太刀

 かなと獣王の戦いはいよいよ最終局面だ。

 全身に傷を負った獣王は息を荒くする一歩で、かなは無傷の上に疲れた様子一つない。肉弾戦しかしてないから両者魔力は十分だが、魔力を使った戦いを始めたところでかなの優位は揺るがないだろう。それに、今まさに俺たちが連れ帰ったウォリアーがかなに合流した。

 ステータスが三割に増しになり、更に圧倒的な力を手に入れた。


「まだ、強くなるか小娘。はははっ! 面白い。この我をここまで凌駕するだけの力を持ちながら、まだまだ力を隠し持っているのか!」


 心底愉快そうに笑った獣王は、何もない空間から大太刀を掴みとって引き抜いた。


「我もそろそろ、本気を出すとするかのお!」


 それを握った直後、獣王の力が急激に増したのを感じる。あれ、なんだ?


 名前:獣剛の太刀

 耐久力:―― 攻撃力:+―― 魔力:――/――


 ステータス、見れないんだけど。


「あれは神器獣剛の太刀。猫種亜人最初の個体が神から与えられた恩恵の一つです。エルフ族に与えられた森を操る権能や、人間族に与えられた一定個体ごとに勇者が現れるという法則。それらに類似する、それぞれの種族が調和を保つために与えられた錘の一つです」

「なるほどな。つまり、リリの全力に匹敵するだけの力を得た、ってことか」

「その解釈であっています。ですが、一つ付け加えるのならあれはその模造品です。上位精霊の力を借りて作成こそしていますが、その能力値は元の八割ほどになっています。なので、単純計算で力は私の八割程度ですね」

「レプリカなのか」


 結構なオーラがあるし、俺の解析鑑定すらも弾いて、レプリカなのか。それとも何か別のからくりだろうか。


 そんなことを考えていると、獣王は自分の丈より五割ほど大きいな刀身を肩にかけ、大仰な立ち振る舞いで鋭い視線をかなへと向ける。


「いざ、尋常に」

「相手してあげる」


 そう答えたかなは、こちらにゆっくりと瞳を投げてくる。


「司、あれ貸して」

「あれ?」

「ん、剣。かなが取ってきたやつ」

「おう、いいぞ」


 名前:――

 耐久力:1/1 攻撃力:0 魔力:0


 たぶん、これ事だよな。

 何の名前もなくて取柄もない黒塗りの剣を、かなへほいと投げて渡す。かなはその柄を握って受け取り、獣王はそれを律儀に待った。


「それがお前の剣か? はっ、幾ら使用者が優秀であろうと、我の太刀にその鉛で敵うとでも?」

「ただの鉛じゃない。ウォーリアー」

「グオオオオオォォッ!」


 かなの呼びかけに応じて、かなの内側から小さな光が飛び出してきたそれが、かなの握る黒塗りの剣に入り込む。そして、姿を変え、形を変える。


守護靭ウォーリアー、行く」

「ほお! 愉快な剣よなぁ! それでは、仕切り直しと行こうか!」


 形を変えたかなの剣は、銀色のメタリックな輝きを放ち、細かった刀身が三倍ほどに分厚くなっている。長さこそ変わらないが、もう切ることは出来ないだろうな。こん棒みたいな見た目になっていた。


 名前:守護靭ウォーリアー

 耐久力:29810/29810 攻撃力:+9018 魔力:11929/11929


 ウォーリアーが宿ったから、なんだろうな。さっきまでの剣とは思えない性能をしていた。攻撃力はあまり上がらないが、耐久力が高くて使いやすそうだ。あの獣王の太刀を止めることは余裕だろうし、打ち返すことも出来るだろう。

 なるほど、一先ず獲物を止めるためだけに用意したわけか。


 かなが武器を使えるなんて話は聞いたことが無かったし、あれを危ないと判断したわけだ。


そして、戦いの幕は再び開かれる。

 太刀を片手で担いだ獣王は、その大きな刃を勢いよくかなへと叩き付ける。

 かなは一瞬のステップでそれを躱し、太刀の間合いの内側へと潜り込む。


「なんのぉっ!」


 しかしそれを見越していたかのように獣王は一歩引き、返しの刃を横に振るう。かなはその一撃を飛んで躱し、更に距離を詰める。


「ならばこれで、どうだ!」


 獣王の太刀を握っていないほうの手が黒く輝き、魔爪を発動する。そして、空中にいるかなに対して広範囲かつ高威力の斬撃を飛ばす。爪に宿した魔力をそのまま飛ばすと言うゴリ押しに具合に驚くが、かなは宙を蹴って難なく躱し、肉薄する。


「甘い」

「ぐほおぉぉ!?」


 かなに蹴り飛ばされ、獣王は壁へと激突する。


「くっ、やるな……だが、まだこれで終わりではない! 神器を手にした我の力、そう侮ってくれるなよ!」


 しかしすぐさま立ち上がり、今度は先程までの大降り具合とは打って変わって細かなステップやフェイントを挟んだ斬撃を見舞う。その剣裁きは剣王のスキルを持つ俺ですら凄いと思えるほど。これは剣の力云々だけでなく、獣王自身の技量も凄まじいことの証明なのだろうか。


 それでもかなは怯まない。今度は握っているだけだった剣で獣王の斬撃を、躱す必要のないものをそうでないものを見極め、躱した先をついてくる攻撃にだけそれを当てて攻撃を逸らす。直接振るったり打ち合ったりするのではなく、身を守るためだけに使う。

 やはり、かなの戦闘センスには毎回驚かされてばかりだな。

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