ボス部屋
狼のたまり場を過ぎてからすでに数十分、ひたすら同じ景色が続く通路の少し奥に気配を見つけた。
(かな、止まれ)
(うん)
俺の言葉に反応して、かなは足を止める。反射神経に優れるかなに先行してもらっていたのだが、これには気づけなかったようだ。気配察知で待ち伏せをする輩を発見したので、呼び止めた。それと同時、かながあと一歩踏み入れればそこにいたであろう場所に、閃光が走る。かなはそれを、目で追っているように見えた。
「
かなの爪の部分から、青光りする波動が飛び出す。そして、閃光の向かった先に、ぶつかる。
魔爪Ⅴで使える技、爪波。魔力を爪から放つ技。剣術Ⅴにも同系統の技、真空斬があるが、今はどうだっていい。
閃光のように見えたそいつは、高速で動く狼の攻撃だったようだ。あれだけの速度で動いたためか硬直が長く、動けなかったところに爪波を食らい、傷を負う。
爪波の威力は低いので、絶命には至らなかったようだ。かなに対し牙をむき、警戒の目を向けている。
攻撃を食らってすぐバックステップを踏み、すでに距離を開けているそいつ。こういう状況になったら落ち着いて敵のステータス確認だ。
種族:魔獣・光狼
名前:なし
レベル:39
生命力:248/598 攻撃力:836 防御力:493 魔力:132/292
状態:正常
スキル:魔牙Ⅴ、神速、気配察知、魔術・光Ⅱ
権利:基本的生物権、魔術使用の権利
《神速:光の速さで攻撃を仕掛ける。魔力を大量に消費する》
なんだかとても強そうなスキルを持っているが、これが先ほど閃光のように見えた原因だろう。
そして魔術・光。闇があれば光もあるのだろうなとは思っていたが、案の定あったな。闇空間と対となる光空間とかあったら面倒なので警戒していくとしよう。
レベルは先ほどまでとは一線を画す39。今まで戦ったことがあるやつらには40越えも数体いたが、それらにも匹敵しそうなステータスを持っている。
何より高い攻撃力が目を引く。レベル39でこれならばレベル50になるころには余裕で1000を超えているだろう。まあ、かなのほうが高いのだが。
そして少し笑えるのが生命力。比較的威力の低い爪波ですら300以上の威力を叩きだしたようだ。光狼の防御力は500近くあるというのに、流石だな。
光狼はすでに右足を負傷、右目を失明、右半身に大きな損傷。爪波を受けた右側に大きなダメージを負っている。もう一度神速を使うために必要な魔力も足りていないらしく、勝ち目はないだろう。
ここは仲間を呼ばれても厄介だ。そう考えて、かなに声をかける。
(かな)
(うん)
「
魔爪最速の技、マッハクローが光狼を襲う。光狼は反応する暇もなく、絶命した。
《報告:個体名かなのレベルが上昇します。レベルが19になりました》
おっと、追いつかれてしまったな。次は俺の番ってことだな。
(かな、ここからは俺が先に行く)
(わかった。頑張って)
(もちろんだ)
そう意気込んで、通路をさらに進むこと数時間。何の根拠もなく進んではいるものの、行き止まりなどもないため引き返すための区切りもつかない。そういう理由で進み続けるしかなかったわけだが……。
「これは……ボス部屋、だな」
「にゃぁ……」
かなも思わず素で感嘆の声を上げている。俺達は光狼を倒してからもたびたび狼に襲われながらもまっすぐ進んできた。
闇狼、黒狼、風狼、炎狼、土狼、水狼、エトセトラ。
それぞれの強さは光狼と同じかそれ以下。特に問題なく倒すことができた。苦戦というほどの苦戦ではなかったが、その中で最も脅威だったのは水狼だった。
そいつが持っていたスキル、水月華が厄介だったのだ。
水月華とは魔力を体に通すことにより、ほんのわずかな間だけ体を液状化させられるスキル。神速のようにかなりの魔力を使うが、見切られやすい剣術を使うとタイミングを合わせて交わされる。
そこからのカウンターはかなり強力で、俺も攻撃を食らいそうになった。しかしそこで返す刃で放つ剣術、スネークスラッシュで対応し、何とか事なきを得た。
残念だったのは俺が水月華を手に入れられなかったことだろう。適性がなかったか、運が悪かったか。どちらにしても手に入れられなかったことをいつまでも悔やんでも仕方がないので、忘れることにした。
レベルは22まで上がり、剣術のレベルもⅥとなり、順調に力を付けている。
自分でも上々だと自負している。
で、だ。そんな俺たちの前に現れたのは、大きな扉。高さが三十メートル近く、幅は十数メートルの両開きの巨大な扉がそこにあった。素材は金属のようで簡単には壊せなさそうだ。扉の奥は気配察知の効力の外らしく、同じく解析鑑定にも反応するものはない。恐らく特殊な結界か何かが発動しているのだろう。
そしてこの漂う雰囲気からして、中にいるのはボスだ。ここまでの魔獣を見てわかる通りこのダンジョンは狼主体のダインジョンのようなので、きっとボスも強い狼だろう。
レベル40か、50か。はたまたそれ以上か。そんな強力な個体が中で待っているだろう。
俺たちをこのダンジョンに招いた本人だと少しは楽なのだが、そう簡単にはいかないと予想しておく。
世の中、楽観的に考えていた時に突き付けられる絶望が一番怖いのだ。この先のボスを倒したところで、そいつは四天王中でも最弱、とか言ってわんさか敵が出てきたら間違いなく泣く。
そのときはかなに本気を出してもらうとする。
(じゃあ、行くか)
(うん。楽しみ)
(……かなが戦闘狂になりそうで俺は悲しいよ)
(ん?)
何を言っているのかわからない、みたいな顔だな。まあ、分からなくたっていいさ。どうせここから先で始まるのは殺し合いだ。それくらいがちょうどいいもんな。
さあ、バトル開始だ。
俺は、重く冷たい扉を開け放った。
「――――――」
全長十メートル前後、そんな大きさの狼が咆哮を上げる。まあ、聞こえないのだが。口元を上に向け、遠吠えのような声を上げているのだろう。
紫と灰色が混合したような毛皮を持つその狼はその
そう、なんとその狼は、首を三つ持っていた。
種族:魔獣・ケルベロス
名前:なし
レベル:48
生命力:783/783 攻撃力:790 防御力:1254 魔力:923/923
状態:正常
スキル:魔牙Ⅳ、魔爪Ⅴ、自然回復Ⅶ、状態異常耐性Ⅴ、物理攻撃耐性Ⅳ、魔力自動回復Ⅲ
権利:基本的生物権、自己防衛の権利、自己回復の権利
称号:圧する者
《圧する者:覇気を放つ。覇気を浴びたものは状態:萎縮に変更、攻撃力に下降補正発生》
状態:萎縮ってなんだ?
《『状態:萎縮』とは相手に気圧されて攻撃力が低下する状態です》
まさにボスって感じのスキルとステータスをしてるな。これは厄介そうだ。
圧する者の効果が発動しているのなら俺たちは今状態:委縮、攻撃力に下降補正がかかっているはずだ。物理攻撃態勢Ⅳもあるようだし、天敵とすら言えるのではないだろうか。
《その認識は間違っています。『圧する者』の効果は『精神強化』により無効化されています》
お、そうなのか? やっと役に立ったな精神強化。じゃあ、まだまだ勝ち目はあるな。俺とかなが完全に内部の部屋に入った時、扉が勢いよくしまった。ここもゲームなんかと似ているな。
この部屋は半径五十メートルほどの半球型のようで、かなりの広さがある。ケルベロスが思う存分暴れられるように、という設計だろうがこれは俺たちにとっても有利と言えるんだよな。
(かな、魔法の出番だぞ)
(わかった)
そう、こちらには遠距離攻撃ができる魔法がある。わざわざ物理攻撃に頼るまでもないのである。
「
ケルベロスに向けられたかなの手のひらから、赤い光が放たれる。その光がはじけた時、それが開戦の合図となった。
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