剣聖の姫
「司?」
「む? ようやく戻って来たか」
二代目を振り切り、やっと思いで戦場へと買ってきた俺たちをかなとリル、そしれカレラが出迎えてくれた。見渡した限りだと、どうやらこちらも終盤らしい。
「お久しぶりです、司さん」
「ああ、久しぶりだなカレラ。来てくれて助かった」
「いえいえ、あまりお役にも立てていませんので……もちろん、それで満足するようなこともありませんけど、ね!」
俺に受け答えしながらも、迫って来た悪魔へと剣を振り下ろしたカレラは一撃で切り伏せて余裕のある笑みを向けて来た。
「とにかくご無事でよかったです。お疲れのご様子ですし、そこで見守っていてください」
「そうだな。何をしていたかは後で聞かせてもらおう。ちょうど、面白いものが見られそうだぞ?」
「ん、待ってて、司。みんな倒してくる」
「心強い限りだよ。でも、面白いものってなんだ?」
この短時間の間に、みんなは相当限りの無い悪魔たちの軍勢の対処に慣れてしまったらしい。よそ見しながらも影から伸びた鋭い針で串刺しにしたり、裏拳で粉砕したりしながら俺の疑問に答えた。
「ほれ、オレアスの姫殿が見えているだろう?」
「アリシア、凄い。悪魔相手に無敵」
「ああ、あの聖気使いの姫さんならそうだろうな」
アリシアの力の大本であるところの聖気は悪魔や魔物に対する絶対的な優位性を持った属性だ。特に悪魔なんかは触れただけで消滅しかねないほどの力を持っている。アリシアが悪魔や邪神相手に不利を取る可能性は無いに等しいだろう。
「あの姫さん曰くこの場には今悪魔を増強しその肉体を記憶するための魔力が充満しているらしい。それらが悪魔やあの特殊な魔人たちを幾度となく甦らせ、無限の軍隊を構築している元凶の様だ。しかし逆を言えばここら一帯を覆っている子の結界を破り、魔力の充満している状態を崩すことが出来れば突破は容易、と言うことらしい」
「アリシアはこの結界内を聖気で満たすことで打開しようとしているようです。無茶だと言ったんですけど、司さんが困っているのに無茶だからって諦められないって」
「そう言うわけだ。何をするわけかは知らないが、普通では見られないようなものが見れるだろうな」
「そうだな。わざわざオレアスから来てくれたんだ。活躍をしっかり見ていてやらないと可哀そうだよな」
「ええ、勇姿を見守って差し上げてください」
しかし、流石はアリシアだ。この結界が何の役割を持っているのかすら分かっていなかった俺たちと違って、すぐにそれを明らかにするなんて。これも聖気を操れることによる力なのだろうか。
ここら一帯を覆っている黒い結界は俺がリリアの所に行ったり、こうして帰ってきたことからも分かる通り出入りは自由だ。最初はただ悪魔登場の演出染みた者かと思っていたが、まさか悪魔たちを強化しているとは思いもしなかった。
どうやら黒江たちにも分かっていなかったようだし、聖人って言うのはやはり特別な存在なのかもしれない。勇者とも違った存在であることは確かだ。
そして今、そんなアリシアが見せてくれた。
それは人類の希望で、悪魔たちにとっての絶望。且つて世界を救った最強の剣士の地を引く彼女の一太刀は、世界を脅かす悪を一刀両断切り伏せて雲を引き裂き青空を覗かせるかの如く天高く貫いた。俺の魔法なんかよりもずっと強烈なその一撃は戦場に混乱をもたらすには十分すぎた。
「結界の中心は、ここですか。……これなら、行けますね」
アリシアは何度斬っても湧いて出てくる悪魔たちを振り払って結界の中心部分へとたどり着いていた。そしてその場の悪魔や魔人を一掃、開けた空間を一時的に作り出す。当たり前のようにその数を取り戻した異形たちに迫られながら、アリシアは落ち着いた様子で腰を賭した。
そして一度鞘へと戻した腰の剣の柄に手をかけ、目を閉じ、息を鋭く吐いた。
意気揚々と少女に襲い掛かろうとしていた怪物たちが異変に気付いて動きを止める。一歩近づくほどに体が消耗していく感覚をその身に覚えながら、しかし気のせいだったと思い込むかのように、むしろ何者かかからの逆らえない意志に従うようにアリシアへと向かう。
それでも、その手がアリシアに触れようとした瞬間には弾け飛び、その身を塵へと変えた。幾度と繰り返されるその特攻の中で、たった一匹たりともアリシアに触れることは叶わなかった。
そう、その構えを取ったアリシアは全身から聖気を放出していたのだ。それに魂を破壊された悪魔や魔人は触れる傍から消えて行くのだ。それに、段々と悪魔の数が減っていくのが分かった。魔人の数は相対的に増えているわけだが、彼らもまたアリシアに触れられないでいた。
そしてその短くて長い数秒が過ぎた後、アリシアの周りの空気が再び変わった。
それを察知した悪魔たちは突如としてアリシアへと迫りだす。そしてそれらは勢いを殺すことなくアリシアへと手を伸ばし、そしてその爪を突き立てようとして――
「《セイクリッド・エクスプロード》」
――静かな呟きと共に放たれた一閃は、辺り一帯を薙ぎ払った。
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