かなの評価

 ソルの突然の訪問を切り抜けた翌日、俺はかなと最前線基地の内部を探検していた。

 内部と言っても建物の中ではなく、策と外壁、堀で覆われた部分である。

 リリアがいた建物は大将階級以上の者の外泊施設らしく、この最前線基地にはほかにも兵舎や武器庫、食糧庫、その他物資保管庫や訓練場があるらしい。軍事会議なんかはリリアたちがいる外泊施設、最前線基地の本部で行われるようだ。


 そんな感じの最前線基地だがかなり広いらしく、一日暇をつぶすくらいなら容易だという。

 リルはリリアに軍事顧問としてついているとのこと。護衛も兼ねてとも言っていた。まあ、リルは確かに弱体化したが見た感じこの最前線基地にいる兵士たちよりは一回りくらい実力は上だ。あいつなら死んでも死ななそうだし、何かっても対応できるだろう。というわけで俺とかなで最前線基地を散策することになった。


(かなはどこか行きたいところあるか?)

(訓練場に行って、どれくらい強いか確かめる)

(相変わらず好戦的なことで……)


 可愛い女の子らしくもう少しお淑やかにしたらどうだ? とは思うもののやんちゃなかなも可愛いので言わないでおく。


(別にいいけど、多分大して楽しくないぞ?)

(リリアの大切な部下を鍛えてあげる)

(まあ、物は言いようだな……)


 ちなみに、すでにこの最前線基地内部で俺たちのことは知れ渡っている。リリアがリリアの客人として俺たちを来賓扱いということにしてくれたらしい。だから物珍しそうに見られることはあっても不躾に睨んできたり失礼なことをして来る輩は今のところいない。

 この基地にいる兵士たちは皆尻尾が生えていたり、体が異様に大きかったり、角が生えていたりして厳つい。それに、俺が初めてこの世界で出会った亜人である鬼人もいた。鬼人の思い出と言えばいきなり連行されて奴隷として売り飛ばされたことくらいだが、それでリリアと出会えたわけなのでそれなりに感謝している。まあ、怖いことに変わりはないのだが。


 それでもびくびくする必要はない。言ってみれば見かけ倒し、今のところ俺よりも強いやつは誰もいない。ステータス自体はかなり高いし、レベルもそれなりだ。それなりだが、高くても三十後半である。

 ここ最近になって分かったのだが、人類はそもそもレベルが低いものらしい。予想するに、基本的に集団生活しているから一人一人が倒す他の生き物の量が少ないのだ。それに対して強力な魔獣は常に縄張り争いと食物連鎖で他の魔獣を狩り続けるためレベルが高い。つまりはそういうことなのだろう。それならばハイエルフの女王であるリリアのレベルがそこまで高くなかったことにも説明がつく。

 そう考えると俺たちは異常だ。こっちの世界に来てからはほぼ毎日のように大量の魔獣を狩り、レベルを上げてきた。だからこそここまでレベルも上がり、元人間とは思えないほどのスペックを手に入れたわけだ。


(しかし、模擬戦をしたいってどうやって伝えるんだ? 喋れないだろ?)

(ん。でも、いい方法を見つけた)

(そうなのか? 物は試しだ。さっそく試してみよう)


 そうしてやってきたのは最前線基地にある訓練場だ。東京ドーム何個分、とかで面積を表されそうなくらいには広い。まあ、東京ドームがどれくらいの広さなのかは知らないがな。

 ざっと見たところこの場で訓練を行っているのはいわゆる一等兵や二等兵と言ったところだろう。かなり弱い部類の亜人ばかりいた。それでも見た目だけは強そうだ。訓練場が八つくらいに分けられて訓練しているらしく、それぞれが白線で仕切られている。一つの区切りにいるのは大体五百人なので、この場にいるだけで四千人は超えるということになる。

 もう少し目を通せば中には名前を持ったいわゆるネームドの亜人も数人おり、大尉だとか中尉だとかの階級に当たる人物なのだと理解できる。強さで言えば以前オレアスの商業都市オリィで発生したデモンパレードの悪魔たちと同等くらいだろうか。亜人と言えど、人間とステータスにそこまで開きはないらしい。

 そんな連中ではあるものの数が数であるため景色は壮大で、前世にテレビで見た自衛隊の軍事演習にも似ているかもしれない。


(見た感じやっぱり弱いな。かながまともに相手をするなら少なくとも二千は必要だな)

(ううん、三千は必要)

(加減してもか?)

(加減しても)

(なるほどなぁ……)


 そんな気がしないでもない。昔のかなならいざ知れず、今のかなは一瞬だとしても原初の七魔獣の動きについていけるほどの猛者。ルナやソルに及ばずともその力は絶大で、何ならこの最前線基地を一人でつぶせるのでは? と思えるほどには強い。それに関しては何としてでも俺が阻止するが。


(さて、じゃあかなが思いついたっていういい案を教えてもらおうか)

(ん)「―――――――――サモンエレメンタル―――――――デストロイヤー


 かなの足元に魔法陣が現れ、そこから全長三メートル近い大男が現れる。しかし、全体的にスラっとしたフォルムをしており、筋肉こそついているがでかいという印象はそこまでもたせない。引き締まった肉体をしている、ともいえるだろう。褐色の肌に炎のように揺れる魔力を纏っている。

 そいつの名はデストロイヤー。かなが使役する上位精霊である。


(少し大きくなったか?)

(ん。成長した。多分、レベルも上がってるはず)

(今まででも十分強かったのに、まだ強くなるのか……かなを守ってやってほしいものだ)


 元々はブレイカーという精霊だった。だが、かなの進化に合わせて強くなった姿がデストロイヤーだ。今ではかな単体でも十分強いが、今まで通りかなを守護する者として頑張ってもらいたいものである。


(で? デストロイヤーでどうするんだ?)

(精霊はお喋りできるから。かなが念話で伝えて、話してもらう)

(なるほど、翻訳をお願いするのか)


 うん、力の無駄遣いだな。


 しかし、そのほかに方法があるわけでもないのでかなの言う通りデストロイヤーに通訳を任せてみることにした。

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