本気の戦い
準決勝第一戦目、カレラ対かな。
期待のツーカードの試合に、会場の熱気は盛り返す。賭け事なども行われているようで、先ほどから観客が騒がしい。と言っても、なんと言っているのかはわからない。俺が賭け事に参加できるんだったらカレラに賭けたのに。絶対当たる自信がある。
というか、決定事項だしな。
そんな暑苦しい会場の真ん中の舞台の上で、カレラとかなが向かい合っていた。お互い笑みを浮かべて、やりき満々の様子。かなは自身が負けなければいけないと分かっていても、本気で戦うつもりでいるようだ。
本気と全力。違いはたぶん、気持ちの問題。
本気っていうのは今出せる力を出し切ること。全力っていうのは本来その人が出せる理論上の戦闘力、って感じだろうか。そういう意味でその二つをとらえるのなら、かなは間違いなく本気だ。精霊の力を使っていないらしく、ステータスは通常時よりかなり低い。俺よりは高いが、それでも圧倒的って程ではない。
今の俺でも
そんな状態で冷徹者を使えたら?負けるとは到底思えない。だが、条件がシビアすぎる。成功したことだってないし、今のままじゃあ成功するとも思えない。やっぱり、本気と全力って格差があると思う。
今の俺が
さて、そろそろ時間のようだ。
「―――――、――――――開始だあぁ!」
何度も聞いた言葉だったからだろうか。司会の最後の言葉を聞き取ることができた。
解析鑑定としんさん、ぐっちょぶ。
そして司会の声が響いたと同時、舞台の上で風が巻き起こる。
おお、どうやらかなは最初から
カレラも、実は笑っていた。司会から一瞬にして消え去ったかなを見て、笑っていたのだ。本来なら、見失ったことで慌てるはずだ。だが、カレラは違った。それだけの力を自分のために使ってくれて嬉しい、とかだろうか。喜びを感じているようだった。
でも、それだけじゃない。
戦闘狂に必要なのは、戦闘を楽しむ感覚だけではない。実力があることが大前提なのだ。
カレラの背後に現れたかなは、すでに蹴りのフォームに移っている。このままいくとカレラが背中を蹴られることになる、と思われたとき。カレラは槍を逆手に持ち替えて背後に突き刺す。
死角から攻撃していたはずだが、かなの今までの戦闘を見てきたからだろうな、しっかり読んでいた。かなは初手、相手の背後をとる癖がある。単純に強いが、一度使うと読まれやすい。指摘はしてやっているが、慣れ切った戦法をそうそう捨てられるものではないらしい。初見の相手には確かに強いからな。
でも、カレラとはここ最近一緒に戦ってきた。その期間でかなの癖を見抜いていたとしても、何ら不思議ではない。
しかしかなも強者。逆手で放たれていたこともあり見てからでも十分に対処できる程度の刺突であったため、素直に回避する。そして距離をとることなく今度は側面から拳を放つ。カレラはまたも槍を持ち換えて、槍の腹で拳を受ける。グオンと鈍い音が響き、カレラの体が少し浮く。それでも踏ん張り、カレラが吹き飛ばされることはなかった。
カレラの槍は特別製だと聞いていたが、かなの拳をまともに受けても傷一つなかった。
それを見て、かなは笑みを深める。楽しめる、そう思ったのだろうな。カレラもまた、そう思われたことが分かっているのだろう。一層楽しそうに笑う。
カレラの槍捌きだが、かなり向上していた。かなの動きに対処して見せる持ち帰の速度。死角からの攻撃にも対処できるコントロール。逆手であれだけ真っすぐ、正確な突きを放てるというだけでかなりすごいだろう。それとなく練習していたのは分かっていたが、やはり上達率が異常だ。
俺の固有能力と同系統の成長速度を上げる固有能力、成長する者を持つカレラだからこそできる芸当だった。そういえば、最近能力使いの効果が実感できない。いや、先ほど解析鑑定の精度が上がったばかりではあるが、そうではなくて戦闘面での戦闘だな。俺自身が積極的に戦闘に参加しているわけではないから仕方がないのかもしれないが、成長が滞るっていうのは嫌な気分だな。
カレラがすごい速度で成長していることが分かってしまうだけ、自分が不甲斐なく思えてくる。
まあ今は俺のことなんてどうでもいい。戦況に戻ると、今度はカレラが攻めていた。
連続の刺突でかなの行動をうまく制限していた。かなが一歩ステップを踏むたび、踏み込みすぎず間合いのぎりぎりにかなをとらえ続けられるようにカレラもうまい具合にステップを踏む。かなが後方に跳べば着地隙を狙って刺突。横に避ければ薙ぎ払い。
相手の攻撃する隙を与えない、まさに攻撃は最大の防御状態だった。かなにも余裕はありそうだが、カレラの戦略通り攻撃する隙は無いらしい。カレラの槍は特別製、というだけありかなの肉体に傷をつけるくらいの性能はある。先ほどあから腕や頬あたりにかすり傷がついて来ているし、カレラの槍の扱いのうまさが伝わってくるな。
かなも人並みの知能に目覚めてからまだ数か月。体の扱いになれてないとはいえ幾度も死線を潜り抜けてきた強者だ。感覚だけで動いてはいるが、それも才能。強者たちを下してきたそのセンスに対してまともに戦えているカレラもまた、才能の持ち主なのだ。
戦闘はさらに激化する。
槍の連撃を抜け出したかなが不規則にフェイントをかけながら距離を詰める。カレラの側面でい瞬動きを止め、続いて背後に回り込む。
集中力が切れてきたからか、かなのフェイントに対応できなかったカレラは横に向かって槍を振っていたため、背後からの攻撃に対応できない。これは当たったか?と思われたとき、かなの足元に魔法陣が浮かび上がる。
「
魔術・火Ⅲ、ブレイズ。円形範囲焼却魔法。限定的な一定範囲を高火力で熱する魔法だ。魔法陣の輝きが増し、火柱が天に上る。炎に包まれたかなは、攻撃を続行することはできず、炎の中から慌てて飛び出す。頬に少しやけどを負ったようだが、外相はほぼない。少し吸い込んでしまったのだろう。小さく煙を吐くと、再び拳を構える。
カレラもかなに向き直り、槍を構える。
再び膠着状態か?と思っていると、カレラが先に動いた。
「
斜めにクロスされた炎がカレラの手から放たれる。交わる炎の攻撃範囲は半径二メートルほど。かなであれば容易に避けられるが、かなはあえて直進する。地面を滑りながら進む交差する炎の空いている下の部分を滑りながら通り抜ける。
直後、クロスフレイムのサイドでブレイズが発動する。あらかじめ仕込んだ時限式魔法だろうか。どこでそんな技術を覚えたのか聞きてみたいがまあいい。恐らく、クロスフレイムを横に避けたら当たるようにしかけておいたのだろう。
それをかなは直感だけで躱したわけだ。だが、もちろんかなのそんな行動もカレラの予想の範囲内だったのだろう。すかさず距離を詰めて態勢の崩れているかなに突きを放つ。
かなは半身になって躱すと、槍の腹を軽く押す。槍につられてバランスを崩したカレラに対して、拳を放つ。
先ほどの試合で俺が使った技術だな。かなは今まであんなことをしたことはなかった。だからこそカレラも予想できなかったのだろうな。まともにかなの拳を受けてしまう。数メートル近く後方に吹き飛び、数回地面にぶつかり、跳ねる。しばらく滑ったのち、砂煙の中でカレラは起き上がる。
どうやら、まだまだ闘志を失ってはいないらしい。
不死鳥の発動はまだだ。残り生命力は五分の三ほど。あと数回攻撃を受ければ発動すれば、もちろん攻撃を受け続けることにはリスクがある。不死鳥の発動を意図的に狙うのは、難しいと思われた。
だが、やっぱりカレラは笑っていた。読みを押し付けるつもりでそれを躱されたのもかかわらず、その口元は弧を描いていた。やっぱり、あいつらは戦闘狂だ。
二人の少女の
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