手ほどき

 さて、そういうわけで訓練場で一番偉そうにしている個体にデストロイヤーを嗾けた。別に悪い意味ではなく、少しばかり手ほどきをさせてくれとお願いをするため翻訳を任せるだけである。


種族:亜人・馬鬼

名前:サノス:固有能力馬怪力:筋力を大幅に上昇させる

レベル:42

生命力:709/709 攻撃力:871 防御力:601 魔力:302/302

スキル:魔拳Ⅲ、皮膚剛化Ⅱ、闘気Ⅲ、自然治癒Ⅰ、物理攻撃耐性Ⅱ

権利:基本的生物権


 デストロイヤーが接触した個体の能力値である。それなりに高く、ここの訓練兵たちの中では最高峰の強さだろう。驚いたのはそのレベルで、なんとリリアを上回っていた。ステータス自体は基本的にはリリアの方が上だ。スキルの潤沢さなんかを比べてもリリアの方が格上だが、どうやら戦闘経験だけで言えばこいつの方が上らしい。

 大きな角を生やした強面のお兄さんといった感じだ。体調は二メートル越えで全体的に引き締まった筋肉を持つ褐色の肌の持ち主だ。目の白めの部分が黒色で、瞳の部分が赤色という何ともいかつい見た目をしている。人間の外見と比較するのなら四十代ほどだろうか。


(お、接触したな)

(うん。あとは任せる)


 そんなサノスであるが、デストロイヤーと比べるとかなり見劣りする。実際、サノスはデストロイヤーを一目見てからなり驚いていた。それでも怯んだ様子を見せなかったのは強者としてのプライドなのだろう。しかし、二人が戦闘になったら間違いなくデストロイヤーが勝つだろう。ステータス差もあるし、そもそも精霊というのは他の生物と比べて強い。そういう法則がこの世界には働いている。


(うまく行ってるみたい)

(そりゃよかった。まあ、脅しているようにも見えるけどな)


 傍から見ればただの脅しだ。デストロイヤーの外見の恐ろしさはそこら辺の亜人とは比べ物にもならない。体躯は大きいし、なんか変なオーラを身に纏っているし。一言で言えば人外の雰囲気だ。まあ、実際に人外だし見た目相応の強さはあるのだが。

 話しかけられたサノスは表情こそ変えないが冷や汗を流しているようだ。なんと言われているのかは分からないが決して好意的ではないようだ。まあ、デストロイヤーの見た目で丁寧口調だったら違和感しかない。ウォーリアーならありえそうだが。あいつはまさに騎士、という感じなので違和感は少ないだろう。


(あ、終わったって。殺さなければ回復してあげられるからって言ったら、ぜひ鍛えてほしいって)

(亜人も好戦的なんだな。まあ、確かに殺さなければ回復できるし、何なら条件さえ整っていれば死んでも蘇生できるからな。相手がそういうのなら俺は止めない。まあ、そこそこに頑張ってくれ)

(うん。でも、司も相手してほしいって。あのおじさんが)

(デストロイヤーが話しているサノスさんか? まあ、別にいいけど。じゃあ、かながここの区画にいる兵士たちの相手で俺がサノスさんの相手な。お互いやりすぎないように頑張ろうぜ)

(ん)


 というわけで、俺とかなはそれぞれ臨時訓練を開始した。


 と言ってもやることは単純だった。俺は一対一を、かなは一対多をそれぞれいつもの感覚でこなすだけ。もちろん殺し合いが目的ではないのでそこは気を付けつつそれなりの力を出して戦った。

 俺の手加減としてはスキルの制限、かなはそもそも手加減が異様にうまいので心配はいらない。俺のスキルの制限というのは普段愛用している思考加速や皮膚剛化、魔術・氷を使わないという自己ルールだ。

 解析鑑定で相手のステータスを把握し、森羅万象で相手の行動を先読み。あとは属性剣術を乗せた手刀で攻撃。正直これだけで勝てる。

 そう思って始めた模擬戦だったが、何の意外性もなく俺の圧勝だった。


 デストロイヤーの咆哮を合図に開始したのだが、始まると同時にサノスが一歩大きく踏み込んできた。見た目とスキル構成から正面切っての近接肉弾戦が得意なのだろうとは予想していたが何の迷いもなく突撃してくるとは思わなかった。闘気を高め、皮膚剛化を発動し、魔拳がしっかりと載った拳を俺に向けてまっすぐ伸ばしてきた。

 体格差があるため上からの攻撃になる。俺はそれを軽く半身になって躱してやる。運動能力で言えばリルを宿していない状態の俺とサノスとではそこまで差はない。精魔人になった俺だがサノスの固有能力である馬怪力のせいで瞬発力や筋力ではほぼ互角のようだ。それを森羅万象で知っていた俺はむやみに攻撃を受けたりはせず、反撃を狙う。

 俺が半身を逸らしたことで行き場を失った拳は、なんとか勢いをこらえて引き戻されそうになったが、遅い。俺は背負い投げの要領で腕をつかみ、後方に投げた。サノスの大きな体は軽々と浮き上がり、地面に叩き付けられる。一応受け身取ろうとはしていたようだが、というか受け身はとれていたが衝撃が強すぎてダメージを吸収しきれなかったようだ。サノスは苦しそうな顔を浮かべていた。

 しかしそれで諦めることはなく、その後も何度か突撃を仕掛けてきた。中には鋭く、かなり危ない攻撃などもあったがギリギリ躱す、最後に首の後ろから手刀を見舞って俺の勝利となった。


「なんだかんだ言って俺も強くなったもんだ」


 そんなことを言いながら倒れたサノスをデストロイヤーに任せ、かなの様子を見に向かうのだった。

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