冥府の本質
ああもうっ、ほんと頭痛くなる。
というか私、今日だけで何回イライラしてるのよ。いい加減頭中の血管が熱暴走を起こしそうだわ。
「今度は二代目って……ったく、あのクソ神覚えておきなさい。後で邪神なんてもんを生んでくれたことをとことんまで責め立ててやるわ」
しかも今回のは、どういうわけか今日現れた他の二体よりもよっぽど協力。属性としてはネルのに似ているけれど、あれより純度が増している。
どういうこと? なんでこの世界唯一の冥府の支配者であるネルから生まれた邪神よりも冥府の属性を強く持っているのよ。
「《
冥府に染まった魔力は言ってしまえばこの世のものではない。だからこそネルは世界の法則を捻じ曲げる権限を少しだけ持っている、そんな風に言えることも出来た。その魔力を吸ったものは、普通ならその肉体ごと砕けて消えるのだが、流石は邪神。この世界の頂点に立つ法則上の存在だけあって、耐性が高いらしい。完全に我がものとしている。
で、その上ネルから力を分け与えられていた二代目を媒体として生まれたから、こんなにも強いわけだ。
司とネルに関してはまだあくまで完全体ではなく、肉体に邪神が宿った状態だった。だからこそ邪神の持つ法則上の存在という絶対的アドバンテージを活かせずにいたけれど、今回は違う。完全に分離し、単独で行動をしている。
《
零酷停王は均衡隆々の筋肉男の姿だったが。さてこちらはと見てみれば、形が無かった。もともとこの世界にいる中ではファントムに近しいのだろうか。定まった形が無く、それでいて無数の姿を持つ。ありとあらゆる場所、場面、時によって姿形を変える癖に一度とて同じ造形になることはないような、全身の皮膚がうねり、絡まり合い、アバウトなシルエットですら変わり続ける粘性の何か。
火と思えば次の瞬間には金属質であったり、時々球体のように見えたり。
まあただ、それを大まかに見るのなら四肢を持った何かなのだろうか。人型に見えないことも、ない。頭部は無く、その大部分を占める場所を本体と仮定した場合に生えている四本の何かも腕や足と決まったわけではないが、まあ何か大きなものに円柱状のものが四本くっ付いていれば大体人型なんじゃないかと、そう思う。
いや、流石に暴論か。
やはり形を持たないものを筆舌するのは難しいらしい。兎にも角にも、私に言わせてみればそれは大体人型の何かだった。
「ステータス……は、見れないか。鑑定偽造、じゃなくて鑑定無効か。また面倒な物を。まさかだけど、冥府の本質まで扱えたりしないわよね」
「ほう、これまた面白い独り言を言っているではないか、ソル嬢」
「……なによ、黙っていてくれたのは優しさってこと?」
「そのようなことはない。が、あまりに気になることを言っていたのでな」
皆一言も話さないものだから、極度の緊張状態にあるのかと思っていたのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。僅かに愉快そうに口元を緩めるリルに続いて、カレラが小首を傾げた。
「冥府の本質を扱う、とはどういったことなのでしょうか? その、私はあまり詳しくないので教えていただけると幸いです」
「別に畏まらなくたっていいわよ。そりゃ、人間でいうところの王様みたいなもんになるんだろうけどね、私は。私、敬語使われるのあんまり好きじゃないのよね」
「で、ですがその、これは性分と言いますか!」
「……そっ、まあいいけど。で、冥府の本質だったわね」
私だって別に詳しくはないそれを、千年以上前、エルダードラゴンに襲われそうになり、手を組み始めた最初の頃にネルに教えて貰った。
「冥府の本質?」
「はい。例えば今私たちがいる、仮に現世としましょうか。この現世を中心としてその周囲を囲うように冥府は存在している、と思ってください」
それは、エルダードラゴンに対抗する作戦を考えている時のことだった。元よりあまり積極的でもないルナが眠り、私も暇だったのでネルと話していたところ、流れのままに聞いたこと。
「その冥府の役割は主に現世で居場所を失った魂、まあ一般的には死に、肉体を失った魂を回収し、再び肉体へと宿らせる、魂を再利用をするための循環機構のようなものになります」
「ふぅん、で、あんたはそれを司ってるってこと?」
「はい。現世の荷台巨頭、昼と夜を司るお二人と、その外界を司る私。他の三竜は現世の法則の根本を作り出す空間、環境、生死。そして……彼の敵がすべての始まりを司っている。皆、背負うものはほとんど同等の重さになります。しかしてやはり、私のそれだけ少し特殊だというのは、ソルなら分かるのではありませんか?」
「まあ、ね」
今思えば、あの頃が最もネルと仲の良かった頃かもしれない。どうせならあの頃に冥府についてもっと聞いておけばよかったかもしれないと思う。ついでに、もっとネル自身のことを知って上げられていればなんて、頭の隅で考えた。
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