新しい力
(はぁ……まったく、まさかこうも簡単に死ぬとは思っていなかったぞ……)
一人、何もない空間の中で文句を吐く、俺。
王女との決闘の最中、何か光ったと思ったら視界が暗転していた。スキルの発動が邪魔されたような気がしたが、実際はどうかわからない。で、一瞬猛烈な痛みと寒気に襲われ、すぐに楽になった。まあ、つまり死んだわけだ。
死んだと言っても、この世界では蘇生なんてことができるらしい。実質的な死亡とは違い、仮死状態とでもいうのだろうか。このまま俺の死体が放置されれば完全に死ぬだろうが、リル曰く俺たちのメンツなら蘇生の条件はそこまできつくないらしい。もちろん、受けた傷の深さにもよる。即死するような攻撃だった場合蘇生の可能性はないが、今回は大丈夫そうだ。
聖気によって浄化される核もリルから預かっている分だけだ。もちろん魂は危ない状態になるだろうが、そこはまあリルたちが何とかしてくれるはずだ。
これも冷徹者の影響なのか、俺は死んだはずだというのに驚くほどに冷静だった。どうせ復活できるから、とか、ゲームみたいだな、とか考えていたからだろうか。意識が残っているというだけで死に対する実感もわかない。
今俺は、いわゆる謎空間にいた。ここ最近はリルの影空間などを体験していたこともあり、だいぶ慣れたこの謎空間だが、やっぱり感覚が狂うな。気持ち悪い。
その場に留まっているのか、立っているのか。足の感覚も曖昧で、目印となるものがあるわけでもなく、真っ暗闇なわけでも明るいわけでもない。何か見えているのかもしれないし、見えていないのかもしれない。自分の体こそ見えているが、この体以外は吸い込まれるような黒。碌な情報を得れやしない。
どうしてこの謎空間にいるのかは、よくわからない。でも、リルも一度死んだときはこんな空間にいたらしい。影狼の体に乗り移って生き返るまでの数分は、こんな空間に一人漂っていたと。生き返ると同時に意識が覚醒し、五感を使えるようになったとか。
その感覚はまだわからないが、多分そこまで障害にはならないだろう。リハビリがいるわけでもないだろうし、すぐにでも活動を再開しなくてはならないな。
……でも、俺が決闘で負けたわけだしな。リルは他にも何か考えているのだろうか。そうでなかったとしたら申し訳ないな。リルのスキルを借りておいてここまで何もできずに死ぬとは……。本当に情けない。
「にしても、何して待つか……魔法の練習とかできるかな」
蘇生の条件がそこまできつくないとは言っていたが、そんなすぐに生き返るとも思っていない。こんな何もない空間では数分いるだけでおかしくなりそうなので早く暇つぶしになりそうなものを見つけなければならない。
試しにアイシクルメテオを使おうとすると、普通に撃てた。氷の塊が俺の頭上から少し先の方に向かって飛んでいき、虚空へ消えていった。距離感を測れるかとも思ったのだが、無理だった。
まあ、暇つぶしにはなるか。
そう思った俺はしばらく魔法の練習を続ける。
「《アイシクル・メテオストリーム》……まだ扱いが難しいか」
何分ほどが経ったかわからないが、何度目かになるアイシクル・メテオストリームを撃ち終わった後、今まで感じて違和感について考える。
空鯨に対して使った時から思っていたが、その時よりも威力が不安定な気がする。やっぱりまだ使いこなせていないようだ。リルほどの威力を出せずにいる。魔力の込め方が荒いのか、それともそもそも魔力量が足りてないのか。リルに関しては存在そのものが氷属性だったし、適正ってものがあるのだろうか。
「ま、考えても仕方ない。魔術・氷の扱いがうまくなってるのは確かなんだし、いつかしっくりくるだろ。……さて、そろそろ魔力も尽きるかなぁ。解析鑑定、っと」
種族:人間・精魔人
名前:司:
レベル:59
生命力:0/1109 攻撃力:902 防御力:1004 魔力:12/2110
状態:制約・奴隷、憑依一体
スキル:属性剣術Ⅶ、気配察知、魔力感知Ⅷ、森羅万象、解析鑑定、皮膚剛化Ⅷ、物理攻撃耐性Ⅵ、魔法耐性Ⅶ、精神攻撃耐性Ⅵ、魔術・氷Ⅹ、冷徹者、分割思考(魔術・空間Ⅷ、魔術・精神Ⅶ、魔牙Ⅹ、魔爪Ⅹ、眷属支配、眷属召喚、自然治癒Ⅳ、陽炎、影分身、影武者、闇世界門、影潜伏、影縛)
権利:生きようとする権利
称号:起死回生、殺戮者、冷徹者、超人
……あれ? なんかステータス伸びてる? というか、種族が変わってる……?
あ、生命力0になってる。……じゃなくて!? いや、え? どういうことだ? 精魔人って、なんだ?
《精魔人:精魔核を宿した人類の総称》
《精魔核:精霊の核と悪魔の核の性質をどちらも持つ核のこと。通常の核よりも強力》
なるほど……。これは、つまりあれか? リルの核の一部、つまり悪魔の性質を持つ核と、かなが何か精霊の力を使ったことで精魔核ができて、俺が精霊人になった。そして核が強力になったことでステータスも上昇した、と。
状態が憑依一体となっているが、これはきっとリルのスキルを借りているから、ってことだよな?
《憑依一体:他種族の核を宿した状態。宿した核の強さに応じて能力が上昇する》
そういうことっぽいな。
「いや、復活と同時に強くなるとか、主人公かよ、俺」
ラノベとかでありそうな展開だった。復活すると同時に覚醒、とか。今回の場合は覚醒ではないけどな。そもそも、俺に秘めたる力などないのだ。解析鑑定で能力が丸わかりの世界で覚醒とかやめてほしいな。計画が狂う。
でも、なんとなくリルなら落ち着いて対処しそうだなと思った。ルナは力でごり押しそうだ。……あれ? 案外覚醒してもらっても構わない感じ?
「でも、そういうことか。いつもより魔法撃てるなとは思ってたけど結構魔力増えてたな。魔力の調整がもいつもに増して違和感すごかったけど、かなの魔力も合わさったからだったのかもな。精魔核になったってことは悪魔と精霊の魔力がどっちも一気に俺に送り込まれたってことだもんな。……ん? 待てよ?」
俺は今憑依一体という状態にあるが、これがもしリルを憑依した半人半魔状態とは別の特性を持つとすると、もしかすると念願のリルのステータスを付与したまま俺が戦うってこともできるのかもしれない。復活したら、試してみるのもいいな。というか、今から楽しみになってきた。
ステータスも上がったし、それにさらにリルの力も使えるようになったのなら俺はどれくらい強くなれるのだろうか。多分、今までとは比べ物にならないくらい強くなれる。そう考えるとテンションが上がってきた。
「にしても、後どれくらいてても復活できるだろうか……。それなりに時間がたったはずだけど……実はそんなに時間が経ってない? 体感もう一時間くらいだが、こっちとは時間の流れが違うとかありそうだし……まあ、文句言わずに待ってみるか」
今かなたちは悪魔を虐殺しているが、司がそれを知る由もなく……、もうしばらく待つことになる。そして――
「ん? あれ? 思考加速が分割思考ってスキルに進化して――」
――司の意識がそこで途切れ、次に目が覚めたのは晴天に照らされる大平原の下だった。
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