遊び相手
そして、戦闘は激化する。
響き合う獲物の共鳴。連続する瞬きは魔力の弾ける光。刹那をかける軌跡を追うことは、最早不可能だろう。あの二人の争いに割って入ることなど、最早ここにいる誰にもできやしない。
「《エレメンタルフォース・マテリアルインパクト》」
「虚空が爆ぜただと!?」
かなの魔法の精度に掛かれば空気中の分子の一つ一つですら対象にして魔法を発動できるらしい。獣王の目の前の空気中の水分が大きく爆ぜた。獣王はその爆風太刀で防いだが、勢いに押されて大きく押し退けられる。
その隙を逃すようなかなでもなく、一気に間合いを詰めて爪を構える。
「《魔爪》」
「ぬあああああっ!」
かなの黒い爪は獣王の胸元を大きくかっぴらき、獣王もそれを受けて大きく後退する。胸元に空いた傷はすぐに塞がるが、避けた服や痛みはそう簡単には治らない。胸元に手を当てる獣王は、苦しそうに息を吐く。
「はぁ……はぁ……」
「そんなもん?」
「調子に、乗るなああぁあぁ!」
獣王の握る太刀が大きく輝く。籠った魔力が解き放たれ、純粋な物質へと変化する。刃を覆うその光る物質は、一振りする度空気を割く音が大きく響き、空気を震わせる。
「我もまだまだ未熟よのぉ。本気になるのに感情に頼らずにはいられないとは……だがな、案ずるな。貴殿に一矢報いるくらいの実力を持っていることを保障しようではないか」
「……ん、そう」
「興味なし、か。くくっ、なおのこと、本気で相手したくなるな」
武者振りと言うやつだろうか。全身を震わせながら不気味な笑みを浮かべる獣王は、太刀を構えてかなに向き直る。
「《魔剣》」
獣王の魔力が太刀に宿る。
「行くぞ!」
幾度となく立ち上がっては向かって行く獣王だが、その度に疲弊し、それと同時に力を増していく。まるで、倒せば倒すほど強くなるラスボスみたいな。正しい攻略法以外では絶対に突破できないみたいな裏ボスみたいな。決して強くないくせにギミックがウザ過ぎて攻略を読まないとクリアできない隠れボスみたいなやつ。
そんな奴を相手に、かなはどう立ち回るんだろう。
「温いって言ってる」
感情の起伏を感じさせない声で告げられた宣言通り、獣王の連続する斬撃の悉くをかなは片手で握る得物で受け流す。獣王の太刀は確かに大量の魔力が込められて強化されているはずなのに、それを何食わぬ顔で防ぐかな。そしてそんな太刀を受けても壊れない剣共に、常軌を逸しているとしか言えない。
それでも獣王は食らいつき、攻撃の手を緩めない。確かに今のかなを相手に獣王では分が悪いが、攻撃は最大の防御、責め立て続ければ一方的にやられることもない、とでも思っていそうだ。
確かにかなを防御に徹させれば反撃を食らうことはないだろうし、有効な手段と言えなくもない。でも忘れちゃいけない。かなは常に、一人じゃないってことを。
「《エレメンタルフォース・マテリアルインパクト》」
「これだけの技量を保ちながら、魔法も使うか!」
興奮気味に獣王が言った通り、獣王の全力の猛攻を防ぎながらかなはいとも容易く魔法で反撃を始めた。
その身にデストロイヤーやウォーリアーを宿すかなは一身三心、一つの体に三つの魂を宿す存在とも言える。俺とリルが体を共有するようなものに似ているが、精霊たちは文字通りかなの言いなりだ。優秀な分割思考と言っても過言ではないそれは、純粋に力量を倍加させていると言える。
まあ要するに、精霊完全支配を使ったかなの力は通常時の三倍になってるわけだ。
そして魔法を躱した獣王にかなの追撃が連続する。
「攻撃だけ?」
「な、舐めるな!」
獣王はかなの挑発にいとも容易く乗っかった。かなのそれより速い振りで太刀を捌き、かなの攻撃回数を上回ろうとペースを上げる。大きく息を切らしながら速度を上げていく獣王に、しかしかなは平然とした顔で食らいつく。
上がる速度に僅かな変化で追いつき、追い越す。
まさに子ども扱いだな。赤子の手をひねるよりも軽々と獣王の全力を超過していくかなは、遂に決定的な一言を呟いた。
「つまんない」
「なっ!?」
獣王が絶句する。そのあまりの速さと精密さに魅了されて。そして、圧倒されて。
「敵うはずもなく、か」
振り下ろされたかなの爪は、獣王の胸を真っ直ぐ貫いた。魔力と一緒に湧きだす鮮血は、辺り一面を赤く染める。あれだけの動きをしていたのだ、体内の血液は尋常ではあり得ない圧で巡っていたはず。
そうして噴出した純赤がかなの頬を汚した。
「はい、おしまい」
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