戦う仲間

 邪神教の連中は、どうやら俺たちを見つけたらしい。

 邪人の中に魔人も混ざった数万規模の大群の内、千体ほどがこちらに向かってきているだろうか。


「最初に暴れたい奴はいるか?」


 低ステータスの雑魚が千体程。はっきり言おう、ここにいる誰だって一人で相手できるレベルの敵だ。まあ、正直意味が分からないけど。

 量より質、なんて言うことがあっても一騎当千を実現できる俺たちはやはりおかしいのだろうか。一応、魔人や亜人だって人によっては逆立ちしても勝てないくらいには強い相手だ。


「暴れていいのかしら? 私、鬱憤が堪忍袋の緒を引き千切って噴火しそうなくらいなんだけど」

「そりゃ凄い。スーラはどうする?」

「……ヘイルについて行くさ」


 ヘイルとスーラが名乗りを上げた。

 

「総勢数万と言ったところか。魔人に関してはどうやって生まれているのかが分からぬし、これから更に増えることも考えておいた方がよかろう」

「いざとなれば、妾らの中で誰か一人でも邪神と相対し、討つしかないかの。邪神教の連中とて、邪神そのものが滅されれば威を失い、戦意を無くすやもしれないかの」

「そうですね。教団の目的が亜人、獣人の殲滅ならば戦力を失った時点で諦めることでしょう。しかし、もし人類を滅ぼしたその先に世界の滅亡での望んでいるのなら、きっと尚向かってくるかと」


 ソル、ルナ、リリさんの順で意見を述べてくれる。

 あれだけの大群が向かってくる中でもこれだけ冷静に対応しているのを見ると、やはり肝が据わっていると思わざるを得ないな。


「考えないといけないことは沢山あるな。だけどまあ、最初に言った通りあいつらが止まるまで戦い続けるまでだ。それがきっと、邪神教からこの世界を守る唯一の方法だ」

「ん。かなに任せて」

「ああ、頼りにしてるぞ、かな」


 小さく頷くかなの頭を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細めるかなに微笑んで見せてから、俺は再び前を見据える。


「とりあえず、ヘイルとスーラ、頼んだぞ」

「お任せなさい! 私たちは対多最強で有名なんだから!」

「はぁ、仕方ない。やるだけやってやろう」


 意気揚々と返事したヘイルに追随するように、スーラはその背を追って走り出した。ゾンビのように揺ら揺らと迫ってくる千体あまりの大群に突き進んでいく二人の少年少女。その姿を見れば無謀なようで、それでも勇士が輝いている。

 人類最強と言っても過言ではない二人の勇者たちは、なんだかんだあって人類の敵と戦ってる。もしこれが運命ってやつなら、やっぱり俺もいつか勇者たちと戦わなければならないのだろうか。決着を付けなければならないのだと知れば、俺はその時本気を出せるのだろうか。


「じゃあ、私たちも行こうか、お兄ちゃん」

「ああ、そうだな」


 投げかけられた黒江からの言葉をぐったりとした右手で拾い上げる。かなの頭を撫でた感触がまだ残る左手と違って、この右手には冷たい感触だけが残っていた。そんな右手を握る妹の両の手は、酷く温かかった。


「さてみんな、行くぞ。邪神討伐の始まりだ」

「くっくっく、面白くなってきたな」

「ようやく、妾の使命を果たさんとする時が来たかの」

「……疑問に残ることは沢山あります。教団だけが敵と言うわけでもありません。気を付けながら行きましょう」

「やっと聖なる力を解放する時が来たのかな。みんなのために、全力で戦うよ!」

「ぼ、僕も皆さんのために頑張ります!」

「出来るだけのサポートはしてやる。やりたいようにやるがいいさ」


 こうして振り返ってみれば、最初は一人ぼっちで平原に投げ出されていた俺も、たくさんの仲間に恵まれたものだ。リリアに拾われ、リルを仲間にした。ルナ、アリシアやソル、ネルにも会った。黒江と再会したり、ネイルとスーラとも最初は敵としてだったがなんだかんだで仲良くなった。

 リリさんにも出会えたし、もう増えないだろうと思いつつ、邪神教の奴らを倒した後でもまだまだ出会いがありそうな予感がしている。


 だけど、今はこのメンバーで戦う。この場にいない人もいるけど、ネルとリリア、ソルだって参戦してくる予感がする。アリシアだって来るんじゃないのか? なんたって武勇の国の戦姫だ。俺だって勝てるか分からない、聖人だ。人間代表として飛び入り参加してきたって不思議はない。

 

「司、行こ」


 それでもやっぱり、俺の隣にはかながいる。最初から最後まで、俺の隣にはかながいるんだと思う。


「おう。かな、みんな、行くぞ」


 万を超える敵軍に向けて、俺たちも全力で駆け出した。


「この戦場で神殺しの称号を最初に貰うのは誰か、競争だ」


 後になって考えてみれば、やっぱり頭がおかしかったんだろうなって思う。

 だって、その時の俺は最高に楽しんでいたのだから。

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