凱旋、告白
「《エレメンタルフォース・アトミックノヴァ》ッー!!」
空から極太の光が始祖竜に向かって降り注ぐ。大地をうがち、揺らし、すべてを消し去る魔力の塊が、始祖竜を包んだ。大きく爆ぜ、その体を浄化する。苦しみ悶え、狂うように暴れながら、しかして抵抗むなしく始祖竜の体は削られていく。少しずつ、少しずつ、それでも確実に奴の体消えていく。
やがて極太の光は終息し、そこには何も残らなかった。そう思ったのが、油断だった。
(っ!? 司殿、躱せ!)
「何、をっ!?」
自分で目を見開いたのが分かった。目の前まで迫っていたそれは、黒光りする怨念の塊。始祖竜の破片ともいえるそれが、俺に向かってとびかかっていた。形はない。ただ複雑に入り乱れながら空中でその形を変化させながらそれでも一直線にこちらへと。触れしものすべてを腐敗させ殺さんとするその暴虐の根源が。躱せといわれても間に合わない。一瞬もたたぬうちに、その塊は俺の元へと――
疾風が、巻き起こった。
――それが、俺の元へとたどり着くことはなかった。俺を守ったのは、少女。
「どうやら、もう最終局面のようですね」
膝口まで伸びたスカート。明るすぎない水色と白色のコントラストの美しいセーラー服。背中の半ばまできれいに伸ばした黒髪が、凛とした彼女の顔とあっていた。幼い顔立ち。中学生といわれても疑わないほどのそれは、人形のように整っており、コスプレーヤー顔負けの、猫耳と尻尾をつけていた。ただこれは、本物だ。
片手を前に突き出し、こちらに笑顔を向けるその少女は、静かに名乗った。
「亜人国国王にして原初の七魔獣が一柱。暗黒虎のネル、ただいま現着いたしました」
鈴の音のような透き通るその声は、スッ、と突き抜けるように広がった。
「これより、対象の排除に移行します。魔術・冥府、
少女の背中に魔法陣が現れる。灰色。そこから無数の黒い手が伸びる。少女を迂回するように広がって、少女の眼前へと集結し、始祖竜の破片ともいえるそれを、貫いた。
それはもがき苦しみ、生にしがみつくように暴れ、そしてその灯を消した。
暴虐の念は散り散りになり、その存在は塵となった。
解析鑑定――
《状態:死亡》
始祖竜との戦いは、幕を閉じた。
その後俺たちは集結し、日も暮れていたため一度臨時拠点へと戻った。そこからしばらくは逃げ帰ってきた兵士たちの采配を行い、明日には帰る支度をはじめさせることにして、解散させた。リルの集計だと、亜人軍の損害は全体の三割程度。そのほとんどを勇者や始祖竜にやられたとのことだったが、人間軍の数を鑑みればよいほうだろうといった。
俺は、ことの発端を聞いてみることにした。
(始祖竜が現れたのは、ちょうど我が三人の勇者を壊滅させた後だろうか)
(いや、お前ひとりで勇者を壊滅させたのかよ……)
最初から突っ込みどころがあったが、続きを促した。
(空中に、魔力の高まりを感じた。見てみれば、そこには封印結界のようなものが張られていた。もちろん、寸前までその存在は隠蔽されていた。そうでなければとっくに気づけていた。しかしその封印結界は壊れかけだった。何とか保持しようとも思ったが、力かなわず封印が解けた)
(そして解放されたのが始祖竜、ってことか。それで?)
(すぐに兵士たちを逃がし、抑え込もうと牽制した。すぐに力及ばぬと理解したので、時間を稼ぐ用意して対峙した。兵士たちを優先したわけだが、その甲斐あってかその場にいた兵士たちのほとんどを逃がすことができた。その後兵士たちの話を聞いたリリア嬢が合流し、二人で抑え込んでいた。その後、ソル嬢も合流しそれから三日三晩戦闘を繰り返した。そのあとは知っての通りだ)
リリアやリルが使っていたというテントの中。俺とソル、かなとリル。そしてリリアと、亜人国の国王ネル。この六人だけで対話をしているところだった。といってもリルが俺から離れたので念話でだが。
(で、聞きたいのはソルだ。どうして俺を眠らせたんだよ)
(……言わなきゃダメ?)
とてもいやそうに、不満そうに眉をしかめて念話に送ってくるで送ってくる言葉通りの表情をとるソル。
机を挟んで反対側にソル。右隣にかな。その正面にリリアが座り、誕生日席にネル。リルが俺の背後に立っているという配置なのだが、ここだとソルの顔がよく見える。そのいやそうな感情がありありと表に出ていた。
(頼むよ。それだけが唯一の疑問だ。それ以外は聞かないようにするよ)
(……まあ一言でいうのなら、巻き込みたくなかったのよ。せっかく見つけた面白い人を、失うのは嫌だったのよ)
(ソル……)
表情は一転。悲しそうなものへと移り変わった。周りにも念話は聞こえている。そういう展開をしているからだ。だからだろうか。かなとリリアも、少し悲しそうな顔を浮かべた。
(数百年ぶりに眠りから目覚めて、初めて出会った存在は司だった。見たこともないような格好で、面白いことばかり言う。私の話に食いついてくれるし、最初こそ遠慮してたみたいだけどすぐに馴染んでくれた。怯えもしなかった。そんな相手は、久しぶりだった)
告白のように、薄く頬を染めながらソルはつづけた。
(私では始祖竜を倒せないから、巻き込みたくないから、死なせたくないから……ごめん)
悲しそうにうつむいて、ソルは最後にそう言った。それからは、しばらく空白の時間が続いた。
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