始祖竜の力

 始祖竜。世界最初の生物を呼ばれる原初の七魔獣の中では唯一一般的な生物に殺された魔獣だ。ただ、殺されたことへの憎しみと未練を力に、ある種の復活を遂げた。その復活は、この世のだれも望まぬものではあったが。そんな始祖竜はありとあらゆる生物の能力と適正できる細胞を持っており、さらには一目見ただけで固有能力をコピーできるというチート持ち。腐食された肉体は不死性が高く、ただでさえ殺しずらいのにその体積が異様に大きい。固有能力をコピーできるせいで多くのスキルを所持しているし、始祖竜の能力である竜息吹も強力だ。広範囲かつ高威力。単純な魔法の数倍の効果を発揮する。そして何より――


「司水者が聞かないのは話が違うんだよなぁ!?」

(文句を言わずに躱せ! 転移魔法を使いすぎると魔力が持たない!)

「分かってるよ!」


 すでに憑依一体を発動し、リルと一心同体となった俺は紫色に光る炎に追われていた。かなやリリア、ソルもそれぞれ散会して超広範囲な行動を躱す。上空にも届く高さと数百メートルの射程。範囲も横数百メートル近くある。首を一振りしながら吐けば始祖竜の前方は一面焼け野原だ。

 そんな攻撃だというのに魔力で構成されていないのか司水者が発動できない。もしかしたら、魔力操作の面でこちらが劣っているだけかもしれないが、原因がどうであれ操れないことには変わりなく。それもかなりのサイクルで放ってくるのでよけるだけで精いっぱいだ。


 そんな状況でも、ソルは構わず接近して攻撃を仕掛ける。腐食した肉体はそれだけで凶器に等しい。触れるだけで感染する腐の覇気が常に覆っている皮膚。指の先だけでも触れれば体の弱いものは全身が腐る。というか、リリアたちだってまともに触れば一瞬で死滅するだろう。

 そんな皮膚に直接攻撃してもソルが無事なのは、彼女の固有の力にある。


 《金陽:大幅に魔力を消費するが、触れた物質を燃やすことができる》


 触れたものすべてを焼き尽くすこの能力により、始祖竜の皮膚はソルに攻撃された端から焼却される。凄まじい再生能力すらも意味をなさなくなるらしく、いつになっても焼かれた部分が修復されることはない。再生されるべき細胞すらも存在ごと消滅させるその能力により、始祖竜は確実に生命力を減らしていった。

 俺とかな、リリアも竜息吹を躱しながら魔法を撃ってダメージを与える。かなはたまにウォーリアーで竜息吹を防いでヘイトを買ったり、リリアはエアリアルブラストで竜息吹を散らしたりする。一応俺も司水者で作り出した水で竜息吹を防いだりしているが、魔力消費が激しすぎて連発は出来そうにない。


「リリア! かなと後方に下がってくれ! 無駄に躱すよりかなが攻撃を防いでリリアが全力で攻撃だけをした方が効率がいい! かなにもそう言ってくれ!」

「わかった!」


 戦場でのすれ違い際にリリアにそう言い、俺は前へ向かう。


(そのまま足元に入れば影狼の能力を最大限活用できる。影分身と影武者でかく乱しつつ、ソルに意識を向けさせないようにしろ。いざというときは転移や影空間で何とかする。取りあえず、死ぬ気で注意を引け!)

「了解!」


 正面から放たれた竜息吹の一部を魔術・氷のクリスタル・プリズムで防ぎ、竜息吹の持続が切れたところでさらに加速して始祖竜の足元に潜り込む。始祖竜の全長は勇に百メートを超える。高さだけでも八十メートル近くはあるだろう。そんな巨体の足元に潜り込んでしまえば、始祖竜がその場に倒れない限り攻撃は当たらない。倒れてきたら倒れてきたで躱して隙を狙えばいいだけ。そう割り切って足元を駆け回る。


「《影分身》」


 放った三体のリルの分身体。俺の体でないのは基礎身体能力を考えた結果だ。

 始祖竜は俺の姿をとらえようと後ろに下がったり横に動いたりするが、俺もそう簡単に姿を現したりはしない。たまに分身体を始祖竜から見える場所に出させれば、始祖竜はすぐさま足で踏みつけたり竜息吹で焼き殺そうとする。極力躱させるし、やられても再び召喚する。

 そうして気を引き続けるうちに、魔力感知でリリアの魔法とソルの物理攻撃が始祖竜を襲っているのが分かった。解析鑑定で始祖竜の生命力を見てみれば、少しずつだが確実に減っている。すでに全体の一割は削ったのではないだろか。始祖竜の再生速度もまたすさまじいが魔法と物理攻撃、その両面のエキスパートがこちらにはいる。圧倒的な威力で攻め立てる。


 かなはどうやらエレメンタルフォース・サテライトビットで攻撃しつつ、ウォーリアーとともに自身は防御に徹している。リリアに言われてしっかりと役割をこなしてくれているようだ。しっかりと役割をこなしてくれているかなのためにも、俺も頑張らなければならないだろう。 


 そう思った、その時――


「ば、馬鹿な!?」

 

 始祖竜は、飛び上がった。空中に、羽はばたかせて。全体体積の三分の一以上が欠けた羽で、それも反応できないほどの速度で、一瞬で上空にまで昇った。影から外れ、影分身は消滅する。ソルも距離をとられてなすすべ無し。リリアたちの魔法は躱されてしまう。 

 状況は一転。圧倒的に不利な状況へと追いやられた。


「ま、マジかよ……」


 俺は、自分の口元が引きつる感覚を覚えた。

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