模擬戦

 リリアとともに逃げ帰ってきた翌日、俺とかなは家の周りの植物を採集していた。特に理由などないが、やることがないので仕方ない。リリアにこの家から離れるなと言われてしまっていて、この辺を散策するしかないのだ。

 植物は植物で生物なので、一応引っこ抜いたら倒した判定になり経験値がもらえるっぽい。かなが見守る中料理なんかに使えそうな草を解析鑑定で調べた名前基準で適当に百本くらい抜いたあたりで、俺のレベルが上がったのだ。これで、かなとまた話ができるようになった。


(あっ、主様。大丈夫?)

(ああ、大丈夫だ。それにしても植物でもレベルが上がるんだな。これはいいことを知れた。かな、この辺の草をむしってみよう。できれば邪魔そうな草だけをな)

(わかった。やる)


 雑草っぽいものを狙って家の周りの草を抜いていく。基本的にレベル1というのもあり百本くらい抜いたら一レベルあがる、というペースだった。そんなこんなで、その日は一日中草むしりに励み、俺とかなのレベルはどちらも12になったのだった。


 ちなみになぜか俺もかなも精神強化のレベルが上がっていた。俺がⅧ、かなⅦになっていた。精神強化の特性だが、どうやら殺せば殺すほどレベルが上がるっぽい。俺はまでに三度レベルが上がったが、すべて殺した直後だった。物騒な話だが、殺しによって自分の精神を鍛えているのだろう。


(リリア、喜んでた)

(ああ、よかった)


 とってきた草をリリアに渡すと、喜んでくれた。暗かった顔が少しばかり明るくなっていたので、俺としても嬉しい限りだ。そしてその日の夜ご飯には俺たちがとってきた草のサラダが出てきた。草というか、普通に野菜だったらしい。こういう時は本当にリリアの植物図鑑が羨ましいと思ってしまう。俺では植物がどのような用途で使用可能なのかが全く分からないからな。

 そして翌日。また三人で寝て、その日の朝にはリリアから不思議なものを渡された。


「これは、なんだ?」


 フラスコでいいのだろうか。科学の実験で使うような丸っこいガラスの容器を渡された。中には緑色の液体が入っている。


 これは、なんだ? 全く分からないのだが……。あれか? ゲームで言うポーションってやつか? でも、何のポーションだろう。解析鑑定で分かるか?


《報告:『解析鑑定』にて対象の詳細が判明。表示します》


 おっ。素晴らしきかな解析鑑定だな。便利すぎる


名前:ローポーション

効果:生命力を全体の一割回復する


 なるほど。しょぼいな。まあ、その辺の雑草から作ったと思われるから仕方ないのだが。それにしても朝キッチンでご飯以外も作っているなと思ったら、これだったのか。というか、キッチンで作っていいものなのだろうか。


《『植物図鑑』の権能にはポーションの作成方法の提示、及び作成技術補正が含まれているので可能です》


 あー、そんなこともできるのか。やっぱり便利だな、植物図鑑。俺も欲しいよ。しかし、こんなものをもらっても困るよな。収納する場所もないし……。どうしたものか。

 俺が困り顔を浮かべているのを見て取ったのだろう。リリアが二階に向かった。物置部屋にでも行ったのだろうか。しばらく待っていると、リリアが何やら袋を持って帰ってきた。それにしまえってことか? 

 大きさは腰巾着くらい。ちょっと無理があるんじゃないか?


 そう考えているとリリアが手を差し出してきたので、持っていたポーションを渡す。正解だったようで、リリアはそれを受け取り、袋にいれようとする。いや、だから無理があるだろ。袋の口は通ると思うが全部入れることなんて……と思っていたら、ポーションはすっぽりと袋に入ってしまった。

え? 冗談だろ? 袋は膨らんですらないぞ? どういうことだ?


《報告:『解析鑑定』にて対象の詳細が判明。表示します》


名前:アイテム袋

効果:入れ口に入る物体を一定容量収納できる


 ああ、そういうやつか。いわゆる魔道具ね。一個一個の大きさはかなり制限されるが、それでも色々入れられそうだな。リリアが貸してくれるようなので、ありがたくもらっておく。これからは活用させてもらうとしよう。それにしても、リリアは本当に優しいよな。俺ってば一応奴隷なのに、全然それっぽい事させられてないし。まあ、奴隷は名目上だけ、って感じだよな。

 本当にありがたいことだ。


 鬼人に捕まった時は人生終わったと思ったが、こんなに優しい人に買ってもらえてよかった。まあ、買われること自体嫌ではあるが。


(主様、かな、お外行きたい)

(あー、わかった。ちょっとだけな?)

(うん)


 かなの要望に応えて、外に出ようとする。リリアは引き留めてこないので、いいということだろう。そして外に出て、かなが何を始めたかというと、まず最初にブレイカーを呼び出した。何をするきだ? そう考えていると、突如かなとブレイカーとの戦闘が始まった。え? 仲間割れ? とも思ったが、違うな。模擬戦をやっているようだ。ブレイカーは明らかに手を抜いているしな。

 いつもより動きが遅いし、その攻撃をかなの腕が受け止めている時点で本気でないのは明らかだ。

攻撃力が1000近いブレイカーの攻撃を、かなが受けられるはずがないからな。

 

 そんな感じで、かなの模擬戦が始まった。明らかに体格に見合わない速度と攻撃力でもって勢いよく責めるかなを、ブレイカーはうまくいなして行く。ブレイカーのレベルは1だが、上位精霊としての本能からか、とても戦闘がうまい。

 一個一個の動きが洗礼されており、とても綺麗だ。闇雲なかなの攻撃をすべて受け流していく。そして決まった型なのか流れるような動作で反撃を仕掛ける。かなはそれを無理な態勢からでも交わすが、これもまたブレイカーが本気を出していないからギリギリ躱せているだけだろう。

 そんな状態ではあるものの、その戦闘は模擬戦として成り立っているようだ。ブレイカーは一定の力を保ち戦っているようなのだが、そのブレイカーと互角と言ってもよい戦いをかなは行っている。


 そんな模擬戦が、三十分ほど続いた。かなは疲労困憊、ブレイカーは生命力が半減していた。まともに殴り掛かられたらブレイカーでもかなりのダメージを受けるらしい。それにかなは魔爪を発動していたので当然と言えば当然だろう。

 だが、逆に言えばかなが本気になっても手を抜いたブレイカー相手には全く歯が立たないということだ。ステータスはやはり正義らしい。それでも、かなはかなり頑張ったほうだろう。


(かな、お疲れ)

(主様、どうだった?)

(すごかったぞ。さすがだな)

(えへへ……)


 かなは地面に大の字に寝転びながら、嬉しそうに顔をにへらと緩める。なんだかんだ言ってもかなが満足そうならそれでいいのだ。それに、かなが戦闘の経験を積んで悪いことは何もないしな。俺もやってみたいが……いや、やりたくないな。かなですら勝てないんだから俺など手も足も出ないだろう。


 かなの魔爪がレベルⅢになった。これでまた、攻撃力が上がってしまったな。かながメキメキ強くなっているようで、俺は嬉しいよ。このままレベルもたくさん上げて、一人で生きていけるくらいの力をつけてほしいものだ。かなだって新しい体を手に入れたのだし新しい世界を見てみたいはずだ。可愛い子には旅をさせよ、ってことだな。

 俺はリリアの奴隷として生きていくだろうから、たいして遠くまではいけないが、かなは別だ。俺と同じで喋ったりはできないが、それでも色々とできるだろう。モンスターひしめくこの世界だ。戦えるだけで有利なことはたくさんあるはずだ。


 俺も、強くなりたいなぁ


 そんなことを、不思議と考えていた。

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