ヘイル

 かなを送り出した後、俺たちは一先ず残っているテトたちと合流を図るべく移動を開始していた。


「それにしても、あの子に潜入調査なんて器用なことが出来るの? 戦闘面では……確かに私たちと互角に叩けるくらいには強かったけど。中身はまんま子どもって感じじゃなかった?」 

「そのために、俺の優秀な仲間二人を連れさせたよ。それに、かなは確かに精神的に幼いところはあるが……正直、お前より賢いぞ」

「なんですって」


 本音が漏れたことで追いかけまわされている俺だが、実際かなはヘイルより賢いと思っている。

 根拠としては、かなはそもそも日ごろから考えることをしていないということ。元野生動物であったかなが突然人間並み、もしくはそれ以上の知能を与えられてそれに対応できるかと言われたら、無理であろう。


 最近は慣れてきた様子もあるのだが、それでもまだ普段から頭を使って行動するという機会はなさそうだ。だが、戦闘面でもそうだが時々俺の予想の遥か斜め上を行く行動をとったり、空気を呼んだりする場面が伺える。人間の幼少期でも、やけに察しがよかったり知ってるはずもない最適解を導いたりと、その知能レベルは決して低くないと思われることがあるらしい。

 それになりより、かなは精霊に愛された子だ。その身に精霊を宿した時、精霊の思考領域を演算処理装置として活用でもできるようになったのなら、そこら辺のコンピュータよりはるかにハイスペックな知能を得られそうだ。


 まあ、どれもこれも出来そうなだけでかなが実際にやっているわけではない。本気を出したらヘイルより賢そうなのは、そうだと思うと言うだけだ。


「二人とも、喧嘩しないでよ。子どもじゃないんだから」

「さっきまでこいつと喧嘩してたお前が言うか」

「本当よ。自分のことを棚に上げて」

「それ鏡見て言えよ」


 腕組して自信満々の様子で黒江に言ってのけたヘイルに指摘してやると、何のことよ、みたいな惚けた顔を浮かべできた。やっぱりこいつ純粋に馬鹿だろ。

 こいつが来てからまたコント感が増した気がする。


「……で、お前たちは何をやってるんだ?」

「ああ、クロ、司さん、それにヘイルさんお帰りなさい。今、亜人国産と言うお菓子を頂いていまして」


 帰ったら男三人でスイーツ食べてた。しかも、どちらかと言うとスイーツが似合わないやつが二名いる、男子三人である。


「……いや、見てわかるから聞いたんだけどな」

「はい?」

「あ、私も貰おうかな」

「もちろん残してあるわよね? スーラ」

「なぜ残さねばならないのかは分からないが、残ってはいるぞ」


 と、流れで女子二人も参戦した。まあ、まだこっちのほうが華があるか。


「お兄ちゃんも食べる?」

「俺は遠慮しておくよ」

「そう? 勿体ないと思うけどな」


 そう言って一つ、また名前も分からないようなお菓子を口に運ぶ黒江を見ながら、ふと、亜人国にいたお菓子屋さんの少女を思い出す。特段いい思い出はないが……ソルやネルに連絡が付かない今、どうしているのか少し心配になった。

 まあ、あの逞しい少女のことだ。なんだかんだで元気にお菓子でも作っているのではないかと、そう思うのだが。


「ほへへ、へっほふわわひわ――」

「飲み込んでから喋ろか」

「……それで、結局私たちはどうするの? このまま待機しているより、出来ることをやったほうが良いんじゃなくて?」


 お菓子を頬張りながら詰め寄って来たヘイルを宥めてから、その言葉に耳を傾ける。


「一理あるけど、やれることが思いつかないから困ってるんだ。せっかくかなが潜入してくれてるのに外で騒ぎを起こしたら、その迷惑にならないか? そうなるよりも、かなから連絡があった時ちょっかいかけて逃げる手伝いをしたりした方がいいと思うんだが」

「誘導作戦、ってこと? 無しじゃあないけど、連携が取れないと難しいわよ? 私たち、即興でしょ?」

「その時は、まあ俺だけでもやるさ」


 あの三人と俺だけであれば、そこそこの戦いを共にしてきた戦友と言える。黒江やヘイルたちとも共同戦線を張ったことこそあれど、まともな連携は取ったことがない。そういう意味ではヘイルの言う通り、連携が必要になる行動はなかなか難しいかもしれない。

 

 ……。


「急に頭良さそうになるじゃん」

「反応が遅いわよ。あと、一応賞賛と受け取っておきましょう。ありがとう」


 皮肉と気付いていないところは残念な部分だが、どうやらこと戦闘や勇者の仕事関係になると優秀になるのかもしれない。まあ実際、オレアスの首都での戦闘では大いに活躍していたし、俺たちを手間取ら得た張本人でもある。リセリアル一の勇者と言う称号も、伊達ではないということか。


「まあ、兎にも角にもかなたちに動きがあってからが本番だ。悪いけど、協力してくれるつもりならそれまで待機していてくれよ」

「協力するつもりはないけれど。もし獣人たちがよからぬことを企んでいるのなら、この機会に人類を導く者の務めとして成敗してあげるつもりよ。目的のための共闘くらいなら、してあげてもいいわ」

「それだけでも、十分助かるさ」


 なんだかんだ言って、俺はこいつを憎めそうになかった。

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