眠りから目覚めて
「はぁ……はぁ……あんたは、絶対に、許さない!」
魔力が弾け、疾風が吹き荒れる。木々をなぎ倒し、地面をえぐる威力を持つそれを受けて、さすがの始祖竜も気圧された。一瞬怯んだその隙に、少女は拳を叩きこんだ。全身全霊、全ての力を振り絞り放たれたその一撃で始祖竜は倒れ、少女は眠りについた。
そんな、妄想をした。
――
――――
――――――
「夢?」
目を開いてみればそこはいつもの森の中。もちろんあいつはいないしあたりは荒れ果ててない。
「珍しいわ。私が夢を見るなんて。……懐かしい夢だったわね。でも、どうせなら全部見せてほしかったわ。もっと私の見せ場とかあったのに」
でもまあ、よかったのかもしれない。あの時の私は、どうかしていたし。最後にあいつがぶっ飛ぶところも見れたし? 良しとしよう。
「やっぱり、戦争が起きるから、なのかしら。……何千年ぶりかに目覚めたっていうのに、また正気じゃなくなるのは避けたいけれど、仕方ないわよね。もしもの時は、私がやらなくちゃいけないもの」
それに、せっかく面白そうな子を見つけたばっかりだし、あと、二人にも挨拶くらいはしておかないとだし。にしたって、夢見が悪い。
私は気分転換に散歩に出かけた。
「面白そうなところと言ったら、やっぱりここよね」
最近興味深い子が入っていった亜人たちの基地。ハイエルフが指揮してるってだけあって亜人たちの練度はかなり高いけど、私の侵入に気づけるほどじゃあない。ネルの部下にしては微妙じゃないかな? とは思うけどあいつの教育方針はよくわからないから何とも言えない。ここ何千年かで性格が激変してなければいいけど。さすがに私のことを粗末に扱ったりしないよね?
「あれ? あそこにいるのは」
考え事をしていたせいで見逃しそうになったけど、気になるあの子は基地の外にいた。仲がいい獣人の子と一緒に歩いてる。確かあっちは戦場跡しかなかったと思うけど、お散歩かな?
驚かせちゃおう。
私は音を立てずに二人の前まで移動した。
「ねえ、二人とも」
「―――!?」
「っ!?」
あれ? 二人とも喋らない? あ、違うか。そう言えば二人には基本的生物権がなかったね。喋れないのか。
ということで念話を使う。
(こんなところでどうしたの?)
(な、なんだソルか。驚かせるな)
(ん、びっくりした)
(ごめんなさい。ちょっと驚かせようかと。どうやら成功のようね)
(原初の七魔獣って大仰な肩書持ってるくせにやってることが陰湿だぁ……)
失礼なこだ。
(で、何してるのかだったか? ちょっと散歩にな。このあたりのことを把握しておきたくて)
(そっか。……そう言えば、ここの戦場跡ってなんで出来たかは知ってる?)
(え? 人間と亜人の戦争じゃないのか?)
(んー、そういう認識なのか。いや、でもあの子なら隠したがるか。ありがと。お礼に何でも質問を受けつけるわよ)
(急に言われてもな)
司君、だったよね? 引きつった表情を隠そうともせず大きくため息を吐いた。いつもの調子で喋ってほしいといったのは私だけど、さすがに敬意とか礼儀が足りてないんじゃない?
(ん、じゃあ、どうやってそんなに強くなった?)
(え? そんなこと? まあ、生まれた時から強かったんだけどね。強いて言うならたくさん倒すことが重要よ。それが一番強くなれる方法ね)
(なるほど、頑張る)
(私も才能ある子が頑張っているのを見ると元気が出るから、ぜひともそうしてね)
(ん)
(なんかもう終わってるし……)
司君はまた一つ大きくため息をこぼした。本当に失礼なこね。
(じゃあ、私はこれでおさらばするわ。また、機会があったら会いましょう)
(……ああ、またな)
(ん、ばいばい)
司君は何か言いたそうだったけど、かなちゃんは可愛らしく手を振ってくれた。こうやって誰かと関わるのも久しぶり、ね。この子たちも、守ってあげたいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます