冥酊
ネルは上空に佇みながら、俺たちを見下ろしていた。まるで、どこからでもかかって来いというように。
「行くわよ!」
最初に飛び出したのはソルだった。
ソルはあれで仲間想いなやつだ。ネルの暴走する姿を見て、居ても立っても居られなかったのだろう。勢いよく飛び出して、ネルに向かって一直線に進んで行く。
「ネルッ!」
その拳に炎を纏った正拳突きは、ネルに触れる直前に不可視の壁のような物に阻まれる。
「っ!?」
ソルが目を見開くその目の前には、黒色に輝く何かがった。恐らく感触も何もしないのではないだろうか。ソルは不思議そうに自分の拳を見ていた。
ソルだってネルのステータスは見れているはずだ。つまり、ネルの能力を知っている。その上で驚愕を覚えるくらい、ネルの固有能力はやばいってことだ。
「アリシア! 聖気で外側から削ってやれ! 大丈夫、その程度じゃ死なない!」
「はい!」
兎にも角にもネルの
「《セイクリッド・カリバー》ァーーッ!」
アリシアはレベルもステータスもネルと比べてしまえば高くはないが、生まれ持った聖気の力、聖剣のスキルを持っている。それだけで、魔獣や魔物に関しては圧倒的な強さを誇る。ネルに対してだってそれは通用するはずだ。
「はあああーっ!」
アリシアの握る剣がネルへと振りかざされる。
アリシアの武器
装備:
耐久力:10000/10000 攻撃力:+23000 魔力:8700/8700
実際のステータスを見ていないから分からないが、獣人族に与えられた神器、獣剛の太刀と同等のオーラを感じる。かつての剣聖が扱ったとされる伝説の武器らしいが、規格外にも程があった。ステータスだけで俺を優に超えている。ゼロが一個多いんじゃないかと思ってしまう武器ではあるが、今は頼り甲斐しかない。
光り輝く一答が振りかざされ、黒い雷とせめぎ合う。つばぜり合いを続ける中で弾ける電撃、響く轟音。ネルは微動だにしていないが、逆にアリシアに対して反撃する様子もない。固有能力を使うのに集中しているのだろうか?
確かに、
アリシアの一撃がネルの意識を集中させるには十分すぎるくらい、驚異的ということだろうか。
「このっ、はああぁっ!」
アリシアの猛攻を見て、ソルも追撃を加える。空いているほうの手に極大の炎の弾を作り出し、解き放つ。
炎と雷が絡み合い、強い輝きと爆発が起こる。
ソル、頭に血が上ってるのか? あの爆発じゃあアリシアが巻き込まれるぞ!
「かな!」
「ん。《エレメンタルフォース・アークプリズム》」
爆風がアリシアに届く直前、アリシアを半透明のドームが覆う。アリシアの、全身を覆うように、剣と不可視の壁がつばぜり合いをしている箇所さえ覆って。
「っ、かな、どうやったんだ? あれ、ネルの力を突破してるぞ」
「ん? 何もしてない」
「……もしかして、精霊の力を無効化出来ない?」
《精霊は世界を管理する存在です。その力は物理法則には従わない可能性があります。なので――》
「つまり、ネルも咄嗟には書き換えられないってわけだ!」
《その通りです》
これはチャンスだ。つまり、今の内ならかなの攻撃が一方的に通るということだ。
そのことにネルも気付いたのか、眉を顰め、目元を釣り上げてこちらを睨んだ。
直後、ソルもアリシアも無視してネルがこちらに向かって来る。
「っ、かな、行くぞ!」
「ん! 《精霊完全支配》ッ!」
「《無崩の幕》《クリスタル・クリエイト:アイサファイヤ・ロングソード》ッ!」
すかさず戦闘態勢に入ったかなにならい、俺も戦闘準備をする。無崩の幕を張り、アイサファイヤロングソードを、全力で作る。
装備:アイサファイヤロングソード
耐久力:6910/6910 攻撃力:+12980 魔力:7910/7910
俺も初めてこの武器を作った頃を比べて成長した。そのステータスは格段に上がっている。しかし、それでもアリシアの武器に届かない。最強の人間が作った武器だ、勝てないのも当然と言えば当然なのかもしれない。けれど、これではあまりにネル相手に心許なさ過ぎる。
一直線にこちらに向かって来るネルに対して、かなが俺を守るように前に出る。
「《魔拳》」
その拳を紫色に染め上げて、全力の魔力をその手に込めたかなの瞳が迸る。
「《闘気Ⅹ》、《神速》。《エレメンタルフォース・ブレイクフィスト》ッ!」
全身が真っ赤に染まりあがり、分割思考ですらも追いつけないような速度でネルに自ら向かって行ったかなの右手の拳が、七色と、そして紫色だけ強く輝き、白と紫が絡み合ったような輝きを、全身の赤が強調する。
真っ黒なネルが手にした剣と、かなの拳がぶつかり合った。
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