司の体
「計画は順調か?」
「はい。予想通り武闘会には大勢の観客が集まっています。明日以降の試合ではこの倍以上を期待していもいいかと」
「そうですか。それは素晴らしい。我々の悲願が達成される日も近いのですね」
「ここで王族の始末もできてしまえば、脅威は格段に小さくなる」
「オレアスの王族には亜人たちの相手もしてもらいたいですが……それはサキュラに任せましょう」
「そちらは我々にお任せください。サキュラの目を亜人の国に向けさせる計画は既に進んでいますので」
「そうかそうか。ならば良い。計画の成功を祈るよ。邪神様のために」
「「邪神様のために」」
――
――――
――――――
(なあリル、こんなことしていていいのか?)
(ああ、どうせ司殿の試合は二時間ほど後だ。それに、これは司殿が言い出したことだぞ?)
(それは……まあそうか。いや、でもリルも乗り気だっただろ)
(そんなことはないぞ?)
絶対に乗り気だっただろう、俺はそう思った。
俺がいるのは武闘会の会場の外側、訓練場だ。何をしに来たか、それを説明するには十分ほど遡る必要がある。
時は遡りカレラの試合の後。見事に勝利を掴んだカレラはテンションが上がったからか唐突な質問を投げかけてきた。
「そう言えば、司さん? とリルさんが同じ体に入っているんですよね? 司さんという人は、どんな人なのですか? 私、会ってみたいです」
白竜との戦闘の時に言った俺の体は二重人格みたいなもの、という言葉について言っているのだろう。リルと俺がこの体に同居している、というのはその通りだが……。
「やろうと思えばできるのだろうが、現状言葉を話すことができなくてな」
「そうなのですか? でも、どうして?」
「なんと言えばよいのか……そうだな。我と同居している司殿は言葉が話せぬ呪いにかかっている、とでもいうのだろうか」
「なるほど……」
俺には喋る権利がないだけだが、確かにこの世界の人々から見てみれば呪いともとれるわけか。
「でしたらその呪いを解けばいいのでは?」
「うーん、それができないから困っているのだ……我も司殿にはこの体で頑張ってほしいと思っているのだが……」
「そうですよね……司殿にかけられた呪いは司殿の精神に直接かけられているのですか? でしたら、その呪いの対象を一度リルさんに移すとか、そういうことはできないのですかね?」
ん? もしかしてそれならできるんじゃね? いや、少し違うがリルが憑依した状態で俺の自我を表に出せれば、俺も喋れるのではないだろうか。
(司殿、どう思う?)
(できると思うし、俺はやってみたい)
(我も試してみたいな。そうすれば、我が疲れる対人対応をする必要がなくなる)
(結局はそういう理由かよ……)
リルはリルだなと思った。
「おお、その発想はなかったな。それならばできるかもしれない。さっそく試してみようと思う」
「え? 今からですか?」
そういうわけで、俺達は今闘技場近くの訓練場にいる。
(さて、早速だが体の操作権の入れ替えを試みる。我なりに考察したが、恐らく我の魂を含め能力の上がったこの体を操作できるだけの力を司殿の魂が得れば可能になる、のだと思う)
(まあそんな感じだろうな。でも精神強化は最大まで鍛えてあるからな……それ以上の精神を強化する方法は分からないが……)
(この体の状態で冷徹者を発動できれば、可能になるのではないだろうか)
(ああ、冷徹者は精神強化から生まれたスキルだし、いい線行くかもな。でも、冷徹者って任意で発動できるわけじゃないんだよな)
(そうだったな。ならば……我の魔術・精神でコントロールしてみるか?)
(いいなそれ、試してみよう)
しばらくの話し合いの後、リルの魔法を試してみることになった。
「《スピリチュアル・コントロール》」
精神体の活動をコントロールする魔法。俺の精神を弱くするのではなく、リルの精神の影響力を弱くすればよいのではないだろうか。そういうことで、リルの精神体の活動を不活発化させてみることにした。
(……)
(……)
(……)
(出来ないな)
(そうだな)
「《スピリチュアル・コントロール》」
今度は俺の精神体の活動を活発化させてみる。
(……)
(……)
(……)
(……)
(……)
(まあ、知ってた)
(そうだな)
駄目だった。
(まあ、我と司殿とでは精神の強さに差がありすぎるからな)
(ステータスで一目瞭然だよな)
(そうなると、もしこの体の操作権を司殿に移せたとしても、今の状態の半分未満の力しか出せなさそうだな)
(いやまあ、それでも十分人間界では強いと思うけどな)
リルのステータスの二割って言えば超人である俺のステータスと大差ない。いや、むしろ負けているかもしれない。そう考えれば十分強いよな。
(それもそうか。……だが、このままでは進展がなさそうだな。いったん保留にして戻るか?)
(そうだな。何らかのスキルを手に入れるか、スキルを強化するかして有用そうなものを手に入れてからもう一度試してみるか)
(そうだな。では一旦帰るとするか)
そういうわけで、結局起きらめて闘技場に帰るのだった。
闘技場の選手待機場所に戻ると、カレラとルナが楽し気に会話していた。かなはかなで、床に座って休んでいるようだ。
「あ、帰ってきましたね。次の次にはリルさんの番ですよ」
「進展はあったのかの?」
リルに気づいた二人は、そんな言葉で迎えてくれた。
「いや、駄目だ。特に進展はなかった。それより、ルナ女史の相手はどうだった?」
「瞬殺だったかの。一直線に間合いを詰めたのに、全く反応できていなかったのかの」
「それはそうだろうな。ルナ女史の動きについていける人間などいないだろうからな」
それには俺も賛成だ。
「勝者は――」
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
その時、闘技場の中の方で声が響いた。
「あ、どうやら終わったみたいですね。ここまでの試合の一つ一つが短すぎて予定よりかなり早く進行しているみたいです」
「だな。まあ、どれくらい早くなろうと変わらないけどな」
「ですね。……では、今日の試合はリルさんの対戦が最後ですし、帰り支度でもしておきますか」
「そうするかの」
「そうしておくがいい」
そんなこんなで、その次の試合も十分ほどで決着がついたらしく、ついにリルの番となった。
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