力の覚悟
大体千年振りのことだった。
零酷停王、その名を冠する、邪神を見たのは。
「司ッ!」
私がその名を叫んだ時には、司の意識は無いようだった。
種族:邪神
名前:零酷停王:
生命力:70192/70192 攻撃力:81923 防御力:78537 魔力:60754/60754
スキル:属性剣術Ⅹ、剣王、気配察知、魔力感知Ⅹ、森羅万象、解析鑑定、無崩の幕、万全の期、千羅の腕、飛裂の羽、賢斬の的、永貌の瞳物、理攻撃耐性Ⅵ、魔法耐性Ⅶ、精神攻撃耐性Ⅵ、魔術・氷Ⅹ、魔術・空間Ⅹ、冷徹者、分割思考
権利:基本的生存権、自己防衛の権利、自己回復の権利、魔術使用の権利
称号:邪神
司の体が青く染まりあがり、その瞳は凍り付いていた。吐く息は白く、周囲の空気が冷え始めているのが伝わった。
大本は司の体。けれど、その背後に薄っすらと浮かぶ巨大な氷の彫像は確かに神に相応しい力を持っていた。無論、私なんて遥かに凌駕するほどの力だ。そして、ネルも。
「ッ!!」
身の危険を感じたのか、ネルは咄嗟に前に出た。両手に冥府を籠め、それを司に向けて殴りつける。
司の背後にいる零酷停王はまだ実体を持っていない。司に向けられた拳はその目の前まで迫り、司の右手で止められた。
あの冥酊があったのにも関わらず、だ。
単純なパワーで押し勝ったのだ、司は。
「ッ、ッ!!」
更に勢いを増したネルの力を、司は徐々に押し返して行く。まるでネルの力なんて取るに足らないと言うかのように。じりじりと押し返されるなか、ネルは悔しそうな表情を浮かべていた。つい先程までかなちゃんのあれだけ激しい戦いを繰り広げながらも無感情的な表情を保っていたのが嘘の様だった。
ただ、ネルが臆しているような状況でさえ、私はその戦いに割って入る隙を見いだせずにいた。
ぶつかり合う二つの力に、私の力で敵う気がしなかった。
いや、敵うはずだ。あらゆる代償を払って、私の全力を出すのなら。ただその時残るのは、司に言われたようにネル、そして今は邪神と化した司、そして運が良ければ私の三人だけ。つまりは、どれだけ上手くいったって私の方法では何も救えない。
救えたとして、ネルと司だけ。星さえ破壊しかねない魔法の威力は、結局はやはり何も救えない。ならば、私に手段は無いんだろうと思う。
本当にどうしてこうなったんだろう。私は、誰かを助けられるような、守れるような力が欲しくて努力してきた、そのつもりだ。そのはずなのに、私はどうして今守りたい人を目の前にしてただ見ているだけしか出来ていないでいるのだろうか。
司と出会ってから何度目か。こんな風に考えてしまうのは。彼を守れない私の無力さを嘆くのは、何度目か。もっと力が欲しいと願うのは何度目か。誰も負けず、世界の頂点にすら立てる絶対の力を願ったのは、何度目か。
世界を破壊する覚悟さえあれば、私はそうなれると理解している。それでも、それでは何も意味がないから。そうじゃなくって、誰かを守れる力を。何も壊さなくても、誰かを救える力を。
「熱は速さ。熱く燃え上がるほど加速を繰り返して速くなる。速さは熱。速ければ速いほど熱を持ち、摩擦熱が増して行く。超えるのよ、あの二人の速さを。貫くのよ、氷塊を、冥府を。そのための力を、蓄えてきたはずなんでしょう! 原初の七魔獣、陽弧ソルッ!」
詠唱が重なり、魔法陣が積み重なっていく。真っ赤な魔法陣の束が天へと延びて、やがて重なり合う。一枚にまで重なり合った魔法陣の中心で、熱量は加速度的に増して行き、その温度を高めていく。速度を高めていく。
私の声が、響き合う。
「《シグマ・コロナ》ッ!」
一直線に伸びる真っ赤な炎は、光の速度を凌駕して突き進む。狙い違わず、ネルの胸を打ち貫いた。
ネルの体が大きく跳ね、司の前に晒される。司の拳は貫かれたネルの胸に向けられ、ネルはその勢いのままに吹き飛ばされる。そのまま地面に激突したネルは砂埃に覆われたまま、動かなくなる。
「……これで、心置きなくあんた、司の相手が出来るわよ」
司はこちらに目を向けた。次はお前だと、言わんばかりに。
ばーか、ネルを倒せたのは私のおかげだっての。そんな言葉をとどかないと知りながら呟いて、私は頭の中を整理する。一旦落ち着いて考える。
どうやって司に勝つ。今の司は邪神としてその力のほとんどを扱える状態にある。零酷停王と完全に分離していないことだけがまだ完全な邪神化との相違点。しかし、それも時間の問題だろう。いずれ、完全に邪神になる。
今はまだ司の体を操っている状態に過ぎない。だからこそ発揮されていない全力が発揮されるようになれば、受ける被害は一気に大きくなる。
取り返しのつかなくなる前に、司を倒す必要がある。
「ソル様、及ばずながら助力させていただきます」
「司との決着を、まだ付けられていないんです」
「あなたたち……いいの? あれはもう、神の領域。命の補償は出来ないわよ」
敢えて聞いたのは、二人の持つ覚悟を確認するため。既にそれに値する覚悟を持ち合わせていると知っている。だから私が止めても立ち向かうのだと、分かっている。それでも聞かなければいけないと、そう思った。
「司さんには、返し切れない恩がありますので」
「慕っている男性に違いはありません。けれどそれ以上に、彼の後悔する姿は見たくないんです。彼は私の好敵手ですからね」
「その覚悟、確かに聞き届けたわ。それじゃあ、行くわよ」
「「はい!」」
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