身に着けた力
俺の腕がブレるように震え、一閃を放つ。大ぶりの攻撃が、銀狼を襲う。先頭を走っていた銀狼の口を切り、そのまま首元まで裂く。即死だな。
狼は賢いと聞く。それが本当なのかはわからないが、仲間がやられたことに気づいた銀狼は、左右に分かれ広くはない通路で挟むようにして攻撃を仕掛けてくる。相手の攻撃手段は爪により切り裂きと牙による噛みつきだろうか。だったら、ゼロ距離戦闘は避けられないはずだ。
ハードストライクの硬直が俺を襲う。ほんの数秒だが動けない状態となる。その間に、銀狼は攻撃を仕掛けてくる。もしかしたら、本当に賢いのかもしれない。
まあ、もちろん俺に勝てるほどではなかったのだが。
「
剣術Ⅱで使えるようになる技。しんさん曰く剣術で最も発生と振りの速い技で、あらゆる硬直、タメを解除して攻撃を放つことができるらしい。ハードストライクをためるふりをして、クイックカット。そんなことをされた時には発狂ものだろう。
というか、格ゲーっぽいよな、こういうところ。格ゲーなら、それなりに得意だぜ、俺。黒江がいない間に一人で練習し続けた甲斐があったというものだ。
大きく右に振り切っていた腕を無理やり捻り、右から噛みついてくる銀狼の首を剣でなでる。それだけでその首は切り落とされ、体の勢いは失われた。
「
剣術Ⅱで使えるようになる技で、剣術唯一の防御技らしい。発生が早く防御力は剣の耐久力依存、防ぐ瞬間に相手の攻撃をはじくように手首をひねり、そこから追撃を狙える。格ゲーにおいて最強と言える技だろう。格ゲーではないのだが。
背中に剣を回し、銀狼の噛みつきを防ぐ。はじくように剣を振るい、体を浮かせる。
「
その隙を見逃さず、即刻追撃を放つ。この場での戦闘は、危なげもなく俺の勝利で幕を閉じた。
剣術とは、しんさん曰く体を無理やり動かして発動する技の基本形。自分の意思に関係なく発動したらその技を勝手に使える。ゲームで言うコマンドと何も変わらない。だからこその、格ゲー。入力するコマンドを間違えなければ、圧倒的な力の差でもない限り負けることはない。だが、この世界で格ゲーの感覚をつかめているものなどそうそういないだろう。そういう点では、俺は有利なのかもしれないな。
発生、振り、硬直、リーチ、コンボ。そんなことを考えながら戦える人間が、この世界には何人いるのだろうか。俺はもしかしたら、合法チートを発動しているのかもしれない。まさか、あんなに絶望的だった状態からここまで戦えるようになるとは、思いもよらなかった。
まあ、星銀の剣というチート武器があるというのも大きいのだが……。
《報告:レベルが上昇しました。レベルが19になります》
《報告:『精神強化Ⅷ』のレベルが上昇。『精神強化Ⅸ』になります》
《報告:『気配察知』を獲得しました》
お、レベルが一気に上がったな。精神強化のレベルもまた上がったし、気配察知も手に入れた。これは上々だ。
(かな、そっちは終わったか?)
(うん、終わった。楽勝だった)
(そうか、よかったよかった)
かなの元に戻ると、そこには血だまりがあった。しかし死体などなく、その体が粉砕されたんだろうなと予想できる。かなの攻撃力は本当にすごいので、防御力100ちょっとではこうなるのが妥当だとすらいえる。可哀想だとは思わない。だが塵の一つも残らないというのは切ないなとは思った。
俺には関係のない話なのだがな。
(じゃあ、先に進むか)
(うん)
今度はわき道にそれてみた。最初に来た銀狼が通っていた道だ。敵が来る、ということはそちらに何かがある。そんな安直な考えではあったが、あながち間違っていなかったようだ。
新たに手に入れた気配察知、これは扱いが難しい。発動してみると壁越しでもその輪郭はうかがえるが、色も正確な大きさも相手との距離もおぼろげにしかわからない。モザイクをかけられているかのように乱れているし、本当に気配をなんとなく察知しているとしか思えない。それでも相手がいるかいないか、それを判断するだけなら容易にできる。
この道を進んだ先に、十数体。少し開けた場所になっているようで、かなりの数の魔獣がいる。恐らく、狼。大きさは、銀狼よりも小さいだろうか。それでもこれだけの数ともなれば、かなりの脅威となりえる。気配察知を持っていないのかこちらには気づいていない様子だが、気づかれて囲まれたらひとたまりもないだろう。
(かな、広範囲攻撃魔法を使ってくれ。この先にかなりの数の狼がいる。恐らく反射はされないだろうが、その魔法に気づいて増援が来る可能性はあるから、それだけは注意してくれ)
(わかった)
狼たちは寝そべっていたりゆっくりと歩いていたり、思い思いの時間を過ごしているようだ。
何かがあるかもしれない、という予想は当たっていたようだが、さっきの銀狼がここから来たという予想は外れていたようだな。そうでなかったらあそこまで気が緩んでいることはないだろう。
俺達としては楽なのでいいのだが。
「
かなが前に腕を突き出し、そんな呪文を唱える。その手のひらから赤い光が飛び出し、通路を進んでいく。しばらく進んだのち、弾けた。パッと輝き、熱風が吹き荒れる。
「
俺達の目の前に半透明の壁が現れる。アークプリズムに似ているが違うらしく、熱を完全遮断する魔法らしい。かなりすごい効果だと思うのだが。これを全方位に作れば溶岩に落ちても死なないってことだもんな。いや、やりたくないが。
そして熱風は遮られ、遠くで渦巻く炎だけに目を向けていた。これは、オーバーキルかもしれない。気配察知によって見えていた十数体の狼がすべて、一瞬にして消滅した。どうやら生物の気配を察知するだけのスキルだったようで、かなの魔法発動と同時に死んだのか、一瞬で気配がすべて消えた。
や、やばいな……
(ナイスだかな。もう終わったぞ)
(うん。レベルも上がった?)
《報告:個体名かなのレベルが上昇しました。個体名かなのレベル18になります》
わーお。一気にレベルアップですね。他には何かあるか?
種族:獣人・黒猫人
名前:かな
レベル:18
生命力:399/399(+252) 攻撃力:1542(+1345) 防御力:593(+439) 魔力:382/405(+329)
状態:制約・隷属
スキル:魔爪Ⅶ、魔術・精霊Ⅷ、精霊召喚、精霊使役Ⅹ、精神強化Ⅶ、銀月
権利:精霊使役権
ステータス、スキル共にかなり強力になっている。魔爪などは一気にレベルが上がっているらしく、Ⅶとなってる。魔術・精霊もⅧとなりより多くの種類、そして強力な魔法を使えるようになっているのだろう。それに、ブレイカーによる補正値も大きく増えている。
そして、銀月を手に入れている。銀月は結局効果のほどを見ることはできなかったが、しんさんに詳しく話を聞いたところ毛に魔力を籠めることにより発動できるらしい。かなは人型となり毛の量が減ったとはいえ元獣。適性があり銀狼から継承されたということだろう。
戦力は大幅に増大、頼もしい限りだ。俺のレベルも19となったことでそれなりのものとなった。それでも俺よりレベルが低かった銀狼よりも俺のステータスは下だ。人間弱すぎではないか? それとも俺が弱いのか?
そんなことはどうでもよく、狼のたまり場を突破した。あんなにたくさんの狼がいたということは、こちらが進行方向で間違いないだろう。
(さあ、行くぞかな。気を抜くな?)
(うん。頑張る!)
改めて気合を入れて、俺たちは進んでいく。
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