精霊の力
(あれ)
(おお、熊だな)
かなの案内でついた場所には一匹の熊がいた。少し開けている場所でのっそのっそと動いている。見た感じ普通の熊だ。しんさん、よろしく。
《報告:『解析鑑定』により対象の詳細が判明。表示します》
種族:魔獣・ツインヘッドベアー
名前:なし
レベル:13
生命力:234/234 攻撃力:345 防御力:153 魔力:46/46
状態:正常
スキル:魔爪Ⅱ
権利:基本的生物権
なるほど、強いな。平均ステータスはリリアに劣るが、攻撃力はリリアよりずっと高い。まあ、リリアの攻撃力がレベルの割に低いと言われればそれまでだ。だって明らかに他のステータスと比べて見劣りしてたからな。まあ、ステータスやスキル的に魔法使いだから問題はないんだろうけど。
その反面、こいつは魔力が低い代わりにほかのステータスが高水準だ。それと、スキル魔爪が気になるな。
《魔爪:魔力を爪に籠める。それにより攻撃力の上昇。レベルにより攻撃力の上昇率が上がる》
なるほど、完全に物理攻撃に特化した魔獣なのか。その一撃は重く、食らったらひとたまりもない、みたいな。それに防御力がそれなりにあるのでいわゆる重戦車的な感じだな。だが、そのステータスのすべてがかなに劣る。かなは戦闘の経験などないだろう。だがな、レベル百相手にレベル一で勝つのは不可能なように、ここでも圧倒的なステータスの差を見せてくれるはず!
「
かなが魔法を発動したようだ。足元から光が沸き上がる。そして、そいつが姿を見せた。
《報告:『解析鑑定』にて対象の詳細が判明。表示します》
種族:上位精霊・闘妖
名前:ブレイカー
レベル:1
生命力:172/172 攻撃力:893 防御力:268 魔力:329/329
状態:制約・忠誠
スキル:闘気Ⅴ、狂戦士化、魔拳Ⅴ、魔術・精霊Ⅷ
権利:基本的生物権、魔術使用の権利
称号:狂拳士
《制約・忠誠:忠誠を捧げることにより交わされる制約。互いの位置情報の共有》
《闘気:魔力を体に纏うことにより攻撃力と防御力のステータスに補正。レベルによって補正値は上がる》
《狂戦士化:一切の魔法の発動を封じる代わりに攻撃力のステータスに大幅補正》
《魔拳:魔力を拳に籠める。それにより攻撃力の上昇。レベルによって攻撃力の上昇率が上がる》
《狂拳士:上位職『狂拳士』に与えられる。常に攻撃力に微補正。付属スキル:闘気ⅴ、狂戦士化、魔拳ⅴ》
これで、レベル1だと? ステータス、スキル、さらには権利、称号に至るまで俺やかなとは比べ物にならないぞ? いや、まあ多分種族としての差があるんだと思う。ただの人間の俺と、獣人のかな。それに比べてブレイカーは上位精霊だ。生物としての強さが違うのだろう。
《個体名ブレイカー:上位精霊。固有能力:拳の使い手》
《拳の使い手:打撃の威力上昇》
へ、拳だけに使い手ってか。普通に強いじゃないか。スキルと称号と固有能力だけで殴り合い最強と言えるだろう。元のステータスも高いし、近接戦闘で負けることはないだろう。
あれ? そう言えばかなについた固有能力の確認をしていないよな……
「――――」
ブレイカーが何やら咆哮のようなものをあげる。まあ、俺には分からないのだが。
その外見は人型だが体が橙色に透き通っており、それに足が地面についていない。体のいたるところから橙色の炎のようなものが出ており、その体が揺らめいている。身長は二メートル近く。全体的に細いが筋肉質で武闘家という感じだ。まあ、精霊の強さに肉体の見た目が関係するのかはわからないが。
そして拳や脛、腰回りにだけ鎧のようなものを身に着けている。その目は赤く光っており、なんとなく強そうに見える。
そんなブレイカーだが、気配だけで強いとわかる。リリアからは感じなかったが、なんとなく覇気のようなものを感じるのだ。漏れ出す魔力からか、それとも見た目からの威圧感か。それが何かはわからないが俺は何もされないとわかっていても気圧される。
そして、そんな気配に熊が気付かないわけもなく。
熊はこちらに向き直ると、後ずさりした。その二つの頭は、恐怖に染まっている。いや、なんで顔が二つあるんだよ。あ、というか名前にツインヘッドってあったな。まんまそういう意味だったのか。しかし、その凶悪な見た目のブレイカーの能力を見た跡では見劣りする。
熊が踵を返して逃げ出そうとした。
「
ブレイカーが魔法を発動した。その後熊の足元が輝く。光が収まった時には、熊の足は土に埋もれていて動けなくなっていた。四足を拘束された熊は慌てふためいている様子だ。
《エレメンタルフォース・アースバインド:地面を操作し相手の足を拘束する》
この魔法により熊の足を拘束したということだろう。強いくせに徹底しているな。と思ったら、熊との間合いを一瞬で詰めた。まさに消えたように見えた。見えたのは残像だけだった。この世界のステータスには素早さがないが、やっぱりそれも変わってくるのだろう。明らかに生物が出せる速度ではなかった。
そして、その拳を熊の脇腹に叩き込んだ。
「――――」
俺には分からないが、きっと熊が悲痛な声を上げているのだろう。脇腹を大きくえぐり取られた熊は、大量の血をしたらせ、倒れ伏した。
「……」
思わず言葉を失った。普通、殴っただけでわき腹えぐれるか? なんてえげつない威力をしてるんだ。それに、血が大量に飛び散る光景は俺には少し強烈だった。出来れば見たくなかった。
《報告:個体名かなのレベルが上昇しました。個体名かなのレベルが4になりました》
ほう、レベルアップとな? かなの制約精霊が倒してもかなの手柄ということか。というか、飛び級しすぎだろ。かながレベル1で相手がレベル13だったとはいえ、ステータスには開きがなかっただろうに。むしろ上回っていた。
《報告:個体名かなが新たなスキルを獲得。『魔爪』を獲得した模様》
何? 魔爪? それってツインヘッドベアーが持ってたやつだよな? どうしてそれをかなが?
《討伐した対象が持つスキルの中で討伐者に適性のあるスキルは一定の確率で討伐者に受け継がれます》
なるほど。同じ獣であるかなが熊からスキルを受け継ぐのはあり得ない事ではないわけか。というか、やっぱり強すぎだよな上位精霊。魔法が使えるのにあの攻撃力。遠距離からちまちま魔法を撃たれて痺れを切らして近づいたらカウンター食らうんだぞ? 恐怖でしかない。
《警告:隷属者かなのレベルが個体名司のレベルを超えました。状態:『制約・隷従』が保留状態になります》
ええっ!? どういうこと!? も、もしかして俺よりかなのほうがレベルが高いと隷属の効果が発動しないのか!?
《その認識で合っています》
なんでだよ! くっそ、このまま帰ってやろうと思ったが俺もレベル上げだ! さっきまで大丈夫だったことから考えるに同じレベルでも発動はするんだろう。さっきの熊と同じくらいの強さのやつを一体倒したら解決するんだ。かかってこい!
とは言ったものの敵がどこにいるのかわからない。制約・隷属が保留状態になったからか念話が通じないのでかなを頼るわけにはいかなくなった。せっかく話し相手が出来たのに一瞬で話せなくなるのは嫌だぞ!
ドドドッ、ドドドッ
そんな、駆けるような音が聞こえた。音のテンポ的に四足歩行の動物だ。かなり早い。それも、かな以上に。つまり、それなりの強さの生き物だろう。俺みたいに元が弱ければレベルアップだって早いはず。そう思って剣を引き抜く。後になって思えばまともに剣を扱うこともできないはずだが、必死さが勝って頭から抜けていた。
音が聞こえたほうに構える。姿はまだ見えない。恐らく木が邪魔になっているのだろう。熊の血に寄ってきたか、ブレイカーの強力な気配に対抗心を燃やしたか。どちらにしても、俺の得物になってもらう!
「―――――」
一見すると黒いヒョウ。だが尻尾が三つに枝分かれし、その全長が五メートルを超える大きな魔獣が、俺の目の前に飛び出してきた!
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