心を交わして
「それじゃあまずは……」
周囲を見渡して目的のものを探す。これが案外すぐに見つかり、急いで駆け寄る。
駆け寄った先にはピクリとも動かなくなったかなの体があった。
「かな! って、違うか」
思わず名前を呼んで駆け寄ってしまったが、既にかなの魂はこの中にはない。この体はもぬけの殻だ。でもやっぱり、かながそこに倒れていたら悲しくなってしまうものらしい。心臓が強く握りつぶされるような感覚に襲われた。
「って、心が、痛い?」
どうして? だって俺には零酷停王が――
って、そうか。もう俺の零酷停王は死んだんだな。スキル一覧にもその名前は無かった。
「勿体ない気もするが、いや、違うな。俺はまた、人らしくなれたんだ。傷つくこともあるかもしれないけど、大切な人を、傷つけなくて済むんだよな」
したくもない戦いも無遠慮な戦い方もする必要が無くなる。
たぶんもう償いきれないだけの罪を背負っているけど、せめてその分この世界を救ってやろうじゃないか。
かなの体を抱き上げる。そして大きく息を吸う。
「かなああああああぁぁぁぁっ!」
俺は何も気が狂って大声を上げたわけではない。かなに場所が分かるように名前を呼んでくれと言われていたのだ。
「ふぅ、これでいいかな」
「お兄、ちゃん?」
「ん? 黒?」
呼ばれて振り返ってみると、そこには信じられないものを見るような目をした黒江が立っていた。あー、確かに今のは傍から見たら奇行だよな。心配されても仕方ない。
「い、今のはだな、かなが」
「お兄ちゃん!」
「うおぉっ!?」
いきなりどうしたんだ!? 黒江は感極まった表情を浮かべた直後、俺に抱き着いて泣きだした。あの黒江さん、あなたこちらに来て力が強くなったからかすっごく痛いんですけど。痛みを感じるってやっぱり不便かもしれない。
「おに、お兄ちゃん! よかった、生きてた! 死んでなかった!」
「正確には生き返った、な。……ごめん、心配かけたよな」
「ほんとだよ! ほんとに、ほんとに……ッ!」
ゆっくりと黒江の頭を撫でてやる。考えてみれば、黒江は俺が死んだと思っていたわけだ。やっぱり俺、死ぬことにあまりに無関心過ぎたと思う。何年も一緒に支え合ってきた兄が死んだなんてことになったら、黒江が悲しまないはずが無い。
思わず俺も泣きそうになるのを何とか我慢する。
「黒、大丈夫か?」
「うん……もう、大丈夫っ! へへっ」
涙を拭い、顔を離した黒江は満面の笑みを浮かべた。やっぱり、黒江の笑顔は宇宙一、いや、全世界一可愛いな。
《報告:かなが嫉妬しているようです》
ん? かなが嫉妬してる? え、しんさんそれってどういう意味ですか。
「お兄ちゃん? どうかしたの?」
「ああいや、それがな、かなが……あれ?」
「かなちゃんがどうかしたの?」
かなの体が無くなっていた。いつからだ。あれ、そういえば俺ってかなを抱えていたはずだよな。それなのに黒江が抱き着いて来たってことは、黒江が現れた時には無くなっていたってことか? まったく気付かなかった。
「かな、いるのか?」
「いないよ」
「いるじゃないか」
どこからともなくかなの声が聞こえて来た。
「え、かなちゃん? かなちゃんの声!? どこ、どこにいるの!? お兄ちゃん! かなちゃんも生き返ったの!?」
「ああ、そのはずだ。でも、どこに……って、もしかして」
種族:人間・精霊人
名前:司:
状態:制約・奴隷、憑依一体
憑依一体! これは俺の体が他の核を宿している時になる状態だ。今まではリルと以外発動したことは無かったが、今回は間違いない!
「かな! 見つけたぞ!」
「……ん、ここにいる」
かなの声が聞こえてきた直後、俺の肩のあたりに気配を感じた。そちらを見てみると少し青白くなったかなの姿があった。青白くなったというよりは、ホログラムのようになったというべきか。肉体が無い、核のみの存在。
「かなちゃん!? え、幽霊?」
「惜しいな、精霊だ」
「ん、精霊」
「精霊? かなちゃん、精霊になっちゃったの?」
種族:獣人・下位神・黒虎神
名前:かな
レベル:82
生命力:19028 攻撃力:18011 防御力:9018 魔力:100129/100129
状態:精霊化、精霊完全一体化
スキル:魔術・精霊Ⅹ、瞬間治癒Ⅹ、魔力即時回復Ⅹ、物理攻撃無効、魔法無効、精神攻撃無効、状態異常無効、即死無効
権利:精霊使役権、自己防衛の権利、自己回復の権利、魔術使用の権利
かな曰く、デストロイヤーやウォーリアーと精霊完全一体化と言う核の疑似的な融合をしてやっと安定させているらしい。
「ん、精霊。これで司とずっと一緒だよ」
「だな。説明すると、かなは精霊となって俺と体を共有している状態なんだ。おかげで俺は強くなるし、かなとはずっと一緒だ」
「ええっ!? そんなことってあり得るの!? でも、ちょっと羨ましいかも。ねえかなちゃん、私とも一緒にならない?」
「ん~、たぶん、無理。くろの核はちょっとだけ不安定」
「かく? なにそれ?」
「これにはかなりの魂の強度が必要って意味だ。死を経験した俺みたいなやつじゃなきゃ無理ってことだな」
「えー、それは残念。……でも、本当に良かった」
一瞬浮かべた不機嫌顔を、黒江はすぐに引っ込めた。代わりに浮かべた笑顔がやっぱり可愛い。
「二人とも、お帰りなさい。それじゃあ三人揃ったところで、世界を救ってみちゃおうか!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます