始祖竜

 今日という日を、いつも夢見ていた。再び目覚める時を、どれだけ心待ちにしていたことか。小娘共に封印されてから早千年、憎悪と怒りだけを溜めに溜め、魂の力が捧げられるその時を待ち望んでいた。そして今、この地で起こりし戦乱が、我を呼び覚ます。再び世界に、混沌を。



 司――


 脳に声が響く。


 司ッ――!


 激しく、体を揺さぶられる。


 起きてよ、司ッ――!


 長い目ざめを、覚まされるような。


「司ッ!」


 耳元で、声が響いた。


「うおっ!?」


 耳に響いた声に驚いて、思わず体を起こす。急に覚醒した頭であたりを確認すれば、涙目でこちらを見つめるかながいた。場所は俺たちが借りている部屋の中。状況が読み込めず、俺は困惑する。


「か、かな?」

「司……」


 悲しそうにそう呟いたかなの頬には、涙の跡が付いていた。


(な、なにがあった? 俺、眠ってたか?)

(うん……かなが起きたら、眠っていた。お昼寝かと思って待ってたけど、三日も寝てた)

(三日!? ……本当に何が……)


 身に覚えがない。未知の病に感染したか。呪いでも浴びたか……意識を狩られるような何かが、あったのだろうか。

 ここ最近の記憶を思い出そうとして、少し疑問に思うことがあった。


(そう言えばソルは? 来たのか?)

(ううん、昨日も、一昨日も。ずっと来てない)

(……もしかして、ソルが? でも、なんで……)


 話を聞いた限り、ソルの可能性が高そうだ。でも、なぜそんなことをするのかが全く分からない。もちろんソルと確定したわけではないが、ここ数日間ずっと来ていたソルが来ていない。そして、最後に姿を現したのは……


(確か、始祖竜が復活するだとか言われたあの日。その時に俺は、ソルに気絶させられて?)

(そうかもしれない。……でも、本当になんで? 司を眠らせておかないといけない理由があった?)

(わからない……。リリアとかリルは?)

(連絡もない)


 状況は読み込めない。何が起こっていて、これから何が起こるのかも。ただ一つ、悪い予感だけはした。


(……戦場に向かおう。今すぐに)

(どうして? 何かあるの?)

(とにかく、行こう。多分今、何かが起こってる)

(……ん、わかった)


 かなは多くは聞かず、小さく頷いた。真剣な表情を作り、俺の命にしたがうように。


(早速転移で向かおう。頼めるか?)

(ん、任せて)


 かなはすぐに行動に移し、魔術・空間の転移魔法を発動させた。


 視点が一瞬で切り替わり、部屋の中から荒野へと移る。乾燥した空気が肌を撫で、緊迫感を漂わせた。

 どっと、禍々しい魔力を感じた。重苦しく、濃くて、凄まじいオーラだった。かなを見れば、少し表情を歪ませている。

 辺りを見渡しても、特に何もいない。戦場は、ここからも少し遠いのかもしれない。気配察知を発動すれば、大きな反応がすぐに見つかった。そのうちの三つは見知ったものだ。リルと、リリアと。そして、ソルのもの。そしてもう一つ、その三人の魔力よりもさらに大きな反応があった。


(ソル、いる)

(ああ、でも話はあとっぽいな。強そうな敵がいる。手助けするぞ)

(ん、頑張る)


 かなは気合の入った表情をして、反応の濃い方に走りだす。俺もそれに続いて走り出す。リルたちとの距離が縮まったころ、念話が届いてきた。


(司殿か。ちょうどいい、手伝ってくれ)

(そのつもりで来たんだよ。何が起こってる)

(話は後だ。取りあえずこの――)


 そんな会話の最中で、俺の目にそいつが止まった。大きな体を羽。漆黒の外殻は紫色に輝いている。体の所々が腐り落ち、全体体積の三分の一くらいが無くなっている。そして、そいつを見て一瞬で察した。こいつが魔力の元凶。ソルの語っていた、始祖竜だと。


(――を倒す。力を貸してくれ)

(ああ、任せろ!)


 状況はまだ理解できてない。だが、始祖竜を倒せばいい、ということだけは分かる。

 三人が戦っている場所に近づくと、リリアが嬉しそうに顔を輝かせ、ソルが憎めしそうに顔をゆがめた。……俺が邪魔だったりするのだろうか。確かに俺は弱いがそこまで信用無いものなのだろうか。それとも、いてはいけない理由があるのだろうか。

 戦況を見てみれば、ソルが先頭に立って始祖竜の動きを抑制し、リリアが遠距離からの攻撃を行う。リルが二人の間に立っていることから、始祖竜が使う魔法や魔力系の攻撃を司水者で防いでリリアを守っているのだろうか。

 この陣形にかなが加われば攻撃を行う枠が増えるし、俺も魔術・氷で攻撃を防ぐことも出来そうだ。始祖竜がどれくらい強いのかはわからない。だが、少なくとも戦力にはなれるはずだ。


 その巨体を暴れさせ、ソルに対して腕を振るおろす攻撃を繰り出す始祖竜に対して俺は解析鑑定をかけてみる。


種族:魔獣・始祖竜

名前:エルダードラゴン:固有権能見定めし者:相手との力の上下関係が理解できるようになる

レベル:99

生命力:40019/40019 攻撃力:69810 防御力:59928 魔力:52913/52913 

状態:腐食

スキル:魔術・自然Ⅹ、高速飛翔Ⅹ、魔牙Ⅹ、魔爪Ⅹ、竜息吹Ⅹ、自然治癒Ⅹ、魔力自動回復Ⅹ、物理攻撃耐性Ⅹ、魔法耐性Ⅹ、状態異常耐性Ⅹ、精神攻撃耐性Ⅹ、即死無効etc

権利:基本的生物権、自己防衛の権利、自己回復の権利、魔術使用の権利

称号:殺戮者、最古の生物、生命の起源


《竜息吹:口から炎を放つ》

《最古の生物:最古の生物に与えられる。身体能力を上昇させる》

《生命の起源:生命の起源に与えられる。一度見た種族特有の能力を自身のものとする》


 正直、驚きが隠せなかった。ステータスだけではない、スキルも圧倒的。最終的にはetcなどと表記される始末だ。全能力五桁。攻撃力に至っては70000近く。あり得ない。そう思いたくなるほどまでに圧倒的なステータス。だがそれ以上に確認しきれていないスキルの方がよっぽど怖い。さらに言えば称号。生命の起源なんていう称号は、一度見た種族特有の能力を自身のものにするなどというバグレベルの能力だ。はっきりと言おう。化け物だ。


 俺はこれから、自分の考えの浅はかさを、身をもって体感することとなる。

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