ジェネレーションクロス

「《セイクリッド・エクスプロード》」


 その叫びは戦場一帯に響き、当然、その戦場の一角を担うすべての人間に聞こえていた。そのすべての人間の内の一人、ヘイルは晴れ渡る青空を見上げながら呟いた。


「へえ、あの姫様よくやるねぇ。あれ、魔法でも何でもないっぽいんだけど」

「聖気を暴走、いや、あれは緻密な計算の上の操作か。あれだけの膨大な力を一人で扱えるとは、流石は聖人と言ったあところか」


 私の呟きにスーラも興味深そうに頷いた。あれだけの力、流石のスーラでも関心を抱かずにはいられないようだ。

 かくいう私も興味津々だし、後で詳しく話を聞かないとね。


 と、雑談染みた会話をしていた私たちのすぐ目の前に突風が吹き荒れた。


「《マテリアルレジスト》……ちょっと、そそっかしいわね。少しくらい待てないわけ?」


 咄嗟に防いだからよかったものの、直撃を受けていたら私たちとてただでは済まなかっただろう。

 そしてそんな攻撃を行った張本人、風の勇者を見ながら私は言った。


「これだから余計な力を持ったお子様は嫌いなのよ。喧嘩っ早いだけで風情も何もないんだから」

「うっさい! 僕の攻撃を勝手に防ぐな!」

「挙句の果てには短気って……これだから近頃の若者は」

「黙れ黙れ黙れ!」

「おっと」


 風の勇者、ミゲルト・フラナダ。齢九つで勇者として活動している、巷では震動なんて呼ばれていたリセリアルの勇者だ。

 底抜けに明るい緑色の髪が特徴のお子様で、戦闘の重点を遠距離戦に置いているのもあって肉体的には年相応どころか少しやせているほどだ。似合いもしないロングコートを着ていたリ、何かと大人ぶるところが玉に瑕だが、実力は本物だ。


 その魔法の威力は馬鹿にならず、私としてもしっかりと防いでおかないと二次被害で大怪我を負いかねない。


「そう慌てるでないミゲルトよ。あのお嬢さんについてはおぬしも知るところであろう? はて、確か双子の勇者、であたか。リセリアル一の勇者たちと名高い二人組。そう乱暴に相手をしては足をすくわれるのはわしらじゃろうて」

「で、でもニタ爺、あいつムカつく!」

「ほっほっほ、若いとはいいことじゃのう。元気いっぱいでわしもやる気が湧いてくると言うものじゃ。で、あれば。二人で協力しようではないか、ミゲルトよ。さすれば地に額を付かせるのもさして難しいことでもあるまいて」

「そっか! じゃあ、一緒に戦おうよ!」

「うむ、承知しておるよ」


 そんなこともっぽいミゲルトに相対するように隣に立つのは白髪を生やした老人、地の勇者ニタ。既に六十を超えた死に際の老人ではあるが彼もまた魔法を扱わせたら右に出る者はいないほどの実力者だ。

 戦闘の際に一歩も動かず二万体の魔物を葬ったという伝説染みた唄が歌われ、リセリアルで彼の名を知らない者などいないというほどの有名人でもある。


 その伝説が本当かどうかはともかくとして、そう語られることが分不相応でないところは私も目にしたことがある。やはり、どちらかと言えばこちらの方が強敵だ。厄介極まりない。


「さあ、お若いお二人さんよ。どのような理由があって魔物の味方をするのかは問わん。若気の至りというやつであろう。ならばこそ、わしは大人である者の役目としてそなたらの相手をしたいと思うておる。さて、どうかな?」

「別に構わないわよ。相手してあげるわ。ね、スーラ」

「老人介護は柄じゃないが、それくらいのことをする余裕ならあるぞ」

「ほっほっほ、言ってくれるではないか。口の達者な若者は嫌いではないぞ」


 朗らかな笑みを浮かべて顎髭を撫でるニタ。名前と伝説以外に大した情報は無い。得意としているのが広範囲の攻撃魔法ってことくらいは分かるが、それが具体的にどんな魔法か、それにどうやって対処すればいいのか、私には分からない。

 無論、私よりも魔法に疎いスーラに分かるわけはない。


「私たちは勇者双子ペアレンツ、私がヘイルでこっちがスーラ。精々その顔のしわに刻んでおくといいよ。ちびっこも、足りない頭で頑張って覚えておきなよ」

「うっさいうっさい! お前たちこそ、精々僕のことを覚えておくんだね! というか絶対忘れさせない! 毎晩思い出して一人でトイレに行けなくなるくらい怖がらせてやるんだから!」

「ほっほっほ、若い者は元気で言いのお……さて、では始めるとするか。あちらも始めているようだしのお」


 ニタが向いた視線の先では、司の妹たちが勇者を三人相手にして戦闘を始めているようだった。正直私は子どもとか老人の相手は苦手だし、変わって欲しいところなのだけれど。しかしこう配役されてしまったのなら仕方がない。


「そうね。じゃあ始めましょう。スーラも準備は良いわね」

「いつでも構わない」

「へ、へっ! 怖がって逃げたって遅いからね! もう逃がさないよ!」

「久方ぶりに、全力を出せる相手だと嬉しいがのお」


 そうやって、私が本当に最強の勇者だって証明する戦いが始まった。

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