レベル

「――――」


 今回は命令ではないようで、言っている内容はわからなかった。あ、別に駄洒落ではない。だが何を言おうとしているのかは分かった。これを持て、と言っているのだ。

 それは何かの巻物と、剣だった。


――

―――――

――――――――


 時はさかのぼり少し前。

 リリアにたんまり野菜を食わされた俺は腸内環境が整っていく気がした。それに何となく肌につやが増した気も……はい、どっちも気のせいです。

 食器の片づけくらいやろうと思ったのだが座っててと言われて動けなくなった。こんなところでも強制力が働くのか、恐るべし。

 そんなこんなで結局食事を用意してもらって食わせてもらって片付けまでやってもらって至れり尽くせりだったわけだが、本当に奴隷としてこれでいいのだろうか。まあ、自由意志はほとんど皆無なのだが。

 本当に恐ろしいのは今まで一度も逆らえていないことだろう。意味が伝わる単語を告げられた時、俺の体はその通りに動くのだ。多少の間躊躇する猶予はあるらしいが、それでも三十秒もしない間に動かされる模様。きっと魔力をもっと籠めたらすぐに動かされるだろう。


 そんなことを考えながら、俺は自分のステータスを再確認している。


種族:人類・人間

名前:司

生命力:19/19 攻撃力:12 防御力:9 魔力:8/13

スキル:ステータス看破、森羅万象、魔力感知Ⅱ

権利:生きようとする権利


 魔力が減っているのはステータス看破を使ったからだろう。ステータス看破には通常魔力は1しか使わないようだ。パーティー会場でかなりの回数使ったが一分に1くらいは回復するので今はこんなもん。

 魔力もスキルなんかと一緒で使えば増えるのかと期待したがそんな簡単なことはないようだ。

今までが都合よすぎただけだろう。


《報告:ステータス看破の熟練度が一定に達しました》


 ん?また都合のいいことが発動か?


《ステータス看破の服権能が開花。副権能:レベル看破が発動します》


 また都合のいいことの様です。


名前:司

レベル:1


 はい、知ってました。どうせそんなもんだってな。というか、レベルってどうやってあげるんだろう。やはりモンスター討伐とかだろうか。正直無理ゲーだと思うのだが。


 そんなことを考えているとリリアがキッチンから戻ってきた。試しに使ってみるか。


名前:リリア

レベル:24


 う、うーん? 高い、のか? よくわからないな。俺は勝手に上限は100だと思っていたが……


《世界の書に示されている最高レベルは100になっています。なお、空前到達者はおりません》


 あ、やっぱり100なのか。だとしたらリリアもレベルは低いほうなのか? 逆に言えばここからまだまだ成長するということだが。魔力の能力値に関してはこれ以上伸びるのかと驚きだな。だってすでに四桁だったのだ。ポケ〇ンだったらありえないくらいのインフレだ。


――――ついてきて


 どうやらまた移動するらしい。


 そして連れてこられたのは同じ大木の、上の階の一部屋だった。この大木の中は中心部に部屋が四つほど固まっており、外側には大木の側面に沿って螺旋らせん状の階段がある。それがどれだけ続いてるのかはわからないが、少なくとももう一つ上はあった。そして連れてこられたその部屋はどうやら物置らしく、部屋中に物が散乱していた。

 ちなみに大木の中では薄く光る苔のようなものが照明の代わりになっている。

 それなりの明るさがあるので生活に困ることはないだろう。現代文明など必要なかったのかもしれない。


 で、その部屋の中をリリアがしばらく漁り、今に至る。


――

――――

――――――


 で、これを持て、と。得体のしれない巻物と、飾り紐がついていて鞘や柄の部分に金の装飾がされている豪華な剣。刀身の輝きが鋼とかではなく銀のようなものである、高そうな剣……。あの、受け取りたくないです。壊したらすごい怒らせそうな気がするので。とはいうもののいずれは絶対服従が発動されそうなので受け取るしかないのだろう。

 俺は諦めて両手でひとつずつ受け取る。


 森羅万象さん、これらが何かわかりますか?


《『ステータス看破』の自己進化を試みます。成功しました。派生進化により『解析鑑定』を獲得》

《解析鑑定:有機物無機物関わらず情報を読み取り、表示する》

《報告:『解析鑑定』により巻物の詳細が判明。表示します》


名前:制約の巻物

権能:対象を選択し状態『制約・隷属』を与える。


《制約・隷属:お互いの位置情報を常に共有。制約者同士での意思疎通を可能にする。上位者はある程度の命令権を有する》


 ええっと、つまり俺がパーティー会場で握らされたやつと同じようなやつってことか。奴隷よりずっと立場は楽そうだが。

 でさぁ、俺見つけちゃったんだよ。制約者同士での意思疎通を可能にする、だって。つまり、この制約・隷属を誰かに使えばその子とお喋る出来るってことじゃん! さらに言えばその子に翻訳してもらうことも可能、と。ただ、隷属というだけあってこちらにはある程度の命令権が与えられてしまうらしいから、そう簡単に相手が見つかることはないだろう。



 というか


「どうしてこんなものを?」


 まあ、聞いてもわからないのだが。こんなものを渡されるいわれはない。どうしてこんなものを渡されたんだ? 俺が弱すぎるから使い魔を用意しろ、とかだろうか。だったらありえるな。剣を渡されたことにも、納得がいく。俺の強化だろう。


《報告:『解析鑑定』により剣の詳細が判明。表示します》


名前:星銀の剣

耐久力:1500/1500 攻撃力:+1200 魔力:800/800


 ……あの、これ本当に俺がもらっていいやつですか?明らかに、明らかに俺にはふさわしくない。

耐久力1500? 俺の防御力の何倍だ?攻撃力+1200? 攻撃力が百倍になるのだが?魔力も800だと? リリアの魔力の半分以上を保有しているじゃないか。

 正直、今すぐにでも返したい。こんなものを持っていてはいけない。だが――


 俺は、視線を少し上げる。そこには、何かを期待するような顔で目をキラキラとさせるリリアの顔が。きっと、俺が喜ぶと思っているのだろう。


 ……


「や、やったー」


 俺は、出来るだけの笑顔を浮かべると同時に両腕を突き上げた。リリアは大変喜んでくれた。俺も案外ちょろいのかもしれない。


「――――」


 恐らく、行ってらっしゃいとでも言っているのだろう。大きく手を振りながら口の横に手を当ててリリアが何かを叫んでいる。その姿はすでに数百メートルほど離れているが、それでもすぐに居場所がわかるのは金髪が目立つからだろうな。


 俺は今、森に入っていた。そう、リリアの家がある森だ。そう、俺がこの世界に来てすぐに見えた地平線の先くらいにあった森だ。


《世界樹:世界の中心にある大森林。ハイエルフが管理していると言われている》


 ちなみにどうしてこの森と俺が見た森が同じだとわかるかというと、あれほど巨大で高い木を持った森がこの世界樹以外にこの世界に存在しないと森羅万象さんから説明されたからだ。

 というか、森羅万象さんとか言いずらいな。しんさんとかどうだ?


《了。これから私の個体名は『しん』とします》


 あ、行けるんだ。よろしくな、しんさん。


《よろしくお願いします》


 今思えば、このしんさんとも会話ができるのだから会話にこだわる必要はなかったかもしれない。人間、何かと話していないと不安になったりするので話し相手を求めたのだが、しんさんがいたではないかと。まあ、しんさんは本来話し相手ではないので使い方を間違っているし、現地人との会話も必要だとは思うが。


《私には雑談の相手になる権利が存在しないので、不可能です》


 え?でも今話しているじゃないか。


《個体名司の問いに答えることは可能ですがそれ以外は不可能です》


 ふむふむ、つまり俺から話題を振り続ければずっとお話ができるということかな?


《その認識で合っています》


 じゃ、また暇な時には話しかけることにしようか。


 俺は少しだけ嬉しくなって、足が軽くなった気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る