武闘会二日目

「さて、武闘会二日目が始まりました! 早速、第一試合、スタートだぁ!」


 無事に迎えた武闘会二日目。始まりのアナウンスも早々に、早速本日第一試合が始まろうとしていた。

対戦するのはかなと……誰か。俺はてっきり昨日の第一試合と第二試合の勝者が戦うものだと思っていたのだがそうではなかったのだ。どうやら二日目の試合は一日目の勝者をくじで引いた組み合わせで戦わせる、というものらしい。

 そのため見たこともないような選手とかなが対戦することになってしまった。いや、どちらでもよかったが。

 本日の試合は全部で十六試合。昨日から引き続きハードスケジュールが過ぎる気がするが、俺の知ったことではない。武闘会の規模が大きいとはいえ、長引けば長引くほど問題が発生してしまうのだという。それはそうだろうなと思うものの、もう少しくらいゆとりがあってもいいと思う。


 さて、そんなことを考えている間に始まっていたかなの試合は、すでに終わっていた。

 まあ、知ってた。俺が舞台に意識を向けると、そこには倒れ伏す男と右手を掲げるかかなの姿が。アナウンスの勝利宣言も入り、第一試合の幕が閉じた。


 始まった第二試合。そこには見覚えのある人物が登場していた。と言っても見覚えがあるだけでだれなのかはわからない。

 かなり強靭なムキムキの肉体を持つ強面のおっちゃんなんだが、どこであったっけ……。あ、思い出した。武闘会開催の前にリルに絡んできたやつだ。ただの人間にしてはそれなりに強かったと記憶しているがその実力はいかほどか。少し気になってしまって最後まで見てしまったぞ。

 だが、見ごたえは全くなかった。相手の剣士とひたすら地味な削り合いをした後、大きく斧を振るって相手の剣をはじき、そのまま場外に飛ばした。すかさず筋肉男が追撃を仕掛けようとしたが審判の判定勝ちで結局筋肉男の勝ちで終わった。

 最後までパッとしない試合だった。これが普通なのだろうか。こいつがリルと戦うことになったら、と考えるともはや可哀想に思えてきた。武闘会の入り口には人だかりがあったし開催前だからリルが自重してくれたが、もし普通に相まみえることになったら奴の命は三回くらい失われるだろう。何度死んでもルナとかなの魔法で復活させられて永遠の苦しみを味合わされる、とかありそうだ。

 ただの人間相手であろうとも、リルはそれくらいしそうだ。


 次の第三試合には我らがルナさんが参加した。まあ、結果は言わなくてもわかるだろう。本当に圧倒的だった。どれくらい圧倒的かっていうと、始まって一秒で相手の体が静かに崩れ落ちるくらいかな。実際、そうなった。どうやったかは分からないが開始と同時にその場から姿を消し、気付いたらルナの対戦相手が倒れていて、さらに気付いたらルナが舞台を降りるところだったのだ。もう何が何だかわからない。 

 もう力を隠していないような気がしてしまうのは俺だけだろうか。


「ルナ女史、やりすぎではないか? それでは負ける言い訳を作るのが難しくなる」

「問題ないかの。わざと相手の剣先で動きを止めて、見切られた、と言って自主退場するかの」

「……それでいいならいいのだが」


 相も変わらずルナはルナだった。もう誰がこいつに勝てるのかわからないよ。リリアがどのくらい強いのかはわからないが、最初に出会った、リリアは化け物、って考えが薄れてきているな。だって仕方ないだろう? スキルやステータスで言ったらリリアですら見劣りするのだから。

 で、だ。カレラの番になった。第七試合、対戦相手は大盾使い。どっしりとした鋼鉄の二メートル近くありそうな盾と、全身鎧を着込んだ重戦士。盾を持つのとは反対側の手には剣を持っているし、ウォーリアーの実態を持った版、みたいに考えればわかりやすい。

 そんな相手に立ち向かうには、カレラの装備は少々軽装に見える。だが、もちろんカレラは本気だ。正直言って、相性は絶望的に悪い。小回りとリーチで数を稼ぐのが強い槍の攻撃のことごとくを防いでしまいそうな鉄壁を攻略できるビジョンは、カレラになりきった俺では見えてこなかった。

 もちろん、魔法も使った全力の戦闘ならば俺が負けることはない。防御力は大したことがないし、魔法耐性も低い。氷魔法を遠距離で連発しているだけで勝手に凍死してくれそうだ。だが、カレラの場合はそうもいかない。


 カレラの魔術・火のレベルでは一発一発の威力はそこまで高くならないだろうし、魔力の量もたかが知れている。唯一切り札と言えそうなのは不死鳥だけだろうが、それでどうこうできるのかどうかもわからない。

 今回の相手もまた、ステータスはともかくレベルはカレラが負けている。経験の量がものを言う、というのはかなり信憑性が高いもので、今回みたいに相性が悪い相手だととくに自分の長所をどうやったら生かせるか、を理解されているかいないかで有利不利が大きく変動する。

 相手のレベルは34。かなり高位でこの国でもトップに値するだけのレベルだと思うのだが、普通の人間でそれくらいのレベルを持っていればかなりの経験を積んでいるのだろう。槍使いの相手の仕方も、十分心得ている可能性が高かった。

 カレラだってそれは理解しているだろう。しかし、分かっているからと言って勝てるわけではなく、それどころか俺の考察では負ける可能性の方が断然高い。俺だってそれなりに戦闘は見てきたし、カレラの実力も把握している。相手の実力はあくまで解析鑑定の結果頼りだが、ある程度は分かる。もしステータスやレベルを数値化することができるのなら、相手の方がカレラよりも二割ほど強そうに見える。相性も考慮すればもっと差が開くかもしれない。


 まあだが、だからと言って棄権を促すことはしないし、応援することをやめはしない。やっぱりさ、勝てなそうな相手に勝つって、格好いいと思うんだよな。カレラの奥の手、不死鳥。使うか使わないかは分からないが、それがキーとなって逆転勝利、とか、最高に格好いいと思う。

 ぜひともそんな戦いが見てみたいね。

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