エルフの運命
「それにしても、よく俺たちの場所が分かったな、リリ」
リリの合流し、二だ命からの逃亡を図っている俺たち。リリの魔法のおかげで多少の余裕が出来たので話を振ってみた。
「そこら中探し回りましたけどね。帰りが遅いのと、私と似た気配が微かに感じられたので。もしや、とは思っていました。あれが恐らく、リリアの名を真に継いだクイーンエルフなのでしょう」
「やっぱりそうだったか」
それにしても、なんだかややこしいことになって来たものだ。
「まあ、一先ず整理するならば、二代目真・クイーンエルフはネルの下に身を隠していたわけだ。で、邪神として覚醒したネルの能力も使って俺たちを始末しに来たわけだ。あの魔術・冥府、アナザーカーテンはネルの専売特許のはずだし。俺と言うよりはリリアが目障りだったんだろうな。だって表ではネルに従っていたのはリリアだ。ただ、これからは二代目が成り代わろうってわけだ」
「身勝手なことですね。しかし、なるほど。色々と合点は行きますね」
「……私も、納得できるところは沢山あったかな。ねえ司君、やっぱり二代目は私たちを養分にしようとしていたのかな」
「ここでは倒した相手のスキルや称号を貰える、そしてレベルを上げられる。リリアの母さんは、つまりそう言うことだったんだろうし、リリアもそうされそうになっていたのかもしれない」
「そう、だったんだよね。やっぱり」
少し俯いたリリアが見せる表情は、悲しげなものだった。
リリアだって、ネルを本気で慕っていたのだ。きっと、二代目のことも。だからこそ、自分が誑かされていたこととか、殺されそうになっていたこととか。それ以上に、それが自然なことだと思わされていたこととか。
どうしようもなくショックで仕方ないはずだ。
「分かってはいたんだけど、いざその時になってみると、どうしても嫌だって思っちゃうし、死にたくないって願っちゃうよね。お母さんがいなくなってから、そんな気持ちが大きくなっていく私は、自分が可笑しいんだと思っていたんだけど、そんなことすら、分からなくなってた」
「どうやら、リリアは司さんにかなり助けられてきたのですね。無論私も。何か、運命染みたものを感じます」
「そんなものじゃないだろうさ。それに、今はこうしてリリに助けてもらっているんだ。リリアにも、俺が奴隷として売りに出されそうになっているところを助けてもらった。助け合って、お互い様ってところだな」
「そうなのかもしれませんね」
リリはそう言って微笑んだ。そして、リリアを見る。
「四代目、ハイエルフのリリア、これまで苦労を掛けたことを、改めて謝罪します」
「へっ、急にどうしたの?」
「いえ、なに。私の不注意で二代目にあのような力を付けさせ、それであなたと、三代目がその被害を受けたのは紛れもない事実ですから。一つ、私の力不足を詫びねばならないと思いまして」
「そ、そんな! それが無ければ私は生まれていなかったし、司君とも出会えなかった。今こうやって責任取って、って言い方で合っているのか分からないけど、私たちを助けてくれているだけで十分だよ」
「そう言って貰えるのなら、私としても気が楽です。……さあ、そろそろ雑談をしている場合ではないみたいですよ」
柔らかい笑みを仕舞いこみ、鋭く厳しい視線を浮かべたリリは速度を緩めないままに振り返る。
「《カオス・サイクロン》ッ!」
その手を広げて叫ぶ。リリの手のひらから放たれた黒い疾風は渦を成し、死した自然の営みを巻き込んで大きく広がった。
カオス・サイクロンは魔術・自然の魔法の一つで、植物が死ぬ際には放つ僅かながらも確かにある悪感情を凝縮した魔法。それが形となって顕現し、瓦礫や灰となって視界を覆いつくした。
「あまり余裕はありません。今のうちに少しでもかなさんたちの下へ!」
「ああ!」
「うん!」
リリが放った魔法の向こう側、確かにそこには二代目の姿が見えていた。リリがいち早く気付いて対処してくれたおかげで回避できたが、あと少しでも遅ければ今頃は接敵していたことだろう。
リリが合流した今でも戦力的にはあちらが上だ。なんと言ってもリリはクイーンエルフとしての力を完全には発揮できていないし、逆に二代目はネルから邪神としての力の一端を借り受けている様子。そう簡単に相手取ることも出来やしない。
しかしかなたちと合流さえできれば、少なからず防戦一方のこの状況から脱することが出来る。
「司さん!」
「どうした、リリ」
「どうやら、一旦合流は諦めたほうが良いかもしれません」
「なんだって?」
リリの言葉に振り返る。確かに気配察知で認識はしていたのだが、自分の目で実際に見てみないと理解し難い光景だったと、見てしまった今なら分かる。
俺たちの足元で、どんどんと森が死んでいっていた。
「お前ら、いい加減にしろ。いい加減鬼ごっこも飽き飽きだ。大人しく、死にやがれ」
二代目クイーンエルフ、リリア。邪神ネルから冥府の力を授かった彼女は、自然を殺し、育み、管理する。真の意味での、世界樹の管理者になっていた。
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