悪魔

 嫌な予感とは当たるもので、それが現れた時も一瞬驚きはしたものの予想外というわけではなかった。


種族:精神生命体・最上位悪魔

名前:ベルゼビュート:固有権能驕る者:何者にも気圧されることが無くなる

レベル:71

生命力:8019/8019 攻撃力:10918 防御力:9017 魔力:9987/9987

状態:正常

スキル:魔術・闇Ⅵ、魔術・地獄Ⅹ、高速飛翔Ⅹ、自然治癒Ⅹ、魔力自動回復Ⅹ、物理攻撃耐性Ⅹ、魔法耐性Ⅹ、状態異常耐性Ⅹ、精神攻撃耐性Ⅹ、悪食、地獄門

権利:基本的生物権、自己防衛の権利、自己回復の権利、魔術使用の権利

称号:殺戮者、地獄の王


《悪食:自身の放った魔力に触れたものを吸収する。スキルの吸収、及び魔力、生命力の回復》

《地獄門:地獄への門を開く。そこから眷属を呼び出すことも可能》

《地獄の王:最上位悪魔に与えられる。地獄属性を持つ者に対する絶対支配権》


 なるほど、こいつがすべての元凶らしい。身長二メートルほどの、黒色のスーツを着こなす強面野郎は大きな羽をはばたかせて十メートルほど上から俺たちを見下ろしていた。

 左翼の集団から黒い霧が漏れ出したかと思ったら、一瞬で戦線を抜け出していたルナを除いたすべての生物がこいつに取り込まれていた。そして次に俺たちに目を付けたらしく、こちらに移動してくる。

 蝙蝠のような羽、真っ黒な肌、漏れ出る大量の魔力。種族名に恥じぬ最上位悪魔であることは間違いないだろう。漆黒の長い爪や尻尾も異形であることを際立たせている。その証拠に、先ほどまで士気の高かったリルについて来ていた兵士たちが戦意を喪失していた。


 まあ、以前までの俺ならば相手のステータスを見た時点で降参していただろう。平均ステータス9000ってなんだ! って叫んでいただろう。だがな、待ってほしい。今この場にはルナという頼もしい存在がいるのだ。最悪の場合でも死ぬことはない。

 それに精霊が強くなったおかげで実質的に強化されたかなもいるし、俺の体を操っているのは天災級の魔獣、フェンリルである。負ける要素が見当たらない。

 しいて言うのなら本気を見られてはいけない、というものがあるが問題外だな。


 どうせ、この場にいる者たちはすぐに殺されるだろうから。


「人の子よ、邪魔をするのなら死んでもらうぞ」


 悪魔の声が当たりに響く。低くて遠くまで聞こえるいい声だと思う。

 そしてそんな言葉と同時に先ほども見た黒い霧が悪魔から勢いよく噴き出してくる。リルは瞬発的にその場から離れたが、他の者たちは何が起こったのかわからぬままに霧に包まれていった。気配察知の感触的に全員死んでいる。

 恐らく悪魔の持っていたスキル、悪食の効果だろう。あのどす黒い霧のようなものがあいつの魔力で、触れたものを吸収しているのだ。確かに強力なスキルだが、まあ俺達ならば見てからでも避けられるくらいの速度だ。それに常時放っているわけではないところを見るに、発動条件がそれなりに厳しいのだと思われる。危険視する必要はないな。


 リルが悪魔から数十メートルの距離をとったところで改めて戦況の確認をする。

 左翼と中央は全滅、右翼はいまだ悪魔たちと戦闘中。他に残っているのは領主たちがいる外壁のすぐ近くの最終防衛ラインに数十人。俺が取り逃がした悪魔から領民を守るための部隊だが、まあ戦力にはなりえないだろう。そもそも、この悪魔は人数がいくらいようとただの人間が勝てる相手ではない。

 今は周りとは様子の違うリルに気を取られているようだがやろうと思えばすぐにでも街を崩壊させられるくらいの力は持っていそうだ。特に地獄門には気を付ける必要があるな。いくら弱いとはいえ悪魔の増援を許してしまうのは面白くない。少し強い悪魔が街に一体向かっただけで全滅しかねないくらいに人間は弱いのだから。


「邪魔をするなら殺す、といったか? やれるものならやってみるといい。まあ、貴様程度では到底不可能だがな」


リ ルは相手をあざ笑うようにして挑発する。悪魔は単純なのかリルのその言葉に分かりやすく顔をしかめる。かなり安い挑発に乗るものだ。まあ、最初から予想はしていたがこの悪魔は――


「まあまあ、いったん落ち着くかの。どうせなら妾も混ぜてほしいかの」

「っふ、よいぞ。手柄は山分けか?」

「妾があとから来たのだから二、八でいいかの」

「おお、それは太っ腹なことだな」


 悪魔がリルを睨む中、飄々とした態度でルナがリルに向かって歩み寄る。さらに喧嘩を売るような発言を連発するリルたちに悪魔はとうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。いや、そこまで我慢している感じではなかったが。


――――――ヘルフレイム―――――・ブラスト


 悪魔がこちらに掌を向け、そこから黒い炎を勢いよく飛ばしてきた。進むにつれてその勢いを増す炎を、二人は難なく躱す黒い炎は地面に着弾するとともに弾けてあたりを燃やすが、荒れ地であり草がないため燃え広がることもなくその場で消えた。

 その様子を見ていた悪魔はさらに顔を怒りにゆがめる。どうやら相当ご立腹らしい。


 幾度となくヘルフレイム・ブラストを発動し、リルたちめがけて投げ続けた。

 それを、俺は少しだけ残念に感じた。もしかしたらリルやルナの本気の戦闘が見れる、と思っていたのだが、この相手では無理そうだ。だってこの悪魔、明らかに生まれて間もないのだから。

 悪魔というのは生まれた時に持っている魔力量で初期レベルが決まるらしい。そのため生まれてすぐの状態でもレベルが70を超えていたりする。だからレベルの割に弱い、なんてことはよくあるそうだ。

 そして、この悪魔もまたそのタイプだろう。それこそ、一週間くらい前に生まれたのではないだろうか。そして生まれた時には持っていた地獄門を使って悪魔の軍勢を呼び出し、デモンパレードが発生した。それが今回の突発的なデモンパレードの原因なのではないか。俺はそう考えているわけだ。


 で、だ。そんな相手に苦戦するリルたちではない。放たれる魔法のことごとくを躱し、まるで弄ぶかのように悪魔の周りを飛びまわり、悪魔を混乱させている。徐々に焦り始めた悪魔は魔法の撃ち方が大雑把になり始め、さらに当たらなくなる。それがもっと悪魔の気を苛立たせ、その落ち着きを奪っていく。それを十分も続けていれば、悪魔の魔力が底を尽きるのも必然と言える。

 やがて、悪魔が魔法を撃つのをやめた。魔力切れとなったためだ。魔力枯渇状態となるのを避けるためか、完全に0というわけではないが。その程度の知識だけはあるらしい。

 そして、身の危険を感じたのか、悪魔は右翼へと飛び立った。目的は簡単に予想できる。きっと、残った悪魔や兵士たちを悪食の糧にするつもりなのだ。そうすれば魔力は回復するからな。そして、俺たちはそれを止めるつもりはない。なぜならその必要がないからである。


 何度でも確認するが、俺たちにとって味方の人間が減るということは好都合なのである。戦争前に大幅に戦力を削ることができる上に、目立つきっかけとなる目撃者を減らすことができるからだ。これにより疑われるリスクが減り、より安全に諜報活動に取り組めるようになる。それがどれだけ重要なことか、今の俺ではよくわからない。だが、少なくともリリアのためにつながるということはわかる。

 だから、リルの言う通りに動くし、リルの言うことは正しいと思う。あいつは、決していい加減なことは言わないやつだからな。


 そんなことを考えているうちに、悪魔は右翼に到着した。そしてその場でかなりの数の悪魔と兵士を悪食で食らい、魔力を回復したようだ。だが、そのおかげてかなもフリーになった。


では、ボス戦へと突入といきますか。

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