リル
影狼のステータスに、変化があった。
種族:魔獣・影狼
名前:なし
レベル:1
生命力:生命力:1293/1293 攻撃力:2131 防御力:1928 魔力:7912/7912
状態:憑依・フェンリル、制約・服従
スキル:、魔術・空間Ⅵ、魔術・精神Ⅲ、魔牙Ⅸ、魔爪Ⅷ、眷属支配、眷属召喚、自然治癒Ⅰ、魔力感知、気配察知、陽炎、影分身、影武者、闇世界門、影潜伏
権利:基本的生物権
称号:殺戮者、狼王
これは、どういうことだ? フェンリルの力の大半を新たに得ている。ステータスのほとんどはフェンリルほどではないが強力になり、魔力に至ってはフェンリル以上の値となっている。
星銀の剣の魔力も吸収したためだろうか。単純計算、というわけではないので相乗効果でもっと増えていると考えていいだろう。そうなると他のステータスが低すぎる気がするが、肉体やレベルの上限、というものがあるのかもしれない。しかし、レベル1でこれだけの強さがあるのだったらそれだけで十分だ。ここからレベルアップすればもっと強くなる、ということなのだから。
それこそ、いわゆる天災級の魔物にだってすぐになれるだろう。
そして、何よりも気になるのが――
(こいつ、フェンリルに憑依されてやがる。それに、俺に服従している?)
――状態の欄だった。
憑依・フェンリルと制約・服従。しかもしんさん曰くその服従している主として俺が指定されているそうだ。本当にどういうことだ? しかし、まあ考えてもわからないことは聞くのが一番だろう。制約・服従は制約・隷属と同じく相互念話が可能とのことなので、早速試してみる。
(あ、あー、フェンリル?)
(……ふむ、これが制約による念話か。勝手がわからないな)
(え、えっと?)
(ん? ああ、すまぬ。我もまだこの体に慣れなくてな。しばし待たれよ)
(わ、わかった……)
念話で伝わってくる声はフェンリルのものと同じだ。というか、魔力感知で感じる魔力からして、本人で間違いない。憑依・フェンリルというのは先ほど倒したフェンリルがこの影狼に乗り移っている、ということで間違いないらしい。だとしたら恐ろしいとも思えるが、制約・服従があるので簡単には裏切れない。というか、滅多なことがない限り危害を加えてきたりはできないだろう。だから安心していいはずだ。
フェンリルは体の具合を把握しようとしているのか、伸びたり少し歩いたり首をひねったりしている。急に体のサイズが小さくなり、さらに身体能力まで落ちたのだから慣れるには時間がかかるだろな。
そう思った俺はその間にかなにこの影狼についての説明を行う。
(なるほど……じゃあ、強い?)
(ああ、とんでもなく強い。今のままのかなじゃ多分勝てないだろうな)
(むう、それだとかながいる意味が無くなっちゃう)
かなは脳内にそう語りかけてくると不満そうに頬を膨らませる。
(かなはいるだけで癒しだから大丈夫だよ)
もとより愛玩動物だしな。そう思っての発言だったがどうやら納得がいかないらしい。
(かなはもっと強くなって、こんな奴ぼこぼこにするから!)
(はは、かなは頼もしいな。頑張ってくれよ?)
(うん、頑張る)
ただでさえ強いのに、さらに気合を入れてしまったようだ。まあ、強くて困ることはないというのは今回の件で痛いほどわかったので、これからももっと頑張ってもらうとしよう。そんなことを言ったら俺はもっと強くならなくてはいけないのだが……。まあ、そこらへんは気長に行こうと思う。これまでの経験上、人間のステータスでは限界があるらしいから。
どうしたってフェンリルやかなのような強さにはなれない。だから諦めるってわけではないが、ただただがむしゃらに強くなろうとしても前進しないと思う。他に効率のいい方法がないか探すのが今の目標だな。
(うむ、この程度でよいか。では、改めて説明させてもらおう)
(あ、ああ……頼んだ……)
服従しているくせにやけに態度が大きいな……。
(我は知っての通りフェンリルだ。死んでもいいように憑依体を用意しておいた。狼王の水晶が我の魔力を吸収してこの憑依体が取り込むことで憑依しているのだ。しかし、狼王の水晶には欠点があってな。誰かしらに魔力を籠めてもらわねば発動できないのだ。それにその魔力をこの体が取り込んでしまうので制約が自動的に結ばれてしまう。そういうわけなので我はお前に服従したというわけだ)
(な、なるほど……)
一応理解できた。あの水晶はフェンリルが影狼に憑依するためのもので、それを使われると復活できるけど服従させられる、ということ。それで俺の魔力を取り込んだための俺に服従した、と。
しかし、潔いものだ。何の抵抗もなく服従してしまうとは。
(もちろん、服従する相手が誰でもいいわけではない。だからこのダンジョンの最奥に置いたのだ。我を倒したものなら主として不足なし、というわけだ。これから共に歩ませてもらうぞ、司殿)
(お、おう……あと、こいつはかなだ。仲良くしてやってくれ)
(わかっている。仲間として仲良くやらせてもらう)
(頼んだぞ? くれぐれも仲良くな?)
先ほどまで殺し合っていた仲なので心配だが、まあ信用してもいいだろう。
フェンリルが仲間になることをかなにも説明すると目を輝かせた。
(じゃあ、いっぱい練習できる。絶対に勝つ!)
(お、それはいいな。フェンリルとは念話で喋れるだろ? お互い使えるし。仲良くしろよな)
(わかった)
それからしばらく放置してみたが、関係は至って良好そうだ。拳に力を込めてかなが腕を突き上げてから、フェンリルが改めてこちらに向き直る。かなの交渉がうまくいったようだな。
(では司殿、出来れば我に名を授けてくれぬか?)
(名前? ……ああ、そっか。制約上位者の俺なら名付けができるのか)
(そうだ。そして我に名前をくれれば固有権能を扱えるようになり、より強力な存在なれる。どうだ?)
(まあ、それくらいならいいが、俺が考えていいのか?)
(なんだっていいぞ。今よりもわずかでも強くなれるのなら変わった名でも気にせん)
(わかった。じゃあ少し考えるから待っていてくれ)
フェンリルはああ言っているが、名前なんていつ変えられるかわからないし、何度も呼ばれるだろうからちゃんとしたものをつけてやりたいな。でも、俺のネーミングセンスは決して良くないからなぁ……。うーん、じゃあ
(リルってのはどうだ? フェンリルのリルだ)
(なんだって構わぬと言っている。では、今より我の名はリルだ。よろしく頼む)
(ああ、よろしくな)
ひとまず嫌がってはいなさそうだしいいとするか。
(かなも、こいつは今からリルっていうから、覚えておけ)
(わかった。覚えた)
(早いな)
いや、たった二文字だし覚えるのは難しくなんてないけど。
(そうだ、リル。ここから出る方法ってあるか?)
(もちろんある。出れもしないダンジョンを作ると思うか?)
ごもっとも。
(我が転移魔法を使うので、近寄れ。このダンジョンの真上は世界樹の中心だが、そこでいいか?)
(いいぞ。よろしくな)
「
魔術・空間Ⅴで使える魔法、テレポート。そこまで長い距離は移動できないが壁があろうと一瞬で移動できる万能魔法だ。
足元が光り輝き、その光が俺たちを包む。そして俺たちの体は宙に浮き、転移した。目を開いてみればそこは青空の下で、久しぶりの陽光がとても眩しかった。空気もおいしいし、風も気持ちいい。踏みしめる大地の感覚も……感覚も……あれ? 大地は?
下を見ると、数百メートル先に俺の探していたものがあった。
「ええええええぇ!?」
ここ、空中じゃねえか!
(どういうことだよリル!)
(すまぬ、どうやら座標を間違ってしまったようだ)
(すまぬで済むか! 死ぬじゃねえか!)
(そう慌てるでない。かな嬢が何とかしてくれる)
(え? かなが?)
そう思ってあたりを見直すと、かなもまた同じように落ちていた。その表情は驚いているようにも見えたが、次の瞬間にはニヤリと笑みを浮かべた。まるで、やりたことができる、そんなことを考えてそうな顔だった。
「
それはかなが黒虎人に進化したときに手に入れたスキル。詳細は見ていなかったが名前からするとその効果は――
そんなことを考えていると、かなは頭から落ちていたのを空中でぐるっと回して頭を上に向ける。そして俺の方に向き直り、踏み込んだ。いや、空中で踏み込むとか意味が分からないが、実際に踏み込んだんだから踏み込んだのだ。
空中で二段ジャンプしたと思えばいいのだろうか。そして俺の体を抱え、さらにスピードを上げる。
いわゆるお姫様抱っこされている俺はといえば、優雅に景色を楽しんでいた。見渡す限りの背の高い木が次々と流れていく。恐らくリリアの家に向かっているのだろう。かななら魔法ですぐに家の場所が分かるからな。
その後もかなは空中を何度もジャンプし続けて、かなりの距離を進んだ。どうやら高速飛翔とは羽がない生物が使うと空中でブーストするだけのものになるらしい。移動は基本的に自由落下で、そこまで高速とは言えないが歩くよりは断然早い。
羽がある生物が使ったのなら空中で加速する、というスキルになるらしい。
そして、ついにそれが見えてきた。
「へぇ、あの家ってこんなに大きかったのか」
周りの木と比べてもひときわ大きいその木は、一日ぶりに帰える今の我が家だった。
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