混じり合う戦場
同じ戦場に勇者が六人も集まるなんてことは滅多にない。そもそもが一人一人がオーバーパワーな私たちは、一人いるだけで大抵の戦いに決着がついてしまうからだ。そう言う意味ではあの
実際、二人とも戦闘に特化した能力の勇者であるわけだし。
そんな戦場での戦いが、当然激しくないわけがないのである。
「クソッ! あいつどんなステータスしてるんだ!」
「私たちが全力で止めに行ってるのに全然勢い止まらないわよ!?」
「なるほど、彼の伝承者たちを鎮めるためには生半可な覚悟では達しえないということですね」
「ああもうっ! さっさと降参しちゃってよ!」
炎の勇者キルアが怒りに任せて拳大の炎の弾を連投するのを、私はリウスの探知の能力の補助を受けて難なく躱す。
続けて肉薄してきた雷の勇者ミシアに対しても、リウスのおかげで事前にそれが分かり切っていたのもあって適切に距離を取りながら近接戦を軽く熟す。ミシアは徒手空拳の使い手。隙さえ見せなければ武器を持っている私の方が優位だ。
「っ!?」
場の不利を察したらしいミシアが私から離れた次の瞬間、足元から水の刃が飛んできた。
リウスの探知にも引っ掛からず、自分の反射に頼るしかなかったが速すぎて頬を掠った。これくらいならダメージとしては大したことはないし、こっちにはヒールのプロがいる。
「《ヒーリング》! クロ! 大丈夫ですか!?」
「うん、問題ないよ! ありがと!」
テトのヒールを受けて瞬時に傷は塞がる。こっちはテトさえいれば腕を切り落とされたって問題なく戦闘に復帰できる。もちろん痛いのは嫌だけど、絶対に死なないってだけでだいぶ安心できる。
「ああもう! 何のよあいつら! 攻撃は躱すし回復はするし! 戦ってるのは一対三なのにどうしてここまでいいようにされてるのよ!? ああもう、本当にウザったいッ!! 面倒くさいから焼き尽くす! 《カオス・インフェルノ》ッ!」
空が赤く染まった。その光景を一言で表すのならそうだろう。
無数の魔法陣で埋め尽くされた上空の景色は幾何学模様で埋め尽くされた赤。圧倒的な魔力の塊を前に、私な戦慄する。躱す躱さないの次元ではなく、また、防ぐなんて到底不可能な破壊力だと一瞬で理解した。
ならばどうするか、考える。
相殺する? 放たれる前に本体を討つ? どっちも間に合わない。流石は爆撃のスペシャリストと言ったところか。タイミングが完璧なのはさることながら、予備動作が一切なかった。魔力を練っている気配もリウスの探知ですら感じられなかった。
つまりあれは、キルアにとっては時間をかける必要のない魔法なのだ。それでこの威力、この範囲。実物を見たわけでもないのに私たち三人を用意に焼き付くだけの代物だって分かる。それこそ脳裏に絶望、って文字が浮かぶほどに。
でもそれは、私の想定していなかった結末で以て事なきを得ることとなる。
「《セイクリッド・コンバージェンス》!」
今度は空間を金色が包んだ。結界のように張られたその半球状のドームの中心は、声を発したテトだった。
キルアはそれを見て少し眉を顰めたが、躊躇う素振りもほんの一瞬。切り替えたように魔法を放った。
テトが何をしたのかはよくわからなかった。初めて聞く魔法だった。セイクリッド、って頭言葉から考えるに魔術・神聖の一種なんだろうけどいったいどんな効果なんだろうか。この状況に対して有効、と考えていいのだろうか。
そんな思考を挟みながらも私は最低限の抵抗を、と聖剣を発動しようとして、あることに気付いた。
数百と同時に放たれた炎の弾のすべてが、テトの下へと向かっていたのだ。私もリウスもすべて覆いつくし、倒し切るに十分すぎる火力であったのに、だ。これはキルアが先にヒーラーであるテトだけを倒そうとした、というよりはテトが敢えて狙われたと考える方が妥当に思える。
つまり、先程テトが使った魔法はテトが自身に攻撃を集中させる魔法だったのだ。
「はあっ!? 今のどうなってるの!?」
「へっ、制御を奪って身代わりになったか、ご立派なことだ。だが、これであっちは回復できない。おいキルア、もう一回今の魔法を使え」
「……えっ!? いや、でも! だって私、殺す気なんて……ッ!」
キルアが焦ったように顔を赤くする中、私はまた無理をして、と一つため息を吐く。
テトは時々無理をする。自身の持つ圧倒的な回復能力を盾に人を庇うことが、今までに何度もあった。初めて会ったときだって、人を守って傷だらけになって精神的にかなり追い込まれていた。それでも必死に庇い、傷を負っても耐え続けた。
そんな、自分を犠牲にしてでも誰かを守りたいっていう強い心の持ち主が私の仲間、テトなのだ。
そんなテトが、魔法が止み、爆炎が風に散ったその中から涼しい顔で姿を見せた。
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