決戦?

 お兄ちゃんはかなちゃんの放った打撃に吹き飛ばされ、城の壁を突き抜けて落ちて行ってしまう。すぐさまリルさんが追いかけて行ったので心配はないだろうけど、不安は残る。先程のかなちゃんの一撃に、手を抜いた気配が全くしなかったのだ。

かなちゃんの全力をちゃんと理解しているわけじゃあないけど、全力をまともに受けたお兄ちゃんの様子からして明らかに加減をしていない。正直、お兄ちゃんとかなちゃんとの戦いに途中から見とれてしまっていた。だからこそ介入しなかったし、出来なかった。


 あの二人のぶつかり合いに、割り込む隙を見つけられなかったのだ。


「ん」


 お兄ちゃんが吹き飛び、それをリルさんが負ったのを満足気に見届けたかなちゃんはそれだけ呟き、今度はこちらに視線を向けた。


「っ」


 思わず体に力が入る。目を付けられた獲物のように、目を逸らせなくなった。私も降ろしていた剣を上げる。


「なんかやばそうだし、私たちも手伝うわよ」

「ここ数年、唯一敵に回し、命を奪いきれていない相手だ。因縁と言うつもりはないが、もう一度くらい手合わせをさせてもらいたいところだな」

「……かなちゃんを殺させはしないよ」

「別にいいわよ。人の敵にならないならね」


 横に並んだのは双子とか何とかの二人組。正直言って気に入らないけど実力があるのはその通りみたいだし、いい意味で素直な人っぽい。信頼とは違うけど、信用は出来るかもと思えてしまった。


「何が何だか、本当に分からないんですが……怪我をする人がいたら、みんな僕が治しますよ」

「出来ることはしよう」

「うん、ありがと」


 私の頼れる仲間たちも、そう言って背後に立ち並ぶ。いつでも私に手を貸してくれる二人には感謝してばかりだ。

 ……あの二人のお願いにも、早く応えてあげないと。


「ルナさんは、どうする?」

「……妾ではかな嬢には敵わない。それでもかな嬢を止めたいという意思はある。構わないか?」

「うん、もちろん」


 正直、この人がこんなに不安そうな声を上げるのは意外でならなかった。彼女について何か聞いたことがあるわけじゃないけど、絶対見た目通りの年齢じゃないし普段から寡黙で無感情的な人だと思っていた。

 神秘的と言ったら大げさかもしれないけど、それこそ神社にでも祭られている天の使いのような印象を抱かされていた。


 他人には興味ないし、自分には厳しく厳格。すべての物事に対して感情的な行動は一切しない、みたいなマントを被っているように見えたのはどうやら私の見間違いだったらしい。


「それじゃあ、かなちゃんを止めるよ、みんな」


 かなちゃん相手に六人。過剰戦力のように思えるかもしれないけど、出来る限り傷つけたくないと思ったら、ううん。思わなくても、本気になったかなちゃんを止めるにはこれくらいの戦力が必要だと私の本能が告げていた。

 圧倒的な力の敵の前に挑む勇者のように。


「私は全力で止めに行くよ、かなちゃん!」

「ん」


 かなちゃんはその猛々しいまでの毛並みを逆立たせながら、血色に染まる拳をありありと見せつけてきた。その瞳は、赤く闘志に燃えていた。


 一歩踏み込み先陣を切る。このメンバーの中なら私が一番前衛として機能すると思うからね。メンバーとしてはヘイルとルナさんが魔法使い、スーラとリウスがサポート特化。テトが回復特化なので私のアシストをしてくれるのはほとんどヘイルとルナさんになるはず。

 あの二人の動きに、早く合わせるのが肝になりそうだ。


「《絶斬聖剣》、《属性剣術:神聖》ッ!」


 神聖属性は悪魔や魔獣の魔力を浄化させる。私の一撃は確実にかなちゃんを蝕み、最悪死にすら追いやるだろう。それでも、これくらいの全力でなければかなちゃんには挑めない。挑む資格すら貰えない。

 殺すつもりのない斬撃に、かなちゃんは決して敗れない。


「行くよ!」

「ん」


 一気に間合いを詰めた私に対し、かなちゃんは姿勢を低くし、剣の間合いの内側を突くように入り込む。それに合わせて私は半歩身を引けば、かなちゃんは剣の間合いの外へと逃げる。


「《エアリアルブラスト》ッ!」


 突風が巻き起こり、かなちゃんの頬を掠めるようにかまいたちが飛び交う。かなちゃんの背後数メートルにあった城壁が飛び散り、城内に陽光が溢れ出す。


 かなちゃんの頬に、僅かに切り傷が走った。


「間合いのサポートはするから! あんたの得意な間合いで攻め切りなさい!」

「っ! うん、ありがとう!」

「礼は後で受け付けるわ! 《ヘル・インフェルノ》ッ!」


 爆炎が解き放たれ、かなちゃんの眼前へと迫る。


「……《エレメンタルフォース・アークプリズム》」


 半透明の幕が半球状にかなちゃんを覆う。巨炎とぶつかり、互いに弾け合う。幕が破裂すると同時に巨炎も散り散りになり、陽光に溶けた。


「うっそ……あの子私より魔力総量が多いって言うの?」


 そんな僅かなヘイルの驚愕の声が聞こえたが、私は構わず前へ踏み込む。ヘイルが合わせてくれる姿勢を見せたのなら、私は分かりやすい攻撃を続けてヘイルとの連携を確立させるのが場を整える最善手かもしれない。


 炎跡が消え、かなちゃんの姿が露になった。その身に纏うのは、精霊の闘気だった。その身に纏わりつくようにかなちゃんの背後に顕現しているのはまさしく筋骨隆々の男戦士。全身から炎が燃え盛る精霊だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る