勝ち筋
始祖竜は空中からの魔法攻撃を仕掛けてくる。それだけなら司水者だけでどうとでもなる。だが、それだけではないから厄介だ。その巨体での体当たりや司水者を使えない竜息吹などでも攻撃してくる。そのうえ見たこともないスキルで多彩な攻撃を仕掛けてくるのだ。
始祖竜の能力である固有能力を見ただけで使えるようになるというものの影響だろうか。厄介なスキルである神速やら分割思考やらを使ってくる。魔法を避けたと思ったら目にもとまらぬ速さで距離を詰めてその爪で魔爪を発動して攻撃してきたり。竜息吹と合わせて魔法を何種類も使ってきたりする。
圧倒的な魔力、攻撃力、生命力。多彩な攻撃、協力すぎる物理攻撃も圧倒的な生存能力もすべてが厄介だ。単純じゃないだけでなく強力すぎて一つでも当たったりしたら死ぬ。広範囲かつ高火力な攻撃が無数に空から降り注ぐ? なんだこの天災。あ、原初の七魔獣だった。ならしょうがないよな。
なんて考えながら俺は影空間に潜り込んだ。
「やっぱり異空間に逃げるのが一番だよな」
(そうするとヘイトが別の者に向くから長居はできないがな。それに、あいつが異空間をふさぐ能力を持っていないとも限らない)
「あいつの能力は多すぎて把握しきれていないからな。今のところいくつある?」
(完全劣化スキルを除けば使えそうなスキルが百二十だな。その劣化も合わせれば五百六十だろうか。ここまで見てまだ見たスキル量は全体の二十分の一だな)
「あー、やばいな」
俺は最近色々と慣れてきたせいか驚きが外に出ないことが多いが、割と驚いている。ただ、スキルの数を言われただけよりも始祖竜の姿を見た時の衝撃が大きすぎて大したことがないように思えているだけだ。
だが実際問題相手には未知の力が数万とあり、まったくもって何をしてくるかわからない。ただでさえ厄介な相手だというのに、相手のことをここまで知らないとなるともはやまともに戦うだけ無駄だ。どれだけ作戦を練ろうがスキル一つで崩壊させられかねない。貧弱な肉体で、それでもスキルを駆使して何とか生き残ってきた俺だからこそわかることだ。
ただでさえ速い球を投げるピッチャーが変化球を使い始めたらもっと強くなるように。自力だけでも強いのにスキルまで得た始祖竜は正直もう最強だと思う。
同じ原初のソルやルナも確かに強いが、軽くそれを超えてきたな。いくら何でもレベルが違いすぎる。実際、始祖竜のレベルはカンスト間近だし。
「やっぱり、高火力を一撃叩き込む以外方法ないかな」
(そうだろうな。しかしそうなると取れる手段は詠唱魔法になるだろうが、我が使うわけにはいかないだろう。我らが最も逃げが得意だからな)
「そうなるのか。まあかなが使えるし、ソルやリリアも使えるだろ」
というわけで――
(ソル、かな、俺たちがこれから時間を稼ぐ。始祖竜に強力な魔法を一発叩き込んでやれ)
(ん、わかった)
(了解。やってやるわよ)
二人とも返事が速い。まあ、二人に任せればいいだろう。
「リル、逃げるぞ」
(任せろ)
俺たちは影空間を飛び出した!
「今はリリアが終われてるのか!」
(気を引く。走る準備をしておけ)
「わかった」
影空間を出て最初に目に入ったのは始祖竜の攻撃を短い距離のテレポートで回避し続けるリリアだった。そこまで辛そうな顔はしていないが、状況だけ見たらそれなりにやばそうだ。リリアの思考パターンを始祖竜が覚え始めたのか転移先を読むような攻撃もしているし、このままではまずい。
しかし、気を引くといってもリルはどうする気なのだろうか。その辺で軽く跳ねながらリリアのほうを見ていると、俺の目の前に氷の矢が無数に表れた。なるほど、普通に攻撃して気を引くんだな。了解だ。
「じゃ、いっちょ走りますかね」
(死ぬ気で走れ。行くぞ!)
「おう!」
氷の矢が放たれると同時、俺は始祖竜とは別の方向に走り出した。気配察知で背後を確認すれば、氷の矢を感知して躱したらしい始祖竜が、こちらに振り向いているようだった。空中で一気に加速し、あっという間に俺との距離を詰める。
体当たりをされる直前、突然足元に影空間が開いた。ギリギリで始祖竜の攻撃を躱し、すぐに影空間を抜け出してまた別方向に走り出す。始祖竜はすぐに俺に気づいて追ってくる。今度は――
「《アイシクルメテオ》」
始祖竜に振り向き、腕を掲げながら叫んだ俺の頭上に巨大な氷塊が現れる。腕を振り下ろすと同時、始祖竜の頭ほどの大きさのある氷塊だ始祖竜めがけて一直線に進む。始祖竜がかなりの速さで移動していたことと距離が近かったことが相まって氷塊は始祖竜の頭に直撃する。しかし生命力は微々たるものしか減らない。さすが化け物だ。
それでも、一瞬の目くらましにはなった。始祖竜の真下をすり抜けるように走り去り、肩越しに俺とは逆側に飛んでいく始祖竜を見ながらまた走る。
ふと気になって上空を見上げると、おびただしい量の魔法陣を浮かべた二人の少女が淡々と言葉を紡いでいた。
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