接敵

 邪神教。

 こっちの世界に来てから何度か関わったことのあるやばい集団だ。

 

 時には生物を爆弾に変えたり、王城に潜入してきたり、邪神を復活させたりしている。人間の国はすでに大部分を侵食されているようだし、今目の前に広がっている通り、亜人や獣人の国にまでその魔の手を広げつつあるらしい。


 邪神教と思わしき数万を超える大群が、平原のど真ん中に陣取っていた。


「凄い魔力を纏ってるな」

「恐らく、あれが幻術の類なのだろう。そうして地理を偽り、亜人国、獣人国の両陣営を混乱させているのだろう。しかしまあ、いざ対面してみればこうも滑稽な物はないな」

「そうかもな」


 邪人教の奴らは平原のど真ん中、良くも悪くも目立ちすぎる場所に居座っている。やつらの目的は獣人国の兵士たちが引っ掛かったように敵だと勘違いさせて共倒れさせよう、と言うものなんだと思う。

 実際奴らは所在と姿を偽る幻術を周囲に展開している。ただまあ、種が分かればなんてことはないこけおどし。手抜きの張りぼてに過ぎないそれを見通せてしまえば対処は簡単だ。


「ここからでもはっきり分かるくらい巨大な奴、あれが邪神だ。あいつと、あいつを倒しても向かってくるようなら足元のやつら。獣人国や亜人国の敵に成り得るすべてを殲滅する、ってのが今回の目標だ」

「ふっ、我が主ながら、末恐ろしいことをよくも揚々と言い放つものよな」

「血も涙もないと思うならいくらでもそう言えばいいさ。容赦したら負けなんだからな」

「司殿の言う通り、妾達の為すべきは世界を滅ぼしかねない存在の排除。勇者の小童どもは人間の存亡のために戦う。良いではないかの、妾たちであればあの程度の雑魚をいくら相手にしたとして、負けることはないかの」


 戦闘狂、なんて馬鹿にしていた思想が俺に乗り移っているのを自覚しているとリルとルナがそんな風に賛同の声を上げる。


「ん、かなも頑張る」

「私たちだって、信じる正義のために戦うよ」

「そうね。勇者として人類の敵を払ってからでも獣人と亜人を相手するのは遅くないわ。司にリベンジするのも、後回しにしてあげるわ」

「そりゃ有り難いことだな」


 かなと黒江が短く賛同し、ヘイルも言い回しは面倒だが右に倣った。


「唯一気がかりな点を挙げるなら亜人国とソル、それとネルの状況が分からないことくらいかな」

「ソル、って人はそんなに重要なの?」

「重要、って言うか俺が知る限り最強の存在だからな。どういう状況にあるのか分からないのは不安要素だな」


 黒江なんかはソルの重要性は確かに良く分かっていないだろうな。ヘイルたちも分かってないだろうし、ちゃんと説明しておいたほうが良いだろうか。


「確かに、黒江やヘイルたちは亜人国の連中とかソルから認知されてないだろうし、改めて説明せておこうか。ソルは原初の七魔獣の一体で、陽弧と呼ばれる種族なんだ。ルナや亜人国の国王、ネルとも旧知の仲なんだが、この三人の中でも頭一つ抜けていると思うのはたぶん俺だけじゃない」

「間違いなく、ソルは妾らの中で最強の存在かの」

「ただな、今は俺たちでも良く状況が分からないんだけど、ネルが何か力を得たらしいんだよな。その力が不気味だったから俺たちは逃げてきたわけで、その後でソルとの連絡が取れなくなったんだよな。だから正直、今の亜人国の現状は何も分かってない。だからこそ、ネルとソルの個人の力、そしてネルが従える亜人国の軍の力にも注意を割いておかないと何が起こるか分からないんだよな」


 予想できるところとしては、ネルが暴走して邪神教もろとも俺たちも蹂躙されるとか。他にも、全員蹂躙とまでは行かなくても勇者組が敵と勘違いされて襲われるとか。あり得ない話ではない。


「なるほどね。出来るだけ気を付けるよ」

「そうね。私たちは確かに人間以外の種族を目の敵にしてはいるけど、私たちから仕掛ける必要はないし、出来る限り敵視されないほうが良いのは確かよね。国の代表として意識して接しないとね」

「それはそうとお兄ちゃん、あそこの軍勢がこっちに進んできてる気がするの、気のせい?」

「は?」


 目で見える距離でいろいろと話していたからだろうか。

 黒江の言葉に釣られて先程まで邪神たちが居た方向を向くと、間違いなく邪神の足元にいる軍勢、魔人や邪人たちが進軍を開始していた。


「……よし、あちらから先制攻撃を仕掛けて来るならなおのことやりやすいよな。みんな、戦う準備をしとくんだぞ」

「私は準備万端だよ」

「問題ないわよ」

「ん、何時でも大丈夫」

「我も、久々に暴れられることを楽しみにしよう」

「妾も役目を果たすかの」


 迫りくる軍勢を前に、俺たちは闘志を燃やした。

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