カレラVSヨハネ
「それでは本戦第二試合。王国騎士団所属、カレラ・ルーグ・オレアス対傭兵団汐翼団長、ヨハネの対戦です」
カレラの相手はこのオレアスでもそこそこ大きな傭兵団の団長であるらしい。対戦相手を調べたりはしていなかったためどのような戦い方をするのかはわからないが、それなりに風格のある男だ。
かなり若く、二十代やそこらだろうか。俺が好んでいる長剣と同じくらいの長さの剣を下げており、それなりに重装備のようだ。
解析鑑定で見てみたところ、ステータスは冒険者ギルドで俺たちの試験を受け持ったキーレといい勝負だった。冒険者ランクで表せばA級ということだろう。そうなると、カレラが勝てるかどうかぎりぎりの相手になるということだ。
対するカレラは愛用する槍を片手に、緊張の面持ちで舞台に上がる。その向かいにいるヨハネを見据え、覚悟を固めているようだ。静かに深呼吸をして、心を落ち着けている。まあ、誰かと戦う前には必要なことだな。
「それでは、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
俺達がいる闘技場下の待機場所にぎりぎり聞こえるくらいの声量であいさつを交わした二人は、それぞれの得物を抜いた。
「それでは、始め!」
司会の声が会場中に響くと同時、二人は駆け出した。
先に仕掛けたのはカレラ。ヨハネは長剣だが、カレラの槍の方がリーチは長い。小手調べのような横なぎを上段に振るう。
ヨハネは長剣の腹で槍を防ぎ、その槍を振り払ったのち突きを放つ。
カレラは吹き飛ばされた槍に一瞬体勢を崩されるが、すぐにバックステップで距離をとり、牽制の一突きを見舞う。その攻撃はヨハネの肩に当たるが、防具を着ているうえにカレラはほとんど力を込められていなかったので大したダメージとはならない。
さらに一歩踏み込んだヨハネが右から左へと長剣を一閃させる。距離をとり切れていなかったカレラは槍の柄の部分で受け流しつつ、勢いを殺して後ろに飛び退る。さらに一歩二歩と下がり、十分な距離が開いたのちさん連撃の突きを放つ。
「《トリプル・ストライク》」
トリプル・ストライク。槍術Ⅰで使える技で、その名の通り三回の鋭い突きを連続して放つというものだ。槍術Ⅷにその上位互換にあたるサイクロン・ラッシュがあるが、あれは魔力の消費量が多い上に使いこなすのが難しい。と言っても、そもそもカレラの槍術はⅥなのだが。
ここらで改めてカレラのステータスを確認しておこうと思う。
種族:人類・超人
名前:カレラ・ルーグ・オレアス:
レベル:12
生命力:176/176 攻撃力:259 防御力:122 魔力:581/581
状態:正常
スキル:魔術・火Ⅹ、魔術・風Ⅱ、魔術・土Ⅱ、魔術・水Ⅱ、魔術・治癒Ⅰ、体術Ⅲ、槍術Ⅵ、剣術Ⅱ、宮廷作法Ⅳ、物理攻撃耐性Ⅰ、魔法耐性Ⅱ、状態異常耐性Ⅰ、魔力自動回復Ⅱ、不死鳥
権利:基本的生存権、魔術使用の権利、自己防衛の権利、自己回復の権利
目と見はるのは固有能力である成長する者と、スキルにある不死鳥だな。
成長する者は俺の固有能力の技術版、と言ったところだろうか。俺の固有能力である能力使いはスキルの成長速度が上がる、というものだが、カレラの成長する者は本人の技量の上達を早めるものだ。どちらも本質的にはさほど変わらないため、俺の能力使いと同じでかなり便利だと思われる。
まあ、カレラがその固有能力の存在に気づいているのかはわからないが。
この世界の人間たちはスキルという概念はある程度分かっているのだろうが、権利や固有能力という存在を理解しているのだろうか。きっと、珍しい権利や固有能力を持って生まれたものは奇跡の子だとか言われ、さほど目立たない固有能力を持って生まれたものは才能がある、とかで終わらせられるんだろなと思う。
カレラの場合実感しにくい固有能力だし、多分気付いていないのだと思う。だが、もう一つの不死鳥についてはよくわからないな。
《不死鳥:生命力が半分未満になった時、生命力が1になり状態がフェニックスとなる》
《フェニックス:常に魔力を消費するようになり、魔力がなくなるまで生命力が減らなくなる。火属性の攻撃の威力が上がる。身体能力が上昇する》
不死鳥というスキルは、その名の通り発動したら不死になるというものだ。と言ってもかなり制限がかかっているようだがな。
しかしその内容は強力で、一対一において絶対的な性能を誇るともいえるだろう。フェニックスという状態でどのくらいの強化が起るのかはわからないが、俺単体とならいい勝負をしてしまうかもしれない。まあ、俺も冷徹者を発動すれば多分余裕だけだけど。
そんなスキルの能力を見てみたい、と思っていたのだが……どうやらそれは叶わなかったようだ。いや、発動条件がかなりシビアだし、最悪カレラが瀕死になってしまうので発動しないで終わるのならそれが一番だが。
戦況が動いたのは試合が始まってから十分ほどが経ってから。二人とも丁寧な立ち回りをしているため接戦を繰り広げており、観客からの熱狂も冷めてき始めてきたころ。ヨハネが仕掛けた。
ここまでの戦闘でじわじわとだがダメージを負っていたのはヨハネだ。やはりリーチの差というのは厳しいものがあるらしく、少しずつだがカレラの攻撃がヨハネに当たるようになっていた。かれこれ十数回にわたる攻撃をその身に受けたことで、ヨハネの生命力は半分を下回った。
生命力の怖いところは外傷などなくとも予想以上に減ってしまうことだ。例えばかすり傷一つなくても、生命力が0になってしまえば生き物は死ぬ。これは体の耐久性の上限を上回ったことにより身体が活動限界を迎えたことによる死、と定義されているらしいが、重要なのはそこではない。
生命力と言えばいわば生きる力。本来ならば、人間のような弱い種族は生命力が三分の一を下回ると身動き一つとれないとされている。俺やカレラのように超人になれば話は別だし、超高レベルになって生命力の数値が三分の一を下回っても百以上残るのならばその限りではないようだが、ヨハネのように普通の人間ならば生命力が半分を下回った時点で倒れてもおかしくないのだ。
それでも堪えられているのはプライドからか、はたまた鍛えられた精神からか。これまでの戦闘で何度も叩きのめされたことにより体が強くなっていたか……。どうだったとしても、褒められてしかるべきことだと言える。
それでも諦めないその意気は素晴らしく、カレラに向かって行くその姿は英雄にすら見えた。
自分でも追い詰められていると分かっているのだろう。歯を食いしばり、全身こわばる中それを悟られないよう自然体で、それでいて鋭く早い一突きをカレラに向けたのだ。
しかして結果は、カレラの勝利に終わった。
ヨハネの踏み込みは深く、しっかりと間合いにカレラをとらえていた。槍の柄で受けようとしても受けきれないほどの力が込められていた。だが、ヨハネは負けたのだ。
この戦闘の中で、確実にカレラは成長していた。相手の動きを、自分の動きを。相手の強みを、自分の弱みを。それらを正確に理解し、把握し、嚙み砕いて飲み込み、技術として取り入れた。それにより、この鋭い突きに反応することができた。
ヨハネが踏み込んできたのは槍の間合いの内側だ。ここまで入り込まれれば槍では対処が難しく、槍使いが最も気を付けなければならないことの一つのはずだ。だが、相手の捨て身の攻撃に対処しきれず、それを許してしまった。しかし、そこから場面を覆らせるだけの技術を、実力を、今のカレラは身に着けていた。
「《ライナーカット》」
ヨハネの捨て身の攻撃、どんな態勢からでも放たれる突き。キーレとの戦闘で一度経験していたその攻撃。成長する者の効果か、それともカレラの才能か。カレラは見事に対処した。
ヨハネの視界からカレラの姿が消える。
「っ!?」
驚きに目を見開くヨハネの体は長剣とともに前に投げ出される。そんなヨハネの体は、次の瞬間には宙を舞っていた。
「なっ……」
ヨハネが足元に視線を移すと、そこには身を低くしたカレラが映った。足を払われた、そうヨハネが理解するには十分な光景だった。
咄嗟に受け身をとり、瞬時に起き上がったヨハネだったが、その頃にはその首元に槍の先がつきつけられていた。
「勝者、カレラ・ルーグ・オレアスだぁ!」
「「「うおおおおぉッ!!」」」
視界の勝者宣言にどっと歓声が沸き起こり、その熱気が会場を埋め尽くす。十数分にわたるその戦いは、そうして幕を閉じたのだった。
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