リリの解放
「要約すると、邪神になりたくないから匿われてた、ってことか?」
「まあ、そんな所です」
初代クイーンエルフの声は、あれだけ長々と話した後だというのに最初と変わらず滑らかで綺麗だ。さっき喋ってた時もほとんど呼吸していないように見えたが、大丈夫なのだろうか。
で、だ。まあ初代クイーンエルフが匿われる理由は分かった。だけど
「なあ、なんか名前ないのか? 長くて呼びにくいんだけど」
「え?」
初代クイーンエルフは長すぎる。もうちょっと短くしてくれないと気軽に呼べない。
「で、でしたらリリとでもお呼びください。今の私には確かな名前は存在しないので」
「そっか。じゃあリリ、後はどうしてここで匿われているのかと名前がない理由を聞かせてくれ」
「え、ええ」
リリさんは微妙な表情を浮かべながらも、言葉を続けた。
「この国で匿われた理由は、とても個人的な話になるのですが初代獣王との面識があったからですね。彼は邪神を見て酷く感銘を受けていました。しかし、私が邪神の身に落ちることを嫌い、私を匿うことを提案してくれました。そして、名前を失った理由」
想像していたよりもずっとあっさりとした理由だった獣王国に匿われていた理由は、まあ納得の物ではあった。特に、神を信じる人は目の前の人が神成り得るとしても、その人を神と崇めることは出来ないと言った心情は分かりやすい。
俺だって、目の前の人が急に自分は神になれますと言って信じられる自信がない。というか、信じたくない。頭大丈夫かって心配したくなる。
で、名前を失った理由を聞かせてくれるらしい。
「まあ、こちらも簡単な話ですね。世界樹を長く離れすぎた私の名は、エルフ族の掟に従って次世代のクイーンエルフに引き継がれたようです。だからきっと、あなた方が何代目、と言ったところの二代目が引き継いだだけでしょうね」
「おお、あっさり」
分かりやすくていいな。最近頭を使いすぎて疲れていたんだ。
「と、私は思っていたのですが。いえ、正確には私の名が二代目に引き継がれたことには間違いないと思います。けれど、疑問の思ったことがあるのです」
「疑問?」
「ええ。あなた方が言う、三代目、四代目がハイエルフであり、クイーンエルフでないという点について」
「ああ、確かに」
そのことについては俺も聞いた時から違和感を感じていた。リリアって名前が、クイーンエルフの象徴なんだとしたら三代目も、俺たちがよくリリアもクイーンエルフであるべきだろう。では、なぜ二人はハイエルフどまりなのだろうか。
「リル、三代目がハイエルフなのは、間違いないんだよな?」
「うむ、間違いないな。三代目であれば我も勝ち目があると思えたからな。彼女を、リリ女史を見ても勝てる気がしない。くくっ、面白いほどにな」
こうもリルが簡単に負けを認めるとは、なかなか珍しいな。でもまあ、確かにリリのステータスもスキルも凄かったし、漏れ出す魔力を見るだけでもその力の一端が伺える。もしかしたら、それこそ本当にソルやルナともまともに戦えそうなほどだ。
実際どうかは分からないが。
「考えられる可能性としては、その二人はあくまで影武者。私か二代目の影響を受けて警戒心を強めた結果取られた方策」
「まあ、あり得ない話でもないな。リリアはいつも自然体だったけど、本人が影武者だと気づいてないまま影武者をやってる可能性もあるし」
そもそも俺たちを騙していた、なんて可能性は考えたくもないしな。
「他には、そうですね。リリアの名を正式に受け継いだわけではない、とかでしょうか」
「正式じゃない? そんなことできるのか?」
「可能です。確かにリリアの名にはクイーンエルフの力が宿っています。ですが、リリア、という名を持ちさえすればいい、と言うわけではないのです。儀式を行い、正式な過程を踏んで得たリリアの名が、力をもたらすのです」
「なるほどな」
つまり、俺たちが知っているリリアの名前は、側だけリリアで中身が別物、ってことだろうか。名前だけ一緒のパチモンは前世にもありふれていたし、そういう感じだろうか。
「しかし、どちらにしても疑問が残ります」
「ああ、だな。本物のリリアがどこかにいる、ってことだろ?」
「司さんは察しがよろしいようで」
俺の問いかけに、リリは首肯で応える。
「はい。司さんの言う通り、どちらであった場合でも本物のリリア、つまり、クイーンエルフの名を受け継ぎし者がどこかにいるはずなのです。私から名がはく奪された以上、必ず」
「ちなみに本物のリリアがいない、ってことはあり得ないのか? ほら、儀式の前に二代目が何らかの理由で死んじゃった場合とか」
「あり得ないですね。もしその場合は今世にいる最もクイーンエルフに近しい存在、恐らくは私の元に名が帰って来ているでしょう。少なからず、伝承ではそうなっています」
「そうなのか」
となると、俺のひらめきは完全に否定されるわけだ。
「しかし、そうですね。どちらもあくまで可能性でしかなく、何が正解かは確かめてみなければ分かりません。伝承が間違っている場合すら想定されますね」
そんなことを呟きながら、リリは真剣な眼差しでこちらを見つめた。
「見つかってしまった以上、私も動かなくてはならないのでしょう。世界の、安寧のために」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます