入国規制
獣人たちが襲い掛かって来た!
ので俺たちはダッシュで逃げることにした。
「おい、一旦逃げるぞ!」
「う、うん!」
「なんでよ。戦えばいいでしょ?」
「いいわけがあるか!」
この会話、僅か一秒以内に完結させている。口の回転も耳の聞き取りも早いのである。
まあそんなことはいいとして、襲われる直前で会話を終わらせたことでヘランが逃げる気がないことが分かったのでその手首を捉えて引っ張ってやる。
「ちょっ、放しなさい! ついに本性を現したわね!」
「ああ! これが俺の本性さ! 出来る限り戦闘は避けたいんだよ!」
特に相手は獣人だ。黒江やヘランがどう考えているのかは分からないが、俺的には人間に獣耳が付いただけで人に変わりはないように見える。《零酷停王》の影響か、殺す、という単語にそこまで嫌悪感を抱いていない自分怖さに、ここは絶対に逃げてしまいたかった。
「分かった! 分かったから手を放しなさい! 走りづらいことこの上ないわ!」
「……いいとも」
「ふんっ! それでいいのよ!」
なんとも釈然としないが、まあもうこの数秒で獣人たちは撒いているのでいいとしよう。
「はぁ……まさか行ってさっそく取り囲まれて、自称リセリアル一の勇者のせいで襲われる羽目になるなんて」
「本当よね。それもこれも、こうなる事なんて簡単に予想できたのに提案なんてして来た新米勇者のせいよ!」
「「ぐぬぬぬぬ」」
「やめろって……まったく」
どうしてこの二人はここまで仲が悪いのやら。
お互い我が強く他人に対して遠慮がないからなのだろうか。黒江に関しては、そこまで他人に遠慮がないとは思っていなかったが。二人はどちらも素で言い合っている気がする。これが良いことなのか悪いことなのか。
碌に友達もおらず、本気の喧嘩なんてしたこともない俺には分からず終いだった。
「それで、どうするんだ? 一旦あいつらと合流するか?」
「う~ん、この街に何かがある事は確定何だっけ?」
「いや、確実とは言えないな。獣王国に行け、とは言われたけど具体的にどことか、何があるとかは言われてないんだ。だから俺たちも決めかねているわけだが」
「だったら、かなちゃんに頑張ってもらったら?」
「かな?」
どうして、ここでかなの名前が出てくるのだろうか。
「ルナさんは魔獣っぽいけど、かなちゃんは獣人なんじゃない? 一人は心細いかもしれないけど、かなちゃんに情報収集を頑張ってもらえれば進展があると思うんだよね」
「ん? でもそれだと私たちはどうなるのよ。その間暇じゃない」
「暇かどうかはどうでもいいだろ……そもそも、あくまで平和的解決を目標にしたい。もしソル、俺の友人の意図するのが獣王国にいる何者か、もしくは獣王国そのものに支援を求めて欲しいと言うものだった場合、一度戦闘になってからじゃ後戻りできないだろ?」
極力戦いたくない理由の二つ目がこれである。獣王国が実際問題どのような国かは分からない。分かるのはプライドが高く、それに見合った国力と戦力を持ち合わせているという受け売りの知識くらい。これもどれくらいあてになるのかは分からない。
「だから、まあ……かなに頑張ってもらうのは無しではない。こういう手段を考えられるようにも手分けしたわけだしな。ただ、かな一人で行かせるのは嫌だし、ルナとリルを連れさせるよ。二人の潜伏能力なら、そうそう見つからないだろうからな」
「うん、いんじゃないかな。ひとまずやれることをやってもらおうよ」
「ねえ、その間私たちはどうするのよ。面白そうと思ってついて来たのに暇なんて許せないわよ」
一旦うるさい奴は無視しておく。
(かな、そっちは大丈夫か?)
(ん? マカロン美味しいよ?)
(いや、そうじゃなくてだな……)
どうやらおやつタイムらしい。
(おやつを食べ終わった後でもいい。だから、リルとルナと一緒に獣王国に行ってみてくれ。俺たちは人間って理由で通してもらえなかったが、かななら通してもらえるかもしれないんだ。で、念のためリルとルナを影空間にでも連れて行ってくれ)
(ん、分かった。これ食べてからでいい?)
(ああ、もちろんだ。ありがとな)
マイペースでこそあるが頼みは断らないかなのことだ。言ったとおりにしてくれるとは思っていたが、ここまで無理言うと流石に申し訳ない。
(出来ればソルが何を俺たちに伝えたかったのかを探ってほしい。もう一度言うが難しいことはリルとルナに任せてくれていい。ただ、身の危険を感じたら何をしてもいいから逃げてきてくれ。二人にも、そう伝えてくれ)
(ん。じゃあ、またあとで)
(気をつけてな)
(司も)
そんな会話を終えて、俺は意識を正面へと戻る。そこには暇を持て余したヘイルとほんの少し不安そうな表情の黒江。
「かなは、受けてくれるってよ。まあ心配しないでいいだろう。リルとルナがいれば戦力で劣ることはない。やることはやってくれるだろうし、かな自身も出来るやつだ。俺なんかより、ずっとな」
「そうだと、良いんだけどね」
そう言って黒江は苦笑いを浮かべた。先程のヘイルの言葉でも、気にしてしまっているのだろうか。
「ねえ、結局私たちは暇なの? 暇つぶしできる何かはないの!?」
「いい加減うるせえよ!」
まったく空気の読めないやつだな!
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