俺はこうでなきゃ
「さあて、どうもはじめまして王女様。俺がリルの主、司だ」
「あなたが司様、ですか。なんというか、勝手にもっと厳格な方だと思っていました……」
「うん、それは俺がふざけたやろうだって侮辱しているのかな?」
憑依一体を得た結果、リルを宿っても俺が操作できるということが、なんと実現してしまった。
よって俺はさっそく王女様に挨拶をすることにした。やっぱり最初は挨拶が肝心だと思う。
だが、初対面だというのにさっそく誹謗中傷を浴びた。まあ、王女にはそんなつもりはないんだろうけどな。
「い、いえそのようなつもりは……」
王女は可愛らしい童顔で曖昧に苦笑いを浮かべてそう言った。
ほら、やっぱりそんなつもりはなかった。
「あ、あの……司さん、なんですよね? 始めまして、というのは変ですかね? カレラと言います」
「ん? おお。よろしくな」
「は、はいっ!」
王女の反応に少しばかり傷ついていると、横から赤髪の美少女、カレラが声をかけてきた。俺があいさつを返すとどこか嬉しそうに笑って見せた。なんだ、可愛いかよ。
やっぱり自分で誰かと触れ合うってのは楽しかった。自分の言葉で、自分の目で、その場の空気を感じながら誰かと会話するっていうのは久しぶりで、とても楽しいものだった。自分のテンションが上がっているのを感じた。俺も案外単純な奴だ。
「あ、あれ? なんだか、目が青っぽい?」
「ん? ああ、多分リルが宿ってるからだな。氷属性の核だからじゃないか? あとは司水者とかか? 《クリスタル・クリエイト》」
カレラに指摘された俺は、自分の顔を確認するために氷の鏡を作り出した。
映ったのは俺の顔。だがいつもと違うところが少しある。まず、カレラに言われた通り左目が青く染まっている。視界に異常があるわけではないし、問題は特にないな。あと、髪の毛の先端が若干青くなっていた。他にも、前からあったが体に青い線が浮かび上がっている。全身に入り乱れるように走る線。そこからは強い魔力を感じた。俺の魔力が司水者で水属性に変化しているのだろう。
おかげで体の関節部分がスムーズにうごくっぽい。俺は着ていた上着を脱ぎ棄てた。
「えっ!? な、なんですかその青いの。あざ? ですか?」
「違う。これは俺が人ならざるものであることの証明だ」
何て恰好づけて言ってみる。
「な、なるほど……。あの、気になっていたんですが司さんは何者なんですか? 超人、よりも上位の存在ですか? 天人とも違うようですが……」
「俺は精魔人って種族だな。結構珍しいはずだぞ」
と言っても精魔人になったのはほんの少し前だがな、なんて自分に心の中で突っ込みを入れておく。
「リルっていう魔獣の核を宿した時こそ本領発揮なんだけど、今まで弱っててそうもいかなかったんだよな。だが、復活と同時に回復して、今じゃ本気も本気、全力を出せるようになったってわけだ」
嘘である。嘘であるが、まあ仕方ないと思ってくれ。時に人は恰好づけたいものなのだ。
(あまり脈略もないことを言っているといずれ墓穴を掘るぞ?)
(俺に宿ってる魔獣さんは黙っていてください。今は久しぶりの表舞台に立ててテンションが上がってるんだ。邪魔してくれるな)
(はぁ……わかった。わかったから王女と決着をだな)
(ええ……一度言葉を交わした美少女と戦うのはなぁ……)
(文句を言うな。やるべきことなんだぞ?)
毎回思うがどうしてリルはこうも俺に対して高圧的で上から目線なんだろうか。確か、主は俺だよな?
しかし、決着をつけるっていうのは大切なことだ。曖昧なまま終わりにするのは後味悪い。きっちり終わらせるのは大切だろう。それに、俺も新しい力を試したいし、王女の本気ってやつを知ってみたい。いずれ達するべき人間の頂点に対して俺がどれくらい戦えるのか。興味がないと言ったら大噓になるからな。
俺は決意をして王女に歩み寄る。
少し離れたところにいた王女は、俺の接近に驚いた顔をする。
「なあ王女様、俺ともう一回決闘をしよう。もちろん、命を取るようなな戦いではなく、だ。まあ、手合わせっていえばいいのか? 俺は世界の実力を知りたいんだ」
「私でよければ、いつでも歓迎しますよ。ですが、私なんかで相手になりますかね?」
「ん? むしろ逆だが?」
「え?」
ああ、もしかしてこれ、王女は俺がルナよりも強いとかって勘違いしてるのかな?確かにさっきまでの口ぶりならさっき戦った時の俺は本気じゃなかった、みたいな感じに聞こえるだろうし、一応俺たちのメンバーの一番上をやっているわけだからな。
実力で言えば最下位だが、まあ言わなくてもいいだろう。
「安心しろ。先に行っておくが、俺はさほど強くない。リルやルナ、かなと比べても見劣りするだろうから。むしろ、俺が挑戦者って感じだよ。王女様の方が数倍は強い」
「数倍は言いすぎだと思いますが……でも、はい。心得ました。その挑戦、誠心誠意受けましょう。ですが、その前に一つお願いがあります」
「ん? なんだ?」
王女がお願いとは、なんだろうか。富や名誉はもういらないだろうし、俺達は特に珍しいものを持っているわけではない。何か依頼があるのなら受けるのは構わないとして……さて、なんだろうか。
少し考えたところで答えはでそうになかったので、王女の言葉を待つことにする。
王女は神妙だった表情を可愛らしい恥じらいの表情に変えていった。
「その、私のことは名前で呼んでください。これは、私が許します。えっと、特別なことなんですよ? 私のことを名前で呼んでいいのは、父や母だけ。一応、カレラお姉さまにも呼んでいただいていますけど。でも、あなたには力と、知恵があります。亜人国との橋渡し役として、これからも仲良くさせていただきたく……お近づきの印、というやつです」
はにかみながら、王女はそう言った。
……あれ? もしかして、俺、モテ期到来? カレラにもなんか気に入られてるみたいだし、かなには好かれてるし、ルナも、以前に比べたらだいぶ俺に対する態度が丸くなった。これは、モテ期なのでは?
「そうか? じゃあ、遠慮なくアリシアと呼ばせてもらおう。俺のことも司でいいからな」
「はい、司。これからよろしくお願いします。あなたは我が国と亜人国とを繋いでくれるかもしれない大切な存在です。長年続いた睨み合いに終止符が打たれるのなら、それほどいいことはありません。今後とも、よろしくお願いします」
「ああ、もちろんだ」
どうやら、だいぶ信用されたらしい。何かしたわけではないと思うが、どうしてだろうか?
それに、もう亜人国と同盟を結ぶことを前提として話しているな。まあ、元々オレアス側にもメリットはある話だったし、そこまで不満があったわけではないのだろう。
でも、何が心変わりの原因になったのだろうか。俺を殺したことを申し訳なく思っているとか? いや、そんなことありえないか。ただの他人だった俺を殺したところで、なあ? 特に何とも思わないよな?……いや、普通思うのか? やばい、冷徹者のせいで感覚が麻痺してきた。
「じゃあ、悪いが手合わせと行こう。今度こそ本気で相手してやるから、全力でかかってきていいぞ。俺も死ぬ気で頑張る」
「では、そうさせていただきますね。私も、久しぶりに本気で体を動かしたいと思っていたところです。ウォーミングアップはすでに終わっています。いつでもどうぞ?」
「じゃあ、私が開始の合図を出しますね」
「おう、任せたぞカレラ」
「はい、お任せください」
数メートル間隔を開けて見つめ合う俺と王女。そこから少し離れたところにカレラがたっていて。ルナとかなは空中から観戦だ。飛べるってすげぇ……。と言っても、二人が飛べるのは知ってたよな。ルナは魔術・月光で重力をある程度操れる。かなは高速飛翔の応用でホバリングも可能らしいし。俺も飛べるようになってみたいところである。
すでにアイサファイヤ・ロングソードを握った状態だ。青白い刀身と、刃の中心で凝縮された魔力が淡く光る。リルの魔力を最大限利用した、絶氷の剣である。
以前の王女との戦闘で使ったホワイトクリスタル・ロングソードとは強度の桁が違う。さすがに一回切り合ったくらいで壊れることはないだろう。でも、念には念を入れて属性剣術・空間を発動しておく。空間を少し歪ませて申し訳程度の強化をして、準備完了だ。
王女のほうを見てみれば、瞬絶も聖剣も発動していた。全力、という言葉に嘘偽りはないようだ。さすがに舐められるのは気分が良くないからな、もちろんウェルカムだ。
「では、お二人とも準備はいいですか?」
「もちろん」
「出来ています」
「それでは、オレアス第一王女アリシア・オレアス対亜人国対人間軍最前線基地総括直属部下司による決闘を、開始します!」
カレラのその掛け声と同時に、嵐が来たのかと錯覚するような暴風があたりを覆う。
カレラの体は吹き飛ばされそうになるが、ルナの張った結界で守られていた。カレラの安全を確認した俺は、心置きなく全力を出せるな、と安心した。
武闘会の決勝は結局無くなったが、王女との決闘の権利は得た。ここから始まるのは、今世紀最大の人類同士の決闘だった。
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