剣の勇者黒江vs水の勇者ヒノール
「はぁ!? どうしてあの魔法を食らって無傷なのよ!? おかしいでしょ!?」
「特殊な結界か何かを張ったのか? だが、魔力の流れは感じられなかった……」
「肉体強度で防がれるような裁きではなかったはずです。彼は特殊な神の力を宿している、そう考えるのが自然でしょう」
「クソ! ああもう頭来た!」
三人の勇者が驚きに動きを止める中、私はテトを振り返る。
「テト、大丈夫?」
「はい、何ともないですよ。でも、先程の魔法は何度も使える物でもないのであんまり期待はしないで欲しいですね」
「うん、大丈夫。私も二階も同じ攻撃されて反応できない程鈍くないよ。リウスは? 問題ない?」
「当然だ。しかし、面白くないな、こうも一方的に攻撃されるのは」
「リウス?」
普段から無感情的な表情の持ち主のリウスだけど、今は仏頂面を浮かべて不機嫌そうだった。
「あの黄色でいい、相手させろ」
「おお、リウスったら珍しいね、やる気出すなんて」
「こんな大一番くらい、やる気出すさ」
「頼もしいですね」
普段から基本的にやる気のないリウスがやる気を出したとなれば、私たちの戦力は倍増だ。テトもいつになく本気っぽいし、今回は勇者パーティーフルパワーかな。
「って、何こそこそ話ししてるのよ! 無視してんじゃないわよ!?」
「ん? 別に無視はしてないよ、作戦会議。そこまで急かすんだったらいいよ、再開しよっか」
「はあっ!? 調子乗ってんじゃないわよ!」
怒りに猛るキルアが右手を掲げて魔法を宿し、怒りのままに放ったのを皮切りに戦闘は再開する。
今度は、それぞれが相手をすることになった。
「あの魔法使いムカつく! こうなったら一対一でけりをつけてやる! 二人とも、他の二人は任せたよ!」
「別に構わないが……じゃあ、あのクソ生意気な剣士は俺が相手をしてやろう」
「では、私は探索術師の相手をすることになるのですね。いいでしょう、天の裁きを受けさせて差し上げます」
「勝手に決められても困るけど、まあいいよ。相手してあげるよ、青髪の勇者さん」
「はっ、言うなクソアマ。相手してやるからかかってきな」
「それじゃあ、行くよ!」
剣を構えなおして剣先を向け、私は勇者ヒノールと相対する。
「はっ、口ほどにもねぇ。近づけすらしねぇなぁ!? あぁっ!?」
「これだから三下は、声ばっかり大きくたって格好付かないよ」
「てめぇ、調子乗ってんじゃねぇぞ、あぁっ!?」
「これだから三下は……お兄ちゃんの気持ちが分かっちゃうな」
よくゲームや小説を読みながら三下が云々言っていたお兄ちゃんの気持ちが今なら分かる。確かに、なんだかこういう人はこれから先の出番が減りそうだ。キャラが極端すぎる。
「……まあいい。行くぞ」
ヒノール足元の地面がぬかるんだように歪み、それぞれが拳大ほどに纏まって宙に浮かび、球体になった。目算十個程度。泥の塊は半透明になって行き、やがて青く光を反射する水の球体へと変わって行く。
なるほど、あれがヒノールの能力。水を生み出す能力というわけだ。
そしてその水の弾は形を変えて槍となり、私に向かって飛んできた。
「《セイクリッド・クロス》ーッ!」
瞬時に剣を振るって聖剣を発動する。放たれた十字架の聖気に触れた途端、水の槍は蒸発して消えた。
「あれ? あんな消え方するっけ、普通」
「はっ、これくらいは防げないとなあ!? どんどん行くぞ!」
「ん? ああ、別にいいけど……」
今の消え方、相殺したっていうよりは聖気の力で消し去った感じだったよね。セイクリッド・クロスは水の槍とぶつかった後でも少し残っていたよね。聖気を受けてこういう消え方をするのは魔物か魔物の使う魔力だけだよね。
邪神の力を受けて、力の属性が変化したのかな? もしそうだとしたら、私の攻撃は勇者三人衆に対して圧倒的に優位ってことだね。
「どんどん行くぞ! 剣の勇者!」
「あ、うん、どうぞ」
「……微妙にムカつくな、てめぇ」
「いやあ、どうも主人公補正ってやつ発動しちゃってるらしくて?」
「んだよそれ、あんまり舐めてんじゃねぇぞ!」
激高し、表情を歪ませて怒りを露にしたヒノールの体の周りに水の弾が無数に浮かんだ。それらがそれぞれ別の形を取り、今度は四方八方に広がり大きく弧を描いてから私の方へと向かってきた。
躱そうにも逃げ道などなく、防ぎようも無かった。先程のように相殺しようにも数が多いし、まあ、それをするまでもない。
「《聖気解放》」
ぽつりと呟いてみる。
聖剣の能力の一つであるこの《聖気解放》は、私のように聖気を持つ者が全身から聖気を放つことが出来るスキルだ。基本的に相手を威嚇したり接近してきた敵を追い払う時に使うのだが、今回は私に近づいて来た攻撃に対して使った。
すると、私の体から全方位に放たれた半透明の淡い光によってすべての水の攻撃が消滅した。
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