救世主
「なあ二代目。俺に負けるなんてこと、微塵も想像していないんだろう?」
「当然じゃない。それがどうしたというの」
「だったら一つ、賭けをしようぜ」
俺の剣は二代目が拳に込めた魔力と交差する。今回の剣は奇襲用に砕けやすいやつではなく、とびっきり硬度を高めたやつだ。それに剣王を絡め、魔術・空間で幕を張る。駄目押しに無崩の幕を上乗せすればどれだけ実力差があったって拮抗を作ることくらいは容易だ。
「俺はお前はこの戦いで負けるに一票だ」
「なら、私は私に楯突くすべての人間が皆殺しにされるに百票くらい入れておくわ」
「じゃあ、賭けは成立だな。勝ったら喜ばせてもらう」
「私が買ったら愉悦を味合わせてもらうわ。もう無駄話はいいわね」
二代目はニヒルに笑った。
「死にやがれ、雑魚」
「ごめんだよ」
俺も、虚勢たっぷりに笑って見せた。
俺と二代目の実力差は明白だ。しかし、二代目とて魔法での戦闘を主体とするいわゆる後衛。前衛として研鑽を積み続けていた俺には分かる、二代目は近接戦闘は得意ではないタイプだ。実力の押し付けでごり押されたりもしたが、正面からぶつかり合えれば受け流せないこともない。
ステータスとスキルの正面からのぶつかり合いは理不尽な力の押し付け合いと同義だ。俺では到底二代目には敵わない。だが、勝とうとしなければいけなくはない。いや、もちろん勝とうとしなければ当たり前のように負けはする。碌な時間も稼げないのが事実だ。
たった一度の接触でひび割れた剣を片手にしながら、一定以上の距離を置かないようにして二代目と睨みあう。拮抗とも言えないこの絶望的な現状を打開するには、しかしどうしたって一瞬でもいいから時間を稼ぐしかないのだ。
だからこれは、一種の悪足掻きとしか言えない行為だ。
窮鼠が猫を噛むような状況が起こってくれることを願いながら悪い足掻きをする。それくらいして見せたって、格好良くもなんともないことは自覚しているつもりでも。結局は、それ以外の選択肢がないのであった。
「もしかしてお前は、まだ助けが来るんじゃないかって思ってるのか!? この絶望的な状況で好転する未来を想像できているのか!? だとしたらただの馬鹿だ。度胸と胆力は認めていたが、それは脳内の馬鹿が取り付けた無謀だったってことなのか!? 失望したわよ、人間ッ!」
勝手に失望してろと、剣を振り降ろしながら脳内で呟く。
振り下ろした剣が二代目の手に込められた魔力に触れた瞬間、電撃のようなものが走って弾けた。剣に一際大きなひびが走り、氷の欠片が飛び散った。
「どれだけ抵抗したって手段はないと、それくらいの理性的な判断を出来るくらいには賢い人間だと思っていたが……とんだ期待外れだったらしい。もう、死ねよ」
空いた片手に魔力を溜めて、それを向かわせて来る二代目の攻撃を引き離した剣を振り直す。ぶつかり、砕け散る。衝撃が走り、俺と二代目の間で爆発が起こる。意味が分からない。衝撃が先に起こってから爆発だ、爆発の衝撃ではない。
二段階仕掛けの爆弾の勢いに押されて姿勢を乱す。
それはあまりに一瞬過ぎる隙で、この数秒間取り繕っていた隙だった。取り繕えなくなったその隙を突くことくらいは余裕だと知っていたからこそ、俺は二代目の相手に慎重になっていたのに。理想よりは大分早く訪れてしまったそれに、絶望にも似た何かを覚える隙も無く魔力が目の前にまで迫っていた。
そんな時ですら、やはり俺はどこかで想像し続けるのだ。必ず助けがやってくると。
「間に合ったって言えるのでしょうか、この状況は」
だからこそとは言わないが、間違いなく間に合ったと言えるのだろう。俺と二代目との間に割って入ったその存在は、俺の知る人物で、この状況を好転させうる有力な存在だったから。
「ばっちりだぞ、リリ」
「それは良かった」
リリが握る拳に纏った魔力と二代目の魔力とがぶつかり合い、二代目が突然のリリの登場に意表を突かれたのもあってか、二代目は大きく押し返された。
「さ、二人とも行きましょう。こんなところで時間を使っている場合ではないですよ!」
「そうだな、リリア、行こう!」
「えっ、う、うんっ!」
二代目もリリアも動揺しながら、しかしリリアの方が早く動き出す。二代目を置いて俺たちは駆け出した。
二代目も数秒遅れて駆け出すが、リリの魔力補助を受けて引き離す。
「リリ、ナイスタイミング」
「いえ、こちらこそ遅くなってすいませんでした。間に合ってよかったです。……リリア、四代目リリアですね。初めまして」
「は、初めまして?」
リリアはぎこちなく返事する。それはそうだ。自分と似たような容姿を持った、そして二代目と似た容姿を持った、人や二代目よりもはるかに強い存在が目の前に突然現れたのだ。驚くのも無理はない。
でもまさかこの場に助けに来てくれるのがリリとは思っていなかった。いや、ある意味想像しやすかったのかもしれない。
ここに、エルフの結末が訪れる。
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