見届けること

 リリを地下から連れ出した。

 ずっと城の上で繰り広げられている戦いが気になっていたが、ようやく様子を見に行ける。


「一気に行くぞ、リル。リリは後からでもいいからな」

「いえ、お供しますよ。それに、戦闘はそろそろ終わりそうですから。場を収めるのは、私の責務と心得ていますので」

「じゃあ任せるよ」


 場を収める、ねぇ。だって相手にしてるの、たぶん獣王だぞ。倒れてた気がしたけど、やっぱり生きてたな。そして、まあ色々あったことが伺えるな。かなが相手をしている。

 かなと獣王の戦いに誰も干渉してないのはかなだけで十分と考えているからか、それとも入り込む余地もないからか。どちらにしても、他の奴らに被害が出ることがなさそうなのは幸いだな。かなが相手なら獣王には余裕なんて残ってないはずだからな。


 さて、俺たちがダ取り着くまでに決着がつくかな。


「っと、流石にまだだったか」

「お兄ちゃん!? 戻って来たの? だ、だったら早くあれどうにかしてよ!」

「どうにか、ねぇ」


 俺が戻って来たのを見てすぐ気づいたのは黒江だ。これが兄弟愛のなせる業だと思いたいところだけど、たぶんリウスのスキルの恩恵だろうな。


 で、黒江が指さしたのは獣王とかなが戦ってる場所だ。

 変な魔力が渦巻いてるし、かなは精霊完全支配も使って本気だし。いつ振りだろうな、かなが精霊完全支配も限界突破も発動して戦うのは。成長したかなの全力は、もう俺の想像の遥か斜め上をとうの昔に越している。


 あれを止めるのはソルでも苦労するだろうな。


「安心しろ。獣王じゃもう勝てないから」

「い、いや、そんなことないでしょ! だ、だって王様だよ? 獣人のボスなんだよ? ラスボスが弱いわけないじゃん!」

「こいつがラスボスかどうかはさておき、あいつが弱いんじゃなくてかなが強すぎるんだよ」

「そ、そうは言っても……」


 そうは言っても、と言っても。

 だって、かなが負けるわけがない。


「根拠ない自信とかじゃないぞ。家族贔屓とかでもない」

「……ただの野良猫だった子だよ?」

「馬鹿言え、俺たちだってただの人間だったらだろ」

「ああ、確かに」


 いや、それで納得できるんかい。


「だったら可笑しくないのかな。私だってこんな力貰ったんだし、お兄ちゃんも変な力持ってるしかなちゃんもなんかすごいし」

「途中から曖昧になったな」

「でも、どうしてかなちゃんだけ頭一つ抜けてるんだろう」

「まあ、それはあいつは過酷な猫生を送ってたし、何よりたぶん、一番積極的に戦ってきたやつだ。野生の生き物ってのは凄いよな。あっという間に順応してた」

「そういうものなのか」

「たぶんな」


 もちろん良く分からないし、かなの力と違ってこっちには根拠がないし自信もないけど。


「で、リリはどうする? あれ」

「……あなた方、どうしてそこまで余裕があるのですか? 天災にも匹敵する戦いだと思うのですが。ちなみに私はこの聖戦を見届けます。長命種の使命ですから」

「実はお前も余裕あるだろ」

「まあ、年の功ってやつですね。結果が分かった戦いなんてつまらないですから」

「そう言えばお前も解析鑑定持ってたな」


 まあ、それでステータスを確認すれば一目瞭然だよな、二人の力量差は。


「え、お兄ちゃんこの人誰」

「エルフの偉い人」

「エルフ? 亜人ってこと? なんでお兄ちゃんが亜人の偉い人を連れてるの?」

「地下で見つけた」

「地下で?」

「はい、地下です」

「地下なんだ」

 

 そう、地下なのだ。


「……地下、なんだね。ああうん、そうなんだ。……で、どんな関係性?」

「協力関係? 上司部下? まあ、知り合い」

「そうなんだ」

「私たちが知り合い……そうだったんですね。そんな関係性だったのですね」

「なんか目が怖いですよリリさん」


 地雷でも踏んだだろうか。

 でもまあとりあえずリリの紹介は済んだ。リリには後でみんなのことを紹介するとして、今はリリと一緒にこの戦いを見守ろうと思う。


「と言うか、私は自分のことを話しましたが、私は司さんのことをあまり聞けていないんですよ? ここにいる理由も、獣王と戦っている理由も。現代獣王ですら私の存在を知っているだけで顔を合わせたこともありません。それでも多少の恩義があるこの国を侵略しているのなら邪神よりも前にあなたをどうにかしないといけないのですが」

「ああうん、後で説明しますよ」

「適当ですね、まあいいでしょう。神の知恵によれば、あなたの存在は認可されているようですし」


 何を言っているかは分からなかったが、まあずっと長い時間幽閉されていた人の言うことなんて信じられるとは限らないし、そもそも俺よりずっと長生きをしている人の言葉なんてうまく理解できるはずはない。

 俺には正直、祖父の言ってることも良く分からなかったし。それとこれとはわけが違う気もするが。


「では、見届けましょうか。この戦いを」

「そうだな。あ、でもその前にあいつらどうにかしないと邪魔されるかも」

「え? ああ、ヘイルとスーラ、元気になったんだね!」

「どこが元気よ! 傷はないかもしれないけど!」

「……怒りも冷めた、心配するな」


 お二方も納得したみたいだし、観戦するとしますかね。


「いや、私納得してないから!」

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