攻撃力:0 魔力:0


 最初見た時は棒切れよりも低いステータスに逆に驚いた。だけどかなが一度だけ、獣王との戦いで使い方を見せてくれた。この中に核を込めることで形を変えることが出来る武器。

 って、そういうことか。武器を思い出すうちに、かなのやりたいことが分かって来た。俺が分かったことをかなも察したのだろう。俺が剣を取り出した瞬間、かなは小さく笑って剣に触れた。


「えっ、かなちゃんがなんか武器に吸われた!?」

「まあ、そんなところだな。かな、大丈夫そうか?」

(ん、大丈夫。一緒に、戦お?)

「ああ。これ以上ないくらい、頼もしい相棒だよ」


 名前:黒虎刃

 耐久力:19028/19028 攻撃力:+48291 魔力:100129/100129 


 全体的に黒く、持ち手には猫の尻尾のような細長い物が巻き付いている。ステータスはどうやら化け物らしい。これが、すべての精霊を従えて得たかなの力。それを凝縮した剣、ってことか。

 それに、今更だけどかなは精霊化した時に魔力が意味が分からないくらい増えている。たぶんだが、人はこれをチートと呼ぶ。


「あ、見えて来た!」

「おお、あれか」


 ソルと邪神の戦闘は、空中で繰り広げられる高速戦闘の内にどんどんと場所を変えていた。遠くからでもリルとカレラがそれを援護しているのは見えていたのだが、どうやら当たっていないらしい。でも当然と言えば当然なのだろう。

 きっと、ソルでもギリギリの戦闘だ。二人じゃ追い付けないのも無理はない。


「お兄ちゃん、どうする? 私、数秒くらいなら飛べるけど」

「あー、それならかなに補助して貰えばいいんじゃないか?」

(ん、出来る。精霊を貸してあげるから、その子使って)

「わぁお、ファンタジー魔法少女になれるってこと?」

「ここの世界観十分すぎるくらいファンタジーだろ」

「まーね。でも、精霊と一緒に空を飛ぶって、なんか憧れるかも」

「あー、なるほどな」


 気持ちは分からんでもない。


「っと、そんなこと言ってる場合じゃないな。ソルを援護して、戦いを終わらせるぞ」

「うん。準備は万端だよ、お兄ちゃん」

(ん、かなも準備出来てる。お手伝いは、任せて)

「ああ、二人とも、頼りにしてるぞ」


 黒江が頷いたのを見て、俺も宙へと一歩を踏み出す。

 元々俺は空を飛ぶことは出来ないが、かなと憑依一体しているために高速飛翔Ⅹを使えるようになったため実質的に空を止める。細かいターンは、かなが補助してくれるだろう。


「ソル、待たせたな」

「司? それに、かなちゃんもいるの? へぇ、面白いことになっているわね。それじゃあ、手伝って貰いましょうか」

「もちろん、私も手伝うよ!」


 これで四人、最強が集まったわけだ。あー、でも、今の俺はどうだろうな。あんま強くないかもしれない。でも、なんていうのかな。誰にも負けないって言う万能感が、俺の中に満ち満ちていた。


 さて、改めて敵を確認だ。


「‘+*L'!”&$#%$”!%!」


 まったく理解できない言葉を放つそいつは、辛うじて人型をしている黒色の何か。ステータスはどういうわけか見えないが、たぶん、受ける気配からしてエルダードラゴンと同程度。普通に戦ったら勝ち目なんて無さそうなものだけど、今の俺たちなら行ける気がする。


「何か特殊な能力があるわけでもないっぽいし、教えてやろうぜ。俺たちこそ、世界を救うヒーローなんだって」

「何格好づけてんのよ」

「でも、いいよね、そういうの。私もヒーローになってみたい」

(ん、かなも)

「まったくあんたたちは……じゃあ、私もヒーローになりましょうか。世界を救う、スーパーヒーローに」


 これから始まるのは、世界の命運をかけた空前絶後の戦いだ。

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