vs二代目

「司君、準備はいい?」

「もちろんだ!」


 リリアの声に合わせて窓の周りの壁が動き出し、そこにあったはずの壁がどんどんと無くなっていく。リリアの植物支配権の効力だろう。二代目の姿が露になった。


「あら、引き籠るのかと思ったけど潔いわね。ま、どちらにしたってやることは変わらないけど」

「司君、来るよ!」

「おう!」


 二代目は両手を掲げ、一気に振り下ろす。


「《エアリアルブラスト》」

「《エアリアルブラスト》ーっ!」


 二代目が放ったのと同じ魔法をリリアも放つ。互いの魔法がぶつかり合い、相殺するかと思われた。がしかし、どうやら二代目の魔法の方が強力であるらしい。僅かに残った勢いが俺たちに襲い来る。


「リリア!」

「司君、大丈夫!?」


 咄嗟に無崩の幕を発動し、リリアの前に出て庇う。


「ふぅん、忠実な奴隷なのね。勝ち目のない戦いに挑む主をその身を以て守る。うん、ネル様の期待した通りね。でも残念、あなたにも死んでもらうわ。『ヘル・インフェルノ』」


 森を焼き尽くさんとするほどの轟炎が放たれる。


「っ!? すーっ、『アイシクル・メテオ』ッ!」


 大きく息を吸って、集中した意識の中で無数の魔法陣を描き出す。人を覆いつくすほどの大きさの氷を数千と生み出し、轟炎へと向ける。

 ぶつかり合い、弾け飛ぶ。やはり相殺しきれない魔法を見て、魔法を正面から打ち合ったら不利と察する。


「クソッ! リリア、一旦離れよう。こんなところにいたら的にされる」

「わ、分かった! って、転移が使えない?」

「え? ほんとだ……」


 炎と氷の接触で生まれた分厚い水蒸気を壁にしながら転移しようとすると、上手くいかなかった。転移が出来なかった事例は過去にもあって、その時は確かオレアスからここに転移しようとして駄目だった。

 でも、リリアと初めて出会った時はここに転移してきたはずだ。何か理由があるのだろうか。


「リリア、一先ず飛ぼう! 空中なら的になることもないだろ!」

「うん! 付いて来て!」


 魔法で飛び上がったリリアに続き、俺も飛裂の羽を使って駆けあがる。残留していた炎を抜けて飛び上がった俺たちを、どうやら二代目は見逃してくれないらしい。


「小賢しいわね。逃がすと思っているの? 《エアリアルブラスト》」


 広範囲に放たれた突風を、俺とリリアはギリギリのところで躱す。やっぱり空中の方が勝手が効く。俺たちの考えが分かったのだろう、二代目は鬱陶しそうに顔を歪めて舌打ちし、俺たちを追いかけて飛翔した。 


「待ちなさい!」


 俺たちよりも遥か高速で空を駆ける二代目は、一瞬にして俺たちに追いついてくる。その右手に魔力を籠め、それを叩き付けるように向けて来た。

 魔法以外も使えるのかよ、と驚きながら腕を交差させて拳を受ける。


「これは……っ!」

「効かない! これでも食らえ!」


 無崩の幕で攻撃を防ぎ、右手で握ったアイサファイヤ・ロングソードを振るう。二代目は分かっていたかのように躱す。俺は返す手で投擲し、それすらも躱そうとした二代目の目の前で爆発させる。そこまでは予測していなかったのだろう、一瞬の隙を見せた二代目は爆風に怯んだ。


「リリア、行くぞ!」

「うん!」


 兎にも角にもここから離れないと話は始まらない。いざという時の転移も使えない状況が続くのはなにも美味しくない。それに、出来るだけソル達の方に近づきたい。現状を見るなら、俺たちでは二代目には敵わない。

 魔法の威力、移動速度、ステータス。目に見える差がある。俺もリリアもそれが分かっているから最初っから逃げ腰ではある。けれどこれは、要するに戦略的撤退である。状況が好転しないことには争うこともままならない。


「この、クソ生意気な!」


 体勢を整えた二代目は再び追ってくる。先程の攻撃が相当気に障ったのか、怒りに目を細めてさらに勢いの乗った拳を打ち付けて来る。


「早すぎるだろ!」

「二度目は、ない!」


 無崩の幕を両腕に集中させた俺は二代目の拳に抗おうと交わらせる。しかし、再び打ち付けられた拳は先程の比ではない魔力が込められていて、威力もそれに比例して上昇していた。これだけの魔力を一本の腕に込めてしまえば反動も小さくないはずだ。

 怒りに身を任せて、全力で殴り掛かって来てるのか。


 腕に響いた衝撃は、獣人国の王城でかなに殴られた時と同等かそれ以上。それらしいスキルを持っていなかったというのに、魔法以外でもこの威力かよ。


「《エアリアルブラスト》ーッ!」

「くっ、《マテリアルレジスト》」

「《アイシクルランス》ッ、リリア、下がるぞ!」

「このぉっ! クソッ」


 リリアの魔法を受ける食べに壁を生み出した二代目の背後から氷の槍を飛ばす。前後から魔法を浴びせられた二代目は苦しげな表情で壁を維持する。持続力のある魔法を放って時間を稼ぎ、俺とリリアは一気に距離を離すべく加速した。

 

 確かに二代目の攻撃は強力で、魔力総量やステータスでも劣っている。だがこちらは二人、相手は一人。それに俺は二代目に出来ないことが出来る。完全上位互換を相手にしているわけじゃないんだ、やりようはいくらでもある。


「簡単に負けてやると思うなよ!」

「私たちは諦めたりしないから!」

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