会談
「さて、それでは決闘、ですね」
「そうだな。こうなってしまっては仕方がない。約束通り、決闘と行こう」
何が決闘と行こう、だ! ふざけんな、誰がやると思ってるんだ!
「早速支度をはじめます。場所は場内の訓練場で構いませんね」
「問題ない。では、向かうとしよう」
問題大ありだ! 俺、嫌だからな!? 絶対に嫌だからな!? ぶっ殺される未来しか見えないんだが!?
ちょ、聞いてます!?
念話で訴えかけたが返事がない。ガン無視しているようだ。席を立ったリルはその足で王女の後に着き、場内の訓練場に向かう。すでに連絡が行っていたのか、着いた訓練場には誰もいない。野次馬すらも寄せ付けていないようだからすごい。
とかじゃなくてだな!
(なあ、思い直せ! 俺は嫌だぞ!? 絶対に嫌だからな!?)
(まあまあ、そう慌てるな司殿。勝算は僅かだがある)
(やっと返事してくれたな!? そうだよ! 勝つ確率なんて限りなく低いんだよ! だからやりたくないって言ってんだ!)
(これも何かの経験だと思ってだな)
(その経験を生かす前に死ぬわ!)
何が殺しありの全力決闘だふざけんな!? リル、お前が使ってる体は俺のものなんだぞ!? わかってるのか!? いざとなったら主としての命令権を使うか? だが、あれは自由意志を奪うほどの強力なものではないし、そもそも今は俺の力が弱化してるから使えるかどうかも怪しい。どうすればいいんだ!?
困り果てた俺は頭を抱える(イメージ)。どうしてこうなった。そう思った俺は、事の発端となった出来事を思い出す。
――
――――
――――――
闘技場で王女と別れたあと、俺たちは邪神教と呼ばれる集団の拠点を潰しに向かった。リルの案内によってたどり着いたその場所は、いわゆる貧民街の端のあったさびれた屋敷だった。確かにカモフラージュはできるな。ぱっと見無人だが、気配察知で調べてみると地下がある。恐らくそこに身を隠していろいろしていたのが邪神教なのだろう。
その邪神教と呼ばれる奴らの目的は、言ってしまえば魂だという。邪神をよみがえらせるための生贄が必要で、先ほどの事件を引き起こしたのではないか、とのこと。もっと言えば、商業都市オリィで出会ったあの異常なまでの魔力を持った悪魔や、オリィから王都へ向かう道で襲ってきたブラックファングもその邪神教によって何かをされたのだろう。
他にも武闘会で俺達が戦った拳闘士のデロイトやリルに難癖付けてきたあの筋肉やろうも邪神教の関係者だろう。まあ、後者は利用されたって考え方もできるけどな。なんとなく、個人的にリルを狙っている気がした。だが、デロイトは間違いなく邪神教の人間だという。リルにその理由を尋ねると、こう返ってきた。
「ミスゼイル流、という拳闘士の流派は、邪神が発祥だとされていることが分かった。そしてその伝承者は皆邪神教の者。恐らくデロイト、と言っても偽名だろうが、と呼ばれていた男は武闘会参加者の観察のために参戦したんだろうな。もしくは、障害になりそうな出場者を先に殺すためにか。まあ、我にあっさり負けたわけだが。あれでも人間の中ではかなりの強さを持っていた。恐らく、邪神の加護のようなものを受けているのではないだろうか。ステータスも神の力によって隠蔽されている可能性があるな」
色々と驚く要素はあったが、俺の中で最もショックだったのは解析鑑定が誤魔化されている可能性だな。万能であり、あらゆる場面で腐ることのない俺の唯一のアイデンティティだと思っていたが、信用できないとなるともう俺の生きる価値を感じなくなってきた。
この世界に来てから最も活躍しているスキルだけに、俺の中ではショックがでかかった。これからは解析鑑定を信じすぎることもできなるかもしれない。まあ、それで疑心暗鬼になっては元も子もないがな。リルやルナのように、見るだけである程度の強さを見抜ける目を鍛えたほうがいいかもしれない。
(では、これから拠点を潰すわけだが……まあやることは簡単だ。恐らくないだろうが、情報の収集が第一目的。次に物資の回収。その他に関しては今は省いてもよいものとする。では、各自散開して作業に当たってくれ)
リルの声で散り散りになった俺たちは、それぞれ屋敷の中を漁り参考になりそうな資料を探した。まあ、一時間近く探してもリルの言う通り一片の情報も見つからなかったがな。でも当然だろう。邪神教というのはある程度大きな集団のようだし、歴史も長そうだ。そんな集団がこんなところに手がかりを残すようなへまをするとは思えない。
それでもいくらか残っていた爆薬や武器、食料などの物資をディメンション・ポケットにしまい、屋敷を後にした。
(さて、王城に向かうとしよう。ルナ女史とかな嬢は周囲の警戒を頼むぞ。どこに敵が潜んでいるか分からない。王都での武闘会を目当てにした観光客が多く集まっているこのタイミングで計画を全て諦めて逃げる集団だとは到底思えない。いつまたどこで暴れだすか分からない故、すぐに対処できるようにしていてくれ。一応、各々の判断で殺しは許す。緊急時は正体の露見も良しとしよう。今重要なのは同盟を結ぼうとしている相手国の国民を守ることだ。頼んだぞ?)
(わかったかの)
(ん、頑張る)
念話による脳内会議を終えて、俺たちはそれぞれ目的に向かって歩き出した。
(かな、また後でな)
(ん。司も頑張って)
そして俺たちは王城の一歩手前でテレポートを使う。またコントロールをミスって変なところに飛ばされないかとびくびくしていたが、リルが体に慣れたからか上手く行った。テレポートでついたのは王城の客室のちょうど前。気配察知で確認してみると、中につい先ほどわかれたばかりの人影ともう二人の人影があった。
その他には周辺に人は確認できなかった。もう人払いは済んでいるらしい。
リルもリルで確認したらしく、三回のノックの後、部屋に足を踏み入れた。
「来たぞ」
「アリシア様、失礼します」
「お二人とも、お待ちしていました。先ほどぶりですね」
堂々と入室するリル。恭しくお辞儀をしながら入るカレラ。それに笑顔で応じる王女と、その両脇に硬い表情で座る、国王と女王。初対面だが、リルにたいして苦手意識を持っているのが手に取るようにわかる。
国王は長身で細身、萎縮しているからかはわからないが気弱そうに見える。王女と同じく金髪碧眼だが、チャラさというものは感じられない。むしろ国王にふさわしい紳士のような顔立ちだ。
王女のほうは比較的小柄。童顔というのだろうか。幼さが残る顔つきをしている。流れるような金髪と美しい碧眼が王女とそっくりであるため、少し年の離れた姉妹のようにも見える。こちらは気弱というよりはリルに対して怯えているように見えるな。何なら体が小刻みに震えている。王女からどんな説明を受けたんだ?
王女にある程度話を聞いていたのだろうが、入室の態度を見て改めて面倒そうな相手だと認識したのだろう。だが、カレラの顔を一目見て一瞬表情を緩めたのを俺は見逃さなかったぞ?これはカレラを連れてくることにしたリルの作戦勝ちかもしれない。
緊張感を和らげる仲介役として、カレラには大いに頑張ってもらうとしよう。
そんなこんなで始まった話し合いだが、かなり難航していた。
「その、リル殿。同盟の件、確かに大変ありがたい話ですが我が国にも世間体というものがあります。亜人の国との交渉というだけでも他国に敵視されかねないというのに、同盟というのはあまりにも困難です。失礼を承知で申し上げますが、今回のお話はなかったことに、というのはどうでしょうか」
これが約三十分にわたる話し合いの結果だった。まあ、難しいだろうというのは俺もリルもわかっていた話だ。こんな風に言われたところでいたいことは何もない。そう判断して、リルは言葉を返す。
「そうか。それならそれで構わぬ。一国の王として賢明な判断をしたと褒めてやろう」
「あ、ありがとうございます……?」
困惑気味で引きつった笑みを浮かべる国王だが、リルは意に介すこともなく続ける。
「しかし収穫がないと困るのは我らだ。ならばこそもう一つ提案をするとしよう」
「な、なんでしょうか。同盟の件を断ってしまった手前、出来る限りのことはお受けしたいと考えていますが……」
「くすっ」
リルの態度を見て若干仕立てに出始めた国王にたいして、王女が小さく笑った。それが聞こえたのか、国王は今にも頭を抱えそうだ。だが、何とかこらえた様子で、リルに向き直る。
「何、大したことではない。貴公らに二つの選択肢を与えようと思う」
「選択肢、ですか? 内容は?」
「一つ、王女との決闘の許可を出せ」
「なっ!?」
「もちろん命のやり取りを想定した決闘を、だ」
「と、突然何をおっしゃいますか!」
国王は身を乗り出してそう叫んだ。先ほどまでの気弱な態度とは打って変わって、かなり迫力があった。
だがまあ、気持ちはわかる。突然あなたの娘との殺し合いを許可してください、だなんて言われてすぐにどうぞ、とか耐えられる父親が何人存在するだろうか。それは、限りなく少ないだろう。そしてこの国王はそれができない側の多数派の人間のようだ。
「もともと王女とは戦う予定だった。武闘会決勝の後な」
「そ、それは殺し合いを目的としたものではない!命のやり取りだなんて、容認できない!」
「まあ落ち着くがいい。そなたは賢明な判断ができる大人だ」
「っ! そ、それもそうですね。選択肢、とあなたは言いました。もう片方の選択肢を教えてもらえますか?」
リルの言葉で我を取り戻したのか、国王は落ち着いた様子で腰を席に下しなおした。そしてリルにもう一つの選択肢について問うた。
リルは小さく笑みを浮かべると、冷淡な、冷笑を浮かべた表情で言った。
「お前の命を差し出せ、人間」
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