閑話 主様
「なあ、今日は俺の番じゃなかったか?」
「違うよ。今日は火曜日。私の番だから」
「そうだったな。じゃあ、早くしろよ」
「うん」
自分の前にご飯を差し出す二人の兄弟は、いつも仲良しだった。
「お前は可愛いな。大きくなれよ」
「たくさん食べてね」
優しい言葉をかけてくれた二人の臭いを嗅ぐたび、自然と気分が上がっていた。ご飯がもらえるのもそうだったけど、それ以上に二人に会える日々が楽しくて。
「じゃあ、私たちは今日は帰るわね」
「またな」
また、二人は帰ってしまう。でも、また二人は帰ってきてくれるから。自分は見送るだけでいい。また、その顔が見れるはずだから。
「にゃ~」
自分は、お礼を告げた。
とある日の昼下がり。陽気が気持ちいい。神社の軒下で日向ぼっこ。気持ちいい。お昼寝して目が覚めたらご飯が置いてあった。見渡してみたけど誰もいない。でも、二人の臭いがした。今日もありがとう。
「にゃ~」
今日は女の子だけが来た。
「お兄ちゃん今日から別の学校に行くからあんまり来れないって。高校生って大変だね」
「にゃ~?」
どうやら男の子はしばらく来れないらしい。それから数か月もの間、女の子だけがご飯を持ってきてくれた。ちょっと、寂しかった。
今日はお散歩日和。女の子は来てたけど、お昼から神社を出てみる。久しぶりに嗅ぐ匂いがあった。
男の子だ。
「よ、久しぶりだな。ご飯はもらってるか?」
「にゃ~」
自分を助けてくれた、大恩人だ。女の子に知らせよう。神社に戻る。あ、ご飯だ。近寄って、食べる。おいしい。
「げ」
「げ、とはなんだ、げ、とは。何やってるのよ、本当に」
二人はまだまだ仲がよさそうだった。
「帰る」
「おまちっ!」
抱き合っている。やっぱり仲がいい。よかった。今日もまた幸せだ。二人にあえて。眠いな。お休み。
眩しい。あれ? ここどこ? 目を開いてみれば、森の中。草がいっぱい生えている。あれ? 手と足が、変?
みてみれば、人間みたいになっていた。触ってみて、顔も変わっていた。でも、耳と尻尾がある。夢? 知ってる匂いがした、男の子だった。
走ってみると、結構走れた。悪くない。
匂いが近づいて、飛び出してみると男の子だった。
「にゃ~」
男の子は不思議そうな顔をした。多分、自分が人間みたいになったからだ。
「これ、持てるか?」
「にゃ?」
何か言っているけれど、わからない。でも、何かを差し出された。貰っていいのかな?握ったらすぐ、消えちゃった。なんだったんだろう。
「どうだ?」
体の中がほわほわした。フワフワして、びたーっ、ってなって。男の子と繋がった気がした。ううん、男の子じゃなくて、主様。命の恩人で、ご飯をくれて、名前を付けてくれた。ご主人様。
(主、様?)
男の子と繋がれている気がした。多分、間違ってない。
(おう、主様の司だ。よろしくな、かな)
(かなっ! 私の名前!)
(お、覚えてたか)
かな、それが自分の名前。主様がくれた、大切な名前。ずっと大切にしたい、想い。ご飯をくれたお礼が、出来ると良いな。
かな、頑張る!
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