くつろげる時間
な、なんだったんだ……。相変わらずソルは自由奔放、何をしたいのかわからない。というか、本当に原初の七魔獣って伝説の存在とかじゃないのか? すでに二体は知り合いだし、一体は目の前で死んだし、もう一体はリリアの主らしいし。結構身近にいるんだけど、なんかおかしくないか?
「それに、なんだか気に入られているみたいなんだよな。まあ、強いやつに気に入られて悪いことはないだろ。そうだよな、ポジティブに考えていこう」
さて、それじゃあ帰るとするか。
(かな、戻ろうか)
(うん)
二人並んで基地に戻ってみると、なんだからみんなが訓練場に整列していた。
(あれ? もしかしたらもう出発なのか?)
(リリアは、ここに来てから一週間くらいで出発って言ってたよ)
(じゃあそろそろなのか。俺たちはどうする? ついていくか?)
(いいや。人間弱いみたいだし)
行くか行かないかの基準が相手が強いか強くないかなのは最早いいとして、人間は本当に弱いんだろうか、とここで疑問に思った。超人や天人がいる中で人間が弱いとは言い切れないし、勇者だっているはずだ。
人間そのものはこの前オレアスで確認した通り弱い。だが、その中にも強者は数人いるのだ。アリシアほど強い者がいるとは思いたくないが、ありえない話ではない。亜人はそもそも強いとされているのだから、勇者の一人や二人、派遣されていてもおかしくはない。リセリアルから支援があるという話だったし、いると考えてもいいのではないだろうか。まあ、かなが暴走しそうだから言わないでおくか。
基地に入り、リリアの下へ向かう。リルと作戦を考えているはずだが……。
入ってみるとリリアがソファに座り、リルがソファの隣に寝そべって何かを話していた。先に述べた通り戦争について話をしていたのだろう。リリアは俺たちに気づいていたらしく、俺達が部屋に入ったと同時にこちらを振り向いて笑顔でほほ笑んでくれた。
(ただいま)
(お帰り。もう見た? 私はそろそろ出かけるわ)
(我も同行することにした。二人はどうする?)
どうやらリルはリリアについていくことにするらしい。俺はどちらでもいいのでかなの様子を伺ってみると、かなは首を横に振っていた。
(行かない。司とお留守番してる)
(そうか。では、翌朝には旅立つ。その間、この基地での防衛を頼むぞ)
(任せておけ。リリアも気を付けてな)
(うん、今日は早めに寝るね)
リリアはそう言って立ち上がると部屋を出た。
(リルはいいのか?)
(我の肉体は睡眠不足に対する疲労に強いのでな。特に問題はない。それに、心配せずとも人間共には雑魚しかいない)
(そうかよ。まあ頑張れ。かなと俺は留守番しておくぞ)
(ん、お話してる)
かなも小さく頷いて賛成の意を示す。リルは満足そうに頷くと我も支度があるので、とだけ言って部屋を立ち去った。亜人たちの編成でも確認しなおすのだろうか。あいつはすっかりリリアの軍事顧問みたいになってるな。
というわけで部屋にかなと二人きりになり、俺は手持ち無沙汰になったが、取り敢えずソファに腰掛けた。かなはそれを見て、俺の隣に陣取り俺の膝の感触を確かめてから膝を枕替わりにして寝転んでしまった。
(眠いのか?)
(気持ちいいだけ)
(そうか。じゃあ、しばらくそうしてるか?)
(ん。……司も休んでね)
(くつろいでるよ)
実際、フカフカのソファに寄りかかって、猫の重みと温かみを感じている。部屋で一人、ゆったりとした時間の中で猫を愛でるとか、最高にくつろげる時間だよ。
軽くかなの頭をなでてやると、気持ちよさそうに膝に頬擦りを返してくれた。顎を撫でてみれば、ゴロゴロと喉を鳴らした。人の姿になってもできるんだな、なんて考えてみたり。こういうゆったりした時間が大事だってかなが言っていたけど、全くその通りだと思う。心の平穏を取り戻せているようで心地よく、どうにも安心してしまう。
心安らぐこの時間は、もう何日ぶりになるのだろうか。こっちの世界に来てから初めてだと思ってみれば、そうとも思える。きっと、俺は疲れていたんだ。こうやって息を付ける時間が、確かに必要だったんだろうな。
(今日はしばらくこうしてるか)
(ん、お休みの日)
そうして、俺とかなはこの日一日中ゆっくり過ごしたのだった。
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