地下の中で
まず最初に、ここで起きたことの一部始終。その裏で起こっていたことを説明しよう。
獣王国国王。彼は獣人の血が流れている存在に対して一定以上の命令権を有している。《百十の王》って言う権利だったはずだ。最近忘れてたけど、この世界には権利があって、種族や立場ごとに持っている権限が違う。獣王と言うだけあって、割ととんでもない権利をお持ちの様だ。
その権利のせいでかなが獣王に操られ、獣王の下へと向かおうとした。これはかなが強大な力を持つと察知した獣王が手ごまにしようと呼び寄せたからだ。これは権利でありスキルの類ではないから精神攻撃無効が通用しなかった。
だが、かなが獣王の下に辿り着いた時点で危機を察知してか限界突破が発動した。かなは本能に従ってそのままの勢いで獣王をなぎ倒した。その時点で獣王からの拘束は解かれていたのだろう。けれどかなは操られているふりをした。操られたふりをすれば、俺や黒江と遊べると思ったからだ。
そのことを察したのは俺がかなに吹き飛ばされ、場外の空中でリルにキャッチされた時。明らかに手の抜かれた拳は、勢いだけで痛みを感じさせなかった。そもそも、かなが全力で戦うのなら精霊を宿すはずだから。
まあそもそもあの時のやなは《闘気》を籠めていなかったし《魔拳》も本気じゃなかった。あれは純粋に遊んでたんだってことくらい、ずっと遊びたいと思ってたことだって分かってた。それに応えてこなかったことも、かながずっとその機会を待っていたことも。
だからこそ、あの暴走は俺のせいでもあり、それによって被害を被った獣王や、気配察知で分かっているのだが
かなを叱ってもいい状況な気もするが、少なからず今じゃない。だってかなのおかげで、俺は今すごく順調にことを進められているのだから。
「なあリル。かなって頭いいと思わないか?」
「そうだな。かな嬢の力量を、我もまだ理解しきっていなかったようだ」
俺たちは今獣王国王城の地下にいた。四方を石造りの壁で囲われ、ジメジメとした空間はアニメなんかでよくある牢獄のよう。実際王城の地下二牢屋がある事はよくあるし、いや、知らないけど。まあそんな地下の中は薄暗く、人気が全くない。
こんなところにいる意味があるのかと、思わなくもない。そもそもどうしてここにいるのか。
「かな、ウォーリアーをこんな小さく出来たんだな」
「もとより、精霊には限った姿形がないからな。しかし、精霊をここまで自在に操ることが出来るほどに精霊を使役できるとは。出会った頃では想像できなかったな」
「そうかもな」
俺の目の前には、先に進んで行く小さな光がいた。これがウォーリアーだと分かったのは解析鑑定があったからだが、そうでなかったのなら気付けなかっただろう。当然、見た目が小さくなっても強さは変わらないままだ。
俺たちはこいつの導きに従って、ここまで来ていた。そして、この先に確かに感じていた。
「かな、いつ気付いたんだろうな。俺この上通ったはずなんだけど気付かなかったよ」
「かな嬢が宿す精霊、あらゆる魔力に精通した存在。恐らく獣王から発せられていた魔力を、権利の流れを辿ったのだろう。気配察知や魔力感知を妨害できても魔力そのものの流れを断てるわけではないからな」
「そう言うことか。……じゃあ、早速対面と行きますか」
ここまで来たら俺にもわかる。きっとスキル妨害はこの地下と地上を分断するだけのものだったのだろう。ここに来た時点でこの濃密な魔力が満ちていることを察していた。いや、感じた。五感で感じ、第六感にも似た何かで理解した。
こいつはやばい、と。
まあ、魔力が強すぎてその輪郭は掴めていないのだが。それでも場所はわかるし、この通り無事辿り着いた。
目で見てるほどに濃厚な魔力が漏れ出してくる、何かが封印されているとしか思えない扉に。混沌の滲みだす暗黒に。
「どんな奴が、いるのかな……て、開かねぇ」
「ふっ、文字通り封印と言うわけだ」
開かなかった。両開きの推し扉のようなのだが、押してもビクともしない。これは間違いなく俺の力がないから、とかではない。断言する。間違いない。たぶん誰がやっても開くことはない、はずだ。
物理じゃなくて魔法的な何かで鍵がかかっている。
「……おい、そうすんだよ。ここまで来て開かないんじゃ話にならないぞ」
「そうだな。魔法で破壊すればよいのではないか?」
「俺とお前の魔法って、威力弱いよな」
「そうだな。どちらかと言えば妨害、絡めての得意な属性だからな」
「壊れると思うか?」
「いや」
だと思ったよ。
「それじゃあ、一旦ルナでも呼んで――」
「いや。ここはこいつに任せるとしよう」
「こいつ?」
リルが言って視線を向けた先を追うと、そこにあったのは小さな光。
「ウォーリアー?」
「どうやら、何かあるらしいぞ」
何かあるって、なんだよ。だってこいつ防御特化だぞ。この頑丈な扉を壊せるほどの力があるとは――
「《エレメンタルフォース・マテリアルインパクト》」
目の前の扉が、勢い良く爆ぜた。
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